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藤の雨【5月短編】
【鯉のぼりを飾りましょう】
しおりを挟む兜を被り、柏餅を堪能した頃に坂口さんが庭先から戻ってきた。山で材料を集めて簡単な鯉のぼりを作ってくれたのだ。
最近になって知ったのだが、おみの性別は便宜上「おとこのこ」になっているが明確に決まっているわけではないらしい。大人の姿になるとはっきりと男性であると分かるが、今のこの小さい姿ではどちらとも言えないのだとか。
それで不便はなかったし、おみも「おみはおみだよー」と言っているので気にしていない。なにより、桃の節句も端午の節句も祝ってもらえるので、おみとしては嬉しいそうだ。
「おみ坊、ほれ、こっちこい」
「なにー?」
庭先には俺と同じくらいの高さをした太い棒が建てられ、上から黒、赤、青の鯉のぼりが悠々と空を泳いでいる。あまり高すぎてもよく見えないから、と高さを加減してくれたようだ。
青空の中を気持ちよさそうに泳ぐ鯉たちに、おみは喜びの声をあげた。
「まー! おそらとんでるー!」
「すごーい!」
「赤と青は、イネとマイの分?」
子供たちがわいわいとはしゃぎながら、棒の周りを走っている。自分たちのために作られたということがとても嬉しいのだろう。
こんなにも真っ直ぐに感情を表してくれるとこちらもやり甲斐があるというものだ。
「おみ、こいしゃんととびたい!」
「イネもー!」
「マイもー!」
「おみが大きくなったら、みんなを乗せてあげるってさ」
「わー!」
早く飛びたいねぇ、お空楽しみだねぇ、と三人で楽しそうに話している。どうやらおみには、また一つ目標が出来たようだ。
みんなを笑顔にするため。
そのために、また成長していくんだろう。
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