泣き虫龍神様

一花みえる

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喜雨【7月長編】

【線香花火】

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「キャンプといえば、花火やろ!」
「わー!」
    いつの間にかグランピングからキャンプに変わってしまったこの催しは、たぎさんの一声で最後のイベントを迎えようとしていた。明日も花火を見に行くと言っていたが、手持ち花火はまた違うのだろう。いそいそと大量の花火セットと水の入ったバケツ、そしてライターがたぎさんによって用意された。
    正直キャンプといえば花火よりもキャンプファイヤーな気もするが。下手なことは言わないでおこう。
「おみこれ!    この、たくさんのやつ!」
「それは線香花火だな」
「せんこー?」
    小さな打ち上げ花火やネズミ花火ではなく、「数が多い」という理由で線香花火を選ぶとは
おみもなかなか鋭いやつだ。
    線香花火って最後にするイメージがあるけれど、好奇心に囚われたおみにそんなことを言っても意味が無い。
    一本ずつ分けてあげて、先っぽに火をつけてやる。ぱちぱち。小さな音を立てながら火花が燃え始めた。
「わ、わわ」
「この玉を落とさないように、静かに持つんだぞ」
「しずかに……しーっ……」
「息は止めなくていいから」
    しゃがみこんで、じっと火玉の行く末を見守る。そういえば小さい頃は俺も線香花火が好きだったな。
    他の花火と違って派手じゃないし、なんだか緊張してしまうけど。なぜだか目が離せない。
「ぱちぱちいってる」
「うん」
「きれーだねー」
「そうだな」
    そんなことを話していると、ぽとりと火玉が落ちていった。そして突然、静寂が訪れる。どこか寂しげで切ない空気。
    夏にしか味わえない、特別な空間。
「おちちゃった」
「花火ってあっという間なんだよ」
「はえー」
「はい、もう一本」
    もしかしたら、おみたち神様にとって人間は線香花火みたいなものなのかもしれない。必死に火花を散らして、輝こうとして。でも、あっという間に消えてしまう。
    まるで最初からそこに何もなかったかのように。
    そうだとしたらこの切ない気持ちは、遺されていくおみたちの心境に近いのだろうか。
「はなびってふしぎー」
「そうだな」
「でも、おみ、はなびすき」
「俺もだよ」
    夏の夜に火花が舞う。
    どうか少しでもこの世界を輝かせられるようにと。
    おみの目に映るものが、どうか美しいものであれ。そう願わずには居られなかった。
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