263 / 276
喜雨【7月長編】
【虫刺され】
しおりを挟む
「りょーた、かゆかゆ?」
「んー……かゆい……」
「あらー」
蚊取り線香を焚いたものの、蚊に刺されることのない神様たちに囲まれていたため全ての蚊が俺に集まっていた。神様の血を霊力の無いものが摂取すると体が耐えられず死んでしまう。
それは血だけではなく、近くに居すぎることも同じ危険性をはらんでいる。そのため、俺はおみと一緒にお風呂に入れないし、特別なメガネで身を守っている。
とはいえ、俺にも多少とはいえ霊力がある。普通に生活している分にはなんの問題もない。だからこそ今回はすっかり忘れていて、腕や足が大変なことになっているのだが。
「薬を塗るといい。それにしても、見事な刺されっぷりだな」
「いーしゃ、りょーたかゆかゆ」
「すぐに治る。心配するな」
かゆいのは困るけど、外で寝たのは気持ちがよかった。自然に囲まれている感じがしたし、おみも嬉しそうだった。おみの笑顔のためなら虫刺されの一つや二つ(実際は十数個)何てことはない。
出会ってまだ一年とちょっとなのに。どうしてここまで情が湧いたかな。
明日、ということは山に帰る頃には痒いのも治まっているということだ。さすが宗像三女神お手製の軟膏。効き目が抜群すぎる。今日一日の我慢と思えば耐えられる気がする。
「明日にはもう帰るんか。寂しいねぇ」
「うふふ。私が帰る時と同じことを言うのね、たぎちゃん」
「しゃーしぃがねぇ、おきつ姉さんは」
ぽりぽり、蚊に刺されたところを掻きつつ、へらりと笑う。いいなぁ、家族だなぁ。学生の頃、俺もよく母親に言われていた。
もう帰るの? 早いわねぇ。あっという間だったわ。
その時は「そんなものか?」と思っていたけれど。家族が出来た今はその気持ちがよく分かる。俺とおみは、今はずっと一緒に居られる。でもいつかは離れ離れになるのだ。神様と人間だから、それは決まりきっている。でも愛しているから、きっと俺は死の間際にこう思うのだろう。
「もう会えなくなるのか、寂しいなぁ」
って。
「りょーた、おくしゅりぬるよー」
「はーい」
「ぬりぬりー」
おみの小さな手が、おいちさん特性の軟膏を塗りたくってくる。そんなに塗っても効果はあまり変わらないぞ、と言いたいけれど。
やっぱり、今はこの温もりが愛おしかった。
「ありがとな、おみ」
「かゆいのかゆいの、とんでけー!」
「どこに?」
「んー……かいちゃに!」
「かわいそうに……」
長い長い人生の、たった一夏。
その限りある日々の中で俺はひたすらにおみを愛おしむのだ。
「んー……かゆい……」
「あらー」
蚊取り線香を焚いたものの、蚊に刺されることのない神様たちに囲まれていたため全ての蚊が俺に集まっていた。神様の血を霊力の無いものが摂取すると体が耐えられず死んでしまう。
それは血だけではなく、近くに居すぎることも同じ危険性をはらんでいる。そのため、俺はおみと一緒にお風呂に入れないし、特別なメガネで身を守っている。
とはいえ、俺にも多少とはいえ霊力がある。普通に生活している分にはなんの問題もない。だからこそ今回はすっかり忘れていて、腕や足が大変なことになっているのだが。
「薬を塗るといい。それにしても、見事な刺されっぷりだな」
「いーしゃ、りょーたかゆかゆ」
「すぐに治る。心配するな」
かゆいのは困るけど、外で寝たのは気持ちがよかった。自然に囲まれている感じがしたし、おみも嬉しそうだった。おみの笑顔のためなら虫刺されの一つや二つ(実際は十数個)何てことはない。
出会ってまだ一年とちょっとなのに。どうしてここまで情が湧いたかな。
明日、ということは山に帰る頃には痒いのも治まっているということだ。さすが宗像三女神お手製の軟膏。効き目が抜群すぎる。今日一日の我慢と思えば耐えられる気がする。
「明日にはもう帰るんか。寂しいねぇ」
「うふふ。私が帰る時と同じことを言うのね、たぎちゃん」
「しゃーしぃがねぇ、おきつ姉さんは」
ぽりぽり、蚊に刺されたところを掻きつつ、へらりと笑う。いいなぁ、家族だなぁ。学生の頃、俺もよく母親に言われていた。
もう帰るの? 早いわねぇ。あっという間だったわ。
その時は「そんなものか?」と思っていたけれど。家族が出来た今はその気持ちがよく分かる。俺とおみは、今はずっと一緒に居られる。でもいつかは離れ離れになるのだ。神様と人間だから、それは決まりきっている。でも愛しているから、きっと俺は死の間際にこう思うのだろう。
「もう会えなくなるのか、寂しいなぁ」
って。
「りょーた、おくしゅりぬるよー」
「はーい」
「ぬりぬりー」
おみの小さな手が、おいちさん特性の軟膏を塗りたくってくる。そんなに塗っても効果はあまり変わらないぞ、と言いたいけれど。
やっぱり、今はこの温もりが愛おしかった。
「ありがとな、おみ」
「かゆいのかゆいの、とんでけー!」
「どこに?」
「んー……かいちゃに!」
「かわいそうに……」
長い長い人生の、たった一夏。
その限りある日々の中で俺はひたすらにおみを愛おしむのだ。
14
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。