いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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3章

3-1

 伯爵様との会話から三時間後、俺とノア様は旅支度を済ませて屋敷を後にした。早馬に乗るため荷物は必要最低限のものだけ。着替えなどは現地で適当に調達すればいい。大きな武器はあまりにも目立つため、護身用の短剣だけを胸元に忍ばせている。ノア様も同じようなもので、愛用の刀ではなくそれよりもずっと短いものを腰につけていた。どうやらヤコフ爺さんにこっそり注文していたようで、俺が持っている剣よりもまだ使い慣れているらしい。

 ここからポルテベラまで、どんなに急いでも三日はかかる。道中は山道もあり、野宿も考えられるだろう。かなり危険な旅になる。しかしノア様の決意は揺るいでいなかった。

「遅くなりました! この度、護衛に任じられました……」
「レオ、だよね? ジョシュアから話は聞いているよ」
「もったいなきお言葉! この身に変えてもロードをお守りします!」

 急なことだったので、護衛として集められる人間は限られていた。俺を含めて護衛は四人しかいない。そのうちの一人は農民のレオだ。正直そこまでの戦力にはならないが、こいつの純朴で真っ直ぐなところは交渉に役立つかもしれない。

 それにこの一ヶ月でかなり鍛えたこともあり、純粋な力仕事には向いている。

「よし、出発しよう。ポルテベラに到着するのは早ければ早い方がいい」

 ベルリアンを出るには大聖堂の前を通る必要がある。先日、王太子が崩御し連合軍が攻め込むと決まった時、大聖堂だけは何も反応しなかった。そもそも大聖堂はベルリアンに存在しているが、管轄は聖都サンジーリョにある総本山だ。だからベルリアンは大聖堂に干渉できない。その逆もまた同じで、お互いが不干渉の立場を貫くことで今まで均衡を保ってきた。

 当然、先日の戦いでも大聖堂、そして修道院は何もアクションを起こさなかった。連合軍に加わることもなく、ただ傍観しているだけに留まったが。果たして二週間後、もしノア様の言うとおり再び攻め込んでくることになったら次はどうするのだろう。そんな疑問を抱きつつも馬を走らせていると、大聖堂の前に人影が見えた。

 ふらふらとどこか覚束ない足取りで道の真ん中に進んでくる。慌てて手綱を引き、馬を止まらせる。黒いキャソックは間違いなくフルーレ司祭だった。

「司祭様、ご機嫌よう。お久しぶりですね」
「ロード・キャンベル……どこに、行かれるのですか……?」

 フルーレ司祭の目はどこか虚で、視線がウロウロと泳いでいる。ノア様に話しかけているつもりだろうが、一体どこを見ているのかわからなかった。普段は穏やかな表情のフルーレ司祭だが、今はまるで別人のように見えた。

 震えながら伸ばされた手がノア様の腕に触れようとした。さりげなく体を捻り避けていたが、フルーレ司祭は気にも留めず何かぶつぶつと呟いていた。

「なぜ、なぜあなたは神に逆らうのですか」
「僕には僕の信じる者がある。あなたと同じように」
「神こそが唯一、神こそが絶対……それはあなたもご存知でしょう?」
「どうでしょう。僕の信じる者とあなたが信じる者は少し違うかもしれませんね」
「なんと……なんと、不敬虔な……ああ、嘆かわしい、邪神に取り憑かれたのかもしれません、早く祈祷を」

 フルーレ司祭はノア様の言葉に反応しているのではなく、ただ自分の思いをポロポロこぼしているだけだ。こちらの話を全く聞いていない。これ以上は時間の無駄だ。

 ノア様もそう思ったのだろう、こちらに視線を向けて馬の手綱をギュッと握った。

「司祭様、僕はこれから急ぎの用事があります。神学論議はまた後日行いましょう」
「神は不敬虔なものを許さない……呪いがかけられているのです、あなたには」
「それではまた、ご機嫌よう」

 まだぶつぶつと独り言を漏らしているフルーレ司祭をその場に残して、俺たちはベルリアンを後にした。司祭の様子は気になるが、今はそれよりも一刻も早くポルテベラに向かう方が大切だ。

 俺よりも信仰心の強いレオたちは複雑な顔をしていたが、俺とノア様はそれに気づかないふりをして早馬を走らせた。

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