いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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3章

3-18

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 一晩経ち、ようやくノア様の熱が下がり切った。呼吸も穏やかで、後遺症も残っていないようだ。
「どこか痛むところはありませんか?」
「うん、大丈夫。もうすっかり元気だよ」
「それはよかったです」
 いつも通りの口調に安心する。ずっと手を握っていたから部屋の明かりを点け忘れていた。まだ夜明けには遠い。部屋は薄暗く、夜闇に慣れている俺はまだいいが、起きてすぐのノア様は何も見えないだろう。
 ランタンに光をつけてベッドサイドに置く。お互いの顔がよく見えた。
 だから、ノア様の目が大きく見開き、動揺しているのもはっきりと伝わってきた。
「ジョシュア、その目……!」
「ああ、色が変わっているそうです。でも他に影響はないので問題は、っ、ノア様!?」
 安心させようと口を開いたが、ノア様は全く聞く耳を持たず俺の方にグッと顔を近づけてきた。じっと視線を逸らすことなく、俺の目を観察している。鼻先が触れ合うほどの近さに驚いて、体が動かなかった。
 しっかり三回分、瞬きをしたあと。ノア様は苦しそうに俯き、ため息をついた。一体何があったのだろう。俺の目が少し変色したくらいで。どうしてノア様がここまで混乱しているのだろう。
 そんなことを考えていると。
「ごめん、応急処置だと思って」
「は? え、なに、っ」
 ノア様は手近にあった布で俺の目を覆った。そのまま強く結び、固く締め上げる。この流れは知っている。よくない流れだ。今までもこうやって目を隠され、手足の自由を奪われたあと散々施しを受けてきたのだ。
 しかしノア様は傷が癒えたばかり。そんな人に無理をさせるわけにはいかない。どうにかして抵抗しなければと思うが、両手を後で結ばれてしまったら逃げようがない。そのまま強く引っ張られ、ノア様が寝ていたベッドに押し倒された。シーツには温もりが残っていて、ノア様が普段使っている香水の残り香が鼻先をくすぐった。
 何が何だか理解できないでいると、腰にずしりと重みを感じた。
「絶対、僕に触らないで」
「ノ、ノア様……何を」
「見えなかったら多分、女の人とそう変わらないはず……僕も知らないけど」
 そう言って、ノア様は俺のスラックスを躊躇いなく脱がせ始めた。ヒヤリとした外気に触れて体が震える。下着と一緒に脱がされて、体を動かそうとしたら躊躇いなく性器が口に含まれた。
 温かい咥内で上から下まで丹念にねぶられる。すでにこの感覚を知っているせいか、すぐに硬さを帯びてきた。もう片手で収まらないほどの回数、俺はノア様から施しを受けているのだ。ノア様も俺のいいところを把握している。喉の奥を使って先端を吸い上げられると、喉の奥から悲鳴が溢れた。
「う、あ、っ、のあさま、……っ」
「んー……、んむ」
 いくら止めてもノア様は動きを止めてくれない。これじゃあいつもと同じだ。あっという間に流されて、また口の中に射精してしまう。必死に唇を噛み締めて我慢していると、突然口を離された。自分でもわかるくらい固く反りたっている。
 なんとか呼吸を整えようと息を吐いていると、聞き慣れない粘着質な音が聞こえてきた。グチュ、と何かが卑猥な音を発している。耳を澄ませると、ノア様の苦しそうな呼吸が聞こえてきた。一体何をしているんだろう。
 不意に花の甘い香りがしてきた。これは普段ノア様が使っているボディオイルだ。どうしてその香りが。
「ノア様、何を」
「ふ、っ……うぅ……」
「う、あ? あ、あああ、あ……っ!?」
 何か、ぬるつくものが性器の先端に触れた。そのまま硬い場所を切り裂くようにズルズル飲み込まれていく。熱くて、熱くて、溶けてしまいそうだ。何も見えないが流石に予想はできた。
 ノア様が、俺を飲み込んでいる。ノア様の中に俺が入っている。誰も触れたことのない場所に、俺が招かれている。その事実に気づいた瞬間、体がブルリと震えた。
「う、ぐ……、っ」
「ああ、あ、のあ、様、待って、待ってください、それ……っ!」
「ん、んぅ、ふ、っ」
 こんなこと許されてはいけない。今までだって決して正しい行為ではなかったが、これはどう考えてもダメだ。主人を抱くなんて。従者である俺が、主人の体を暴くなんて。
 あってはいけない。はず、なのに。
「はあ、あ、っ、あ、うぁ、あ」
 口からはどんどん濡れた声が溢れてくる。ノア様の中はとても熱くて、奥へ奥へと誘うように蠢いている。緩く上下に動かされると、頭のてっぺんまで快楽が弾けていく。少しずつ馴染んできたのか、ノア様の動きが大きくなってきた。抜けそうになる程腰をひかれ、そのまま奥深くまで飲み込まれる。
 口でされるよりも刺激が強く、涙が出そうだった。
 こんなの我慢できるわけがない。ただただ翻弄されるがままに射精を促される。俺の体に呼応するように、ノア様の中がいやらしく蠢いた。
「で、る……っ! でます、出る、ノア様……っ!」
「ふ、っ、ううー……っ」
「んああ、あ、っ、あああ……っ!」
 思い切り奥深いところまで飲み込まれ、強く締め上げられた。その衝撃に耐えられず、大量の精液を放出する。頭の中がビリビリと痺れる。腰を震えさせながら、何度も精を吐き出した。最後の一滴まで吸い上げるように中がきゅうきゅう締め上げてくる。
 ああ、いけない。
 ノア様を汚してしまった。
 口だけではなく、体までも。
「のあ、さま」
「はあ……はー……これで、少しはいい、かな」
「え?」
 するりと熱い指先が痣に触れる。細やかな触れ合いだったが、今は肌が敏感になっているらしい。わざとらしいほど大きく体が跳ね上がり、その衝撃にノア様も小さく喉を震わせた。
 本当に、繋がっているんだ。
 俺と、ノア様が。
「なんで、こんな」
 理由を聞いてもノア様は何も答えてくれず、ずるりと俺の性器を吐き出すと布で体を清めてくれた。その後何度か衣擦れの音がしたと思ったら、ようやく両手の束縛が解放される。
 目隠しを外す頃にはもうノア様は性も欲も感じさせない顔で、俺の目をじっと見つめていた。
「やっぱりこっちの方が効率的だね」
「なんの話、ですか」
「こっちの話。ジョシュア、看病してくれてありがとう。明日からもまたよろしくね」
 何一つ疑問は解決されず、逆に謎ばかりが増えてしまった。そんな俺を置いてきぼりにして、ノア様は寝る支度を始めている。
 あまり深く考えない方がいいのだろうか。
 混乱したままの頭で自室に戻り、頭を冷やすため汗まみれになった服を着替えようとクローゼットを開けた。その時、鏡で見た自分の目は普段と変わらない菫色のままだった。
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