いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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4章

4-2

 どっちつかずの気持ちだが、軍議はいつも通り行われる。伯爵様のテントには軍部長たちとノア様が集まり次の作戦について話し合っていた。俺は隅の方で静かに話を聞くことに徹している。以前は全く話を聞いてもらえていなかったノア様だが、今では会議の中心に居なくてはならない存在になっていた。
「もうすぐ連合軍の前線部隊とぶつかります。こちらも対策をしていきましょう」
「お前が言っていた連合軍の最新兵器とは何かわかるのか」
 伯爵様の言葉に、ノア様は静かに頷く。眉間にギュッと皺が寄っていた。
「これは推測ですが、多くの兵士に光魔法を仕える術を施していると思います」
「光魔法を? そんなことができるのか」
「できます。後天的に光魔法を与えられた人間がここにもいるでしょう」
 ノア様の言葉に、その場にいた全員が俺の方を向いた。いくつもの視線が集まり、思わず背筋がブルリと震える。どうすればいいかわからずノア様の方を見ると、申し訳なさそうに瞬きを送られた。
「ジョシュアは十歳の頃、突然光魔法を使えるようになった。おそらく実験だったのでしょう。神の血筋ではない人間でも光魔法を身につけられるように」
「十年経ってそれが実用化された、と?」
「おそらく。聖都と王都のアドバンテージは信仰心です。神の加護だと言えば喜んで人体実験に参加する」
 ノア様の言葉に、全員が静まり返った。光魔法を使うことで怪我を癒すことができる。また、物理的な攻撃であれば防ぐことも可能だ。生身の兵士を前線に置き、光魔法を展開することで俺たちを足止めすることができる。また、怪我をしても治癒すれば怪我は消え、また前線に立つことができる。
 何度でも、何度でも。
 魔力が尽きて、倒れてしまうまで。
「人道から外れている! そんなこと、神が許すというのか!」
「父上、逆です。神が許したから人道となるのです」
「間違っている……本当に神のすることなのか……?」
 伯爵様は大きなショックを受けていた。何度も自分の信仰心と領土への慈しみを天秤にかけ、葛藤してきたのだ。なんとか折り合いをつけたと言っていたが、それでも長い間かけて積み上げてきた信仰と忠誠を完全に消し切ることはできない。
 ましてや、人間を兵器にする実験を行なっていたことを知ってしまった今、その衝撃は計り知れない。
「ノア、悪いが……明日の進軍は、お前に任せていいか」
「かしこまりました。父上は早めにお休みになってください」
 それで軍議は終わりになった。ノア様は軍部長たちに、各隊にいる少しでも魔法を使える人間を集めるように言った。十分後、集められた兵士たちに明日の作戦を伝える。ノア様が直々に指揮をとるということで、兵士たちの士気は上がっていた。作戦自体も非常に簡単で、決して傷ひとつ負わせないというノア様の言葉に安心感も得ているようだった。
 簡単な軍議も終わり、俺とノア様はテントに戻っていく。
 少し疲れたような顔で、ノア様は羽織っていたマントを脱ぎ捨てた。
「大丈夫ですか、ノア様」
「うん、平気。明日の方がよっぽど大変だから」
「しかし本当ですか……あなたが前線の盾になる、なんて」
 ノア様の立てた作戦は、相手の光魔法をノア様の光魔法で相殺するというものだった。相手は後天的に光魔法を与えられ、使えるようになってまだ日も浅い。それに対してノア様は生まれた時から光魔法を使うことができる。魔力も多く、ぶつかり合えば相手の魔法を打ち消すことは容易にできるだろう。
 とは言っても相手の光魔法を全て相殺できるわけではない。だから、一部だけを打ち崩し、その隙に他属性の魔法で一気にこじ開けていく。光魔法は物理攻撃を防ぐことはできるが、魔法相手だと純粋な魔力量で勝敗が決まる。一点に空いた穴を集中的に攻撃することで、相手の陣を崩すことが作戦の目的だ。
「無駄に死者を出したくない。この中で魔力が一番多いのは僕だし、光魔法を使えるのも僕だけ。誰も血を流さないで済むのは、これが最善なんだ」
「俺も光魔法は使えます! ノア様だけが危ない目にあう必要は」
「ジョシュアはダメだよ。君は他の兵士をフォローして」
「しかし……」
 いくら言ってもノア様は俺の言葉を聞いてくれない。確かにノア様の魔力はずば抜けて多い。でも、だからと言って無限にあるわけじゃないんだ。魔力が尽きれば倒れてしまう。それに、最前線にいるということは誰よりも怪我をする可能性が高いのだ。
 フルーレ司祭に刺された時の光景が脳裏をよぎる。もう二度とあんな目に合わせたくない。なのに俺は、守ることもできないのか。
「ジョシュア。僕を信じて」
「……でも」
「お願い。今は信じたふりでもいいから」
 信じたい。大丈夫だと、無事でいてくれると、信じていたい。だったら俺にできることを全力でやり抜くしかない。光魔法がダメならそれ以外の魔法を使えばいいのだ。
 口の中に広がる苦くて渋い味をグッと飲み込み、俺は静かに頷いた。
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