いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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2章

2-1

 連日行われている軍議の中で、ついにノア様の意見が伯爵様に聞き入れてもらえた。攻撃型でも、防衛型でもない。包囲型を採用されたのだ。包囲型は防衛型と同じくらい兵士の数が必要になる。そういう反論も見越していたノア様は、ご自身の考えを紙にまとめていた。視覚的に説明する方が相手も納得しやすいそうだ。今までそんな方法は聞いたことがなかったが、確かに言われてみるとそうかもしれない。

 そんなわけで、ノア様お手製の説明用パネルを使って軍議を進めた。

「無事に採用されて良かったですね、ノア様」
「そうだね。かなり無理を言ったけれど」
「自覚あったんですか……」
「そりゃあね。僕が先の展開を知っていないとこんな戦術、誰も採用しないよ」

 軍議が終わり、自室へと戻るまでの間、俺はノア様に労いの言葉をかけた。毎日夜遅くまで勉強をし、この日のために何枚もの説明パネルを作成したのだ。採用された時は俺も嬉しかったし、きっとノア様も喜んでいるだろうと思ったけれど。

 なぜかノア様は、浮かない顔をしていた。

「鈍角くさび形から鋭角くさび形への移動式陣、これが僕にとっての絶対条件だ」
「しかしそれでは、相手が一点突破してこなければ意味がなくなってしまいます」
「そうだよ。だから言っただろう? 僕が先の展開を知っているって」

 そう言ってノア様は左手で唇を擦る。最近気が付いたけれど、これはノア様が何か考え事をする時の癖のようだ。以前はこんなことしていなかった。というより、考え事すらしていなかった気がする。

 あまり強く擦ると唇が荒れてしまうから控えて欲しいが、ご自分から領土について考えるようになったことは喜ばしい。だから寝る前に蜜蝋で作ったバームを塗ることにしている。そのおかげか以前よりも唇がふっくらしてきた気がする。

「くさび形陣形は本来、超攻撃的な陣形だ。それを取ることで相手は焦り、先に攻撃を仕掛けてくるだろう」
「そうですね。しかも鈍角だとかなり遠距離からの攻撃が可能になる。相手はかなり警戒するでしょう」

 鈍角くさび形は銃や弓で遠距離から攻撃することができる。また、飛び道具が主な武器となるので一箇所への集中砲火が可能だ。もちろんこちらは農民出身の素人兵士ばかりなので壊滅はできないが、混乱させるくらいはできるだろう。

 ただし、今回は実際に攻撃することはない。あくまで無血がこちら側の理想なのだ。相手の攻撃を防ぐこと、そして完全に包囲して戦意を削ぎ落とすことが目的だ。

「あえて超攻撃的な陣形を見せて、中央突破の攻撃をさせる。そうしたらすぐに精鋭部隊だけを使って鋭角くさび形に切り替え、残りの兵士で包囲する……これなら負傷者も出ないはずだ」

 ノア様の説明はとても簡潔で、パネルを用いていたこともあり説得力があった。それで伯爵様や部隊長たちも納得したのだが。俺には一つ、懸念事項があった。

 鈍角くさび形にしても、鋭角くさび形にしても、先頭にはおおよそ指揮官が置かれる。ベルリアンの場合だと伯爵様か父上だろう。鉄壁とも称される父上の力があれば満場一致で先頭に置かれると思っていた。

 しかし、ノア様はそれを否定したのだ。

 何があってもセオドラを先頭に置いてはいけない。そして、先頭に置くべきは。

「どうして、ノア様が先頭に行かれるのですか。あんな危険な場所」
「だからさっき説明したじゃないか」
「ですが、納得いきません! 防衛であれば父上が適任だ、次期領主である貴方を危険に晒すわけにはいかない!」
「だからだよ、ジョシュア」

 思わず張り上げた俺の声を、ノア様は優しく遮る。ここまでノア様のことを思って声を上げたのは生まれて初めてだ。危ないからやめてくれ、頼むから仕事をしてくれとは言っていたが、貴方のことが心配だと心から言葉にしたことは今まで一度もない。

 俺の心配をよそに、ノア様は、ふ、と柔らかく笑った。

「この策を提案したのは僕だ。もしもこれで味方に負傷者が出たら僕に疑いがかけられる」
「疑いだなんて、そんな」
「あんな若造に任せたからだと父上が責められてもおかしくない。それなら僕自身が責任を取った方が周りも納得する」
「しかし、ノア様」
「大丈夫、僕だって死にたいわけじゃないんだ。というより、何があっても生き延びたい。だから先頭に行く。ねえ、頼むよ、わかって、ジョシュア」

 確かにノア様の言うことは正しい。かなり無理のある作戦、まるで先の展開がわかっているかのような口ぶり、それだけではなくある日突然変わってしまったような人柄。ノア様が疑われる理由はたくさんあった。それを払拭するには自分が一番危険な場所に行き、無事に作戦を遂行するのが手っ取り早い。

 わかってはいる。わかっては、いるけれど。

「やっぱり俺は、心配です」
「優しいね、ジョシュアは」

 まるで駄々をこねる子供を諭すかのように、ノア様はそっと俺の肩に触れた。優しい温もりが伝わってくる。それだけで、なぜだか俺の気持ちは凪いでいった。

 俺は、俺にできることをとにかくしていこう。ノア様を守るために、騎士として、従者として。まだ彼の言うこと全てを信じられないでいるけれど、誰よりも一番近くで支えていたい。

 先を歩くノア様を追いかけるために、俺は早足で歩き出した。
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