雨音の記憶、君の影

金森しのぶ

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第25話 季節の窓辺で

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風薫る初夏の朝、咲良は白杖を手に、軽やかな気持ちで家の玄関を出た。
昨日書いた「未来の自分への手紙」が心のどこかで光になっていて、不思議と背筋が伸びる。

「行ってきます」
リビングで朝食の片付けをしていた母に声をかけると、母は「今日もがんばってね」と優しく見送ってくれる。
母の声の温かさが、毎日のはじまりに力をくれる。



昇降口では、健太が咲良を見つけて両手を大きく振った。
「おはよう、咲良ちゃん! 昨日の手紙、めちゃくちゃ気合入れて書いたぞ!」
奏人もすぐに合流し、ノートに「緊張したけど、書けてよかった」と綴って見せる。

「なんか、ちょっと大人になった気分だよね」
咲良はふふっと笑う。

「なあ、みんなはさ、未来の自分にどんなことお願いした?」
健太の問いかけに、咲良は少し考えて「私は“音楽と友達と歩く毎日”って」と照れながら答える。

奏人は「声で伝えられる自分」と書いたノートを、誇らしげに見せた。

「ぜったい叶うよ!」
健太が大きくうなずいた。



その日は、学年集会があった。
体育館の中は初夏の湿気が漂い、みんなで並んで先生の話を聞く。

「これからの季節、たくさんの行事があります。挑戦したいことはどんどん手を挙げてください」
担任の先生が呼びかけると、教室がわっとざわめく。

咲良は小さく手を握りしめた。
心の中で「私も何か、新しいことにチャレンジできるかな」とつぶやく。

集会が終わり教室に戻る途中、健太が「なあ咲良ちゃん、今度の“音楽発表会”に一緒に出てみない?」と声をかける。
「私で大丈夫かな……」
咲良は少し不安げに言う。

「みんなでやれば絶対楽しいよ!」
健太は屈託なく笑い、奏人も「一緒に出よう」と手話で伝えた。



昼休み、クラスの女子たちが集まって「咲良ちゃん、手紙なんて恥ずかしくて書けなかったよー」と照れ笑いする。
咲良は「でも、自分のことを考えるのってちょっと新鮮だったよ」と微笑む。

「そうだね。私も来年書くときは、もっと素直になろうかな」
そんな会話が自然と広がる。
教室の窓からは、緑がまぶしく風が通り抜けていた。



放課後、三人は音楽室に集まり、発表会の相談をする。

「どんな曲がいいかな?」
咲良がたずねると、健太は「明るくてみんなで歌える曲がいいな」とリクエスト。

奏人はノートに「ぼくはピアノと手話で“ありがとう”って伝えたい」と書き込む。
咲良はその言葉に心が温かくなった。

「じゃあ、みんなで“ありがとう”の歌を作ってみる?」
思いつきで言った言葉に、健太も奏人も「いいね!」と盛り上がる。

三人で歌詞を考え、メロディを作る。
健太は「ありがとう、ありがとうって言うだけで、なんだか楽しくなるよな」と言いながら、リズムを刻む。

奏人は静かにピアノを弾き、咲良がゆっくりと歌詞を紡ぐ。
三人の“心の音”が、初夏の音楽室にやさしく響いた。



家に帰ると、咲良は夕食のあと、母に今日のことを話した。
「音楽発表会に、みんなで出ることになったんだ。
“ありがとう”の歌を作ってるの」

母は驚きと喜びのまじった声で「素敵ね。楽しみにしてるわ」と言ってくれた。

「なんだかね、毎日がどんどん新しくなる気がする」
咲良はゆっくりと話しながら、未来の自分へ書いた手紙の言葉を思い出す。

“歩みを止めないでください”

あの日書いた言葉が、今日も自分の背中を押してくれる。



週末、公園の東屋で三人が集まる。
ピクニック気分でおにぎりを食べながら、みんなで「ありがとうの歌」を練習した。

「次は、どんな歌詞にしよう?」
「“仲間がいると元気が出る”とか!」

晴れた空、緑のにおい、みんなの声。
咲良は「見えなくても、こんなに毎日がきらきらしてる」と心の中でつぶやいた。

「きっと未来の私たちも、こんなふうに笑ってるよね」
咲良が言うと、健太も奏人も「もちろん!」と声をそろえた。

そして三人は、初夏の窓辺で、
新しい一歩をまた静かに踏み出していくのだった。

——季節は巡り、歩みは続く。
——未来への窓辺で、咲良たちは今日もそれぞれの音を響かせていた。
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