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第27話 言葉にならない気持ち
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発表会が終わった翌朝。
咲良は目覚めた瞬間、静かな充実感と少しの寂しさを同時に感じていた。
「ありがとうの歌」が響いたあの舞台は、もう過去のことになり、
今日はもう、いつもの日常が始まる。
朝食の食卓で、母が「昨日は本当に素敵だったね」と優しく声をかける。
「ありがとう」と返しながらも、咲良の心にはまだ、舞台の光と客席のざわめきが残っていた。
けれど、不思議と心の奥にぽっかりとした空白もある。
舞台で感じた「ありがとう」だけでは伝えきれない何かが、自分の中に残っているのだと咲良は気づいた。
*
登校すると、健太と奏人がいつも通り昇降口で待っていた。
「おはよう、咲良ちゃん!」
健太はいつもよりちょっと力強い声で手を振る。
奏人は、昨日の発表の余韻がまだ残るような穏やかな表情だった。
三人で教室へ向かいながら、
「昨日、すごかったな」「みんな喜んでたね」と
言い合うけれど、会話がふっと途切れる瞬間がある。
――なんだか、うまく言葉にできない。
みんなで頑張ったことも、もらった拍手も、
もっと伝えたい想いがあるのに、
「ありがとう」だけじゃ足りない――。
咲良は胸の奥でそう思っていた。
*
午前の授業中、先生が「昨日の発表会、どうだった?」とみんなに尋ねる。
クラスメイトたちが口々に「楽しかった!」「咲良ちゃんたちの歌、すごくよかった!」と言ってくれる。
咲良は「ありがとう」と笑って応じるが、
どこか、自分の本当の気持ちを言い表せていないような、もどかしさを覚える。
昼休み。
健太が「オレ、発表会のあと、お父さんに初めて“ありがとう”って言われたんだ」と照れくさそうに話す。
「うれしかったけど、なんか、それだけじゃない感じもしない?」
咲良もうなずく。
「うん。昨日、私もいっぱい“ありがとう”って言ったけど、
その奥にもっと伝えたいことがあった気がするんだ」
奏人もノートに「ことばにならないきもち」と書いて見せた。
三人はしばらく黙って、教室の窓から差し込む光を感じていた。
*
放課後、音楽室。
発表会の片付けを手伝いながら、咲良はピアノに触れた。
「“ありがとう”のあとに、何を伝えたらいいんだろう」
健太は「オレ、なんか、昨日のままじゃ終わりたくないな」とつぶやく。
「これからも、もっといろんな気持ちを伝えたい」
奏人も、そっと手話で「ずっといっしょに」と言った。
咲良はピアノの前で、ゆっくりと新しいメロディを探した。
「言葉にならない気持ち」が、音に乗ると少しだけやさしくなれる気がする。
三人は何度もピアノを囲み、静かに旋律を重ねる。
やがて自然と、歌詞のない新しい曲が生まれた。
「これが、今の気持ちかな」
咲良がぽつりと言うと、健太も奏人も笑った。
*
家に帰ると、母が「今日はどうだった?」と尋ねる。
咲良は「うまく言えないけど、心がいっぱいになった」と正直に話す。
「言葉にならない思いも、大事にしていいのよ」
母はやさしく微笑む。
咲良はその言葉に救われ、明日もまた、新しい“気持ち”を大切にしようと決めた。
*
夜、咲良はベッドの中で思う。
“ありがとう”や“うれしい”や“さみしい”――
どんな気持ちも、全部そのままの自分の一部。
明日はまた、どんな心が芽生えるのだろう。
——言葉にならない気持ちも、きっと音や手のぬくもりで伝えられる。
——咲良たちはまた、小さな一歩を踏み出していく。
咲良は目覚めた瞬間、静かな充実感と少しの寂しさを同時に感じていた。
「ありがとうの歌」が響いたあの舞台は、もう過去のことになり、
今日はもう、いつもの日常が始まる。
朝食の食卓で、母が「昨日は本当に素敵だったね」と優しく声をかける。
「ありがとう」と返しながらも、咲良の心にはまだ、舞台の光と客席のざわめきが残っていた。
けれど、不思議と心の奥にぽっかりとした空白もある。
舞台で感じた「ありがとう」だけでは伝えきれない何かが、自分の中に残っているのだと咲良は気づいた。
*
登校すると、健太と奏人がいつも通り昇降口で待っていた。
「おはよう、咲良ちゃん!」
健太はいつもよりちょっと力強い声で手を振る。
奏人は、昨日の発表の余韻がまだ残るような穏やかな表情だった。
三人で教室へ向かいながら、
「昨日、すごかったな」「みんな喜んでたね」と
言い合うけれど、会話がふっと途切れる瞬間がある。
――なんだか、うまく言葉にできない。
みんなで頑張ったことも、もらった拍手も、
もっと伝えたい想いがあるのに、
「ありがとう」だけじゃ足りない――。
咲良は胸の奥でそう思っていた。
*
午前の授業中、先生が「昨日の発表会、どうだった?」とみんなに尋ねる。
クラスメイトたちが口々に「楽しかった!」「咲良ちゃんたちの歌、すごくよかった!」と言ってくれる。
咲良は「ありがとう」と笑って応じるが、
どこか、自分の本当の気持ちを言い表せていないような、もどかしさを覚える。
昼休み。
健太が「オレ、発表会のあと、お父さんに初めて“ありがとう”って言われたんだ」と照れくさそうに話す。
「うれしかったけど、なんか、それだけじゃない感じもしない?」
咲良もうなずく。
「うん。昨日、私もいっぱい“ありがとう”って言ったけど、
その奥にもっと伝えたいことがあった気がするんだ」
奏人もノートに「ことばにならないきもち」と書いて見せた。
三人はしばらく黙って、教室の窓から差し込む光を感じていた。
*
放課後、音楽室。
発表会の片付けを手伝いながら、咲良はピアノに触れた。
「“ありがとう”のあとに、何を伝えたらいいんだろう」
健太は「オレ、なんか、昨日のままじゃ終わりたくないな」とつぶやく。
「これからも、もっといろんな気持ちを伝えたい」
奏人も、そっと手話で「ずっといっしょに」と言った。
咲良はピアノの前で、ゆっくりと新しいメロディを探した。
「言葉にならない気持ち」が、音に乗ると少しだけやさしくなれる気がする。
三人は何度もピアノを囲み、静かに旋律を重ねる。
やがて自然と、歌詞のない新しい曲が生まれた。
「これが、今の気持ちかな」
咲良がぽつりと言うと、健太も奏人も笑った。
*
家に帰ると、母が「今日はどうだった?」と尋ねる。
咲良は「うまく言えないけど、心がいっぱいになった」と正直に話す。
「言葉にならない思いも、大事にしていいのよ」
母はやさしく微笑む。
咲良はその言葉に救われ、明日もまた、新しい“気持ち”を大切にしようと決めた。
*
夜、咲良はベッドの中で思う。
“ありがとう”や“うれしい”や“さみしい”――
どんな気持ちも、全部そのままの自分の一部。
明日はまた、どんな心が芽生えるのだろう。
——言葉にならない気持ちも、きっと音や手のぬくもりで伝えられる。
——咲良たちはまた、小さな一歩を踏み出していく。
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