我ガ奇ナル日常譚 〜夢とリアルと日々ホラー〜

羽瀬川璃紗

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66 呪詛

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 呪詛っていうものを、垣間見た話。


 職場の先輩:ダイキさんの実家の近所に、問題のある爺さんが住んでいた。
 名前をタツロウと言うその爺さんは、いちゃもんをつける事で有名だった。


 その昔は資産家で、地元では有力者な家柄だったのだが、時代が変わりタツロウ爺の代では、細々と不動産関係を展開するだけとなっていた。

 だが彼は過去の栄光が忘れられないのか、家を新築する者が居れば『俺んちよりも小さいなあ!そりゃあお前でも建てられるわ!』とか、子供の就職が決まれば『面接官に幾ら渡したんだ?』とか、妬ましさの裏返しの様な嫌味をよく言ったという。

 最初の内は立腹していた近隣住民も、いつしか『没落貴族じじいの戯れ言』と相手にしなくなり、最終的に標的にしたのがダイキさん一家だった。

 仕事もとうに定年退職したタツロウ爺は、暇さえあれば1日中ダイキさん宅を観察し、『ゴミ出しがなってない』『焼肉の匂いがうちまで届く』などとどうでもいい文句を言った。


 ダイキさんが大学生の時、父親さんが尿管結石で緊急入院した。
 下宿先から実家に戻ったダイキさんが何気なく見た庭木に、真新しい釘が打ち付けられていた。

(親父か…?でも何の為に?)

 状態が落ち着いた父親との面会時に、ダイキさんはその事を話した。

「釘? 打ってねえよ。どの木や?」

「外の水道の、傍にある松の木」

「はあ? 俺は打ってねえよ。あの木は俺が生まれた記念に、お前の爺ちゃんが植えた木だ。そんな事はしない」

 父親さんに覚えは無い。代わりに抜くよう頼まれ引き抜くと、ものすごく長い釘だった。

(うちにこんな長い釘は無い。しかもこんな深いなんて、間違って刺してじゃない。敢えて突き刺したみたいじゃないか)

 ダイキさんはゾッとして、家族を呼んだ。

「誰がこんな事したんだ?」

「多分、タツロウ爺さんでしょ? いつ来てこんな事したか知らないけど」

「…釘刺さってたの、搬送された時にお父さんが物凄く痛がってた、腰の辺りと同じ高さだよね」

 妹の言葉に、ダイキさんや母親はものすごく恐怖を覚えた。


 ダイキさんの父親はその後2度入院をしたが、その度に松の木に何かされたのでは、と皆で確認したという。



 大学を卒業したダイキさんは、地元に戻り就職し、同僚だった奥さんと結婚した。実家から車で10分の所に土地を買い、マイホームを建てる事になった。

 完成間近のある時、ダイキさんは現場監督から呼び止められた。

「妙な事聞きますけど、昨日我々が帰ってから、ここに来られました?」

「いいえ。何でですか?」

「外壁に長い釘が打ってありましてね。昨日の作業中には無かった筈なんですが…」

 マイホームのリビングの外壁に、釘が打ってあったと言われたのだ。

(長い釘って、まさかタツロウ爺さん⁈)

 忌まわしい記憶が蘇ったダイキさんは、慌てて母親に連絡した。

『もしかしたら、もしかするかも…。あんたが仲良かった○○くんのお母さんから、タツロウ爺さんにダイキの事を根掘り葉掘り聞かれたって先月言われたの。犯人っていう証拠は無いけど、何たってそんなこと…!』

 実家からほど近いとは言え、ダイキさんの新居を特定するタツロウ爺の執念に、ダイキさんは恐怖を通り越し怒りが沸いてきた。


 それから数日後、ダイキさんは夢を見た。


 ダイキさんは実家近所を散歩していた。タツロウ爺の家の前に来た時、彼が石塀の所に潜んでいるのが見えたそうだ。

(何かあれ、俺が来るのに合わせて塀を倒して、下敷きにしようとしてるんじゃないか?)

 ダイキさんは塀の前に行った瞬間、サッと後ろへ後ずさった。
 目論見通り、タツロウ爺はめいいっぱい塀を押したが、勢い余って自身も崩れる石塀に巻き込まれる様に一緒に倒れ、石塀の下敷きとなってしまったようだ。

(あららら…。これは助けられないや)

 そこで、夢から覚めたという。



 夢から2,3か月後。タツロウ爺が急死した。だが、その亡くなり方が異常だった。

 その日、タツロウ爺さん宅では彼の孫娘の結婚式の二次会が行われていた。親戚が集まり、歓談と酒盛りで盛り上がっていたそうだ。

 宴が始まってどれくらいか、タツロウ爺にお酌しようとした親戚が、彼が眠っているのに気づいた。
 『酔いが回って寝てる』と思ったがタツロウ爺は、絶命していた。急性心不全だった。

 おめでたい席で、人が沢山いたのにも関わらず、誰もタツロウ爺の異変に気付かなかった。もしくは、気づいて貰えなかったのか。


 ダイキさんの見た夢は、まるでタツロウ爺の魔手を攻略した様だ。攻略されたため、彼は巡り巡って『自滅』したのか…?

 人を呪わば穴二つ。手を出してはいけない。『攻略』されたら、どんな代償があるか分からないのだから。

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