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母なるもの

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 テレビを点けると、変なアニメ映画をやっていた。


 昔々、『タラチネ』という存在が居た。

 タラチネは巨大な木魚の様な形をしていて、それでいて沢山の知恵を持ち、色んな生き物を生み出せる存在だった。

 タラチネはある無人島に上陸し、そこに自分が生み出した生き物を住まわせようと考え、『ウツセミ』を生み出した。

 ウツセミ達は順調に増え成長し、タラチネは色々な事を教え技術をも習得させた。農耕、狩猟、住居の建設、言語…。
 ウツセミは学んだ事を更に昇華させ、島で独自の文化を築いて行った。

 ただし、タラチネは唯一『生殖』に関してはウツセミ達に機能を持たせなかったし、知識としても与える事は無かった。

 それはタラチネが出産の役割を担っていたから、必要無いと判断したからだ。
 成体になったウツセミをつがいにし、タラチネが産んだ小さなウツセミを与え、つがいに育てさせるようにしていた。

 ウツセミ達は、タラチネを讃え崇めるようになった。絶対神とでもいうのか。
 確かに、ウツセミを産めるのはタラチネ唯一つだけだから、当然の事だったのだろう。

 ある時、いつものように出産すると、ウツセミでは無い、異形の生物が生まれた。異形の生物は誕生間もなく死んだ。
 それを境に、タラチネの死産が増えてきた。

『これはもうすぐ、自分の寿命が尽きるという合図だ』

 タラチネはすぐ悟った。

 自分亡き後、ウツセミ達はどうなるのだろう。知識と技術は与えてある。だが生殖能力は無いし、寿命もある。


 タラチネはその晩、海の底へ潜っていった。そして大きな鯛となり、島の浜辺へ打ち上がった。

 朝、鯛を見つけたウツセミ達はたいそう喜び、皆で分け合い、食した。

 鯛を食べたウツセミ達の内、頭側を食べた者は『男』、尾側を食べた者は『女』の生殖器官が出来た。

 こうしてウツセミ達はタラチネ無しに、子孫を残せる様になったという。


(ふーん、人類誕生の話みたいねえ…)

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