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神隠し
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私と夫は、娘を義両親に預け、所用で出かけていた。
所用が済み、帰宅中に私達は異変に気付いた。国道を車で走っているのに、他の車が1台も居ないのだ。
「え、何で他の車居ないの? 通行止めしてるのに気づかないで通っちゃった?」
「ちょっと待って、沿線の民家やお店、明かりも点いてなけりゃ人も居ない!」
停電かと思うも、信号や街灯は点いている。
私達だけが、誰も居ない空間に迷い込んだのだ。
勿論、義両親宅や近所の友人宅に行くも誰も居ない。電気やガスは使えるが、電話やネットは通じず、テレビもラジオも無音。
SNSにもメールアプリにも、誰も反応しない。
一夜明けても状況は変わらない。だが、近所で子供の泣く声がするので、声を頼りに向かった。
そこには、6歳と4歳の幼い兄弟が居た。
「公園にママと友達と行って遊んでたら、いつの間にか2人だけになっていた」
同世代の子を持つ親として、唯一の大人としての義務と思い、私と夫は兄弟を保護する事にした。
交番に警官は居らず、警察署に行っても勿論誰も居ない。
取りあえず、食料品と日用品を手に入れようとスーパーへ行くと、泣いている小学2年生の女児を発見した。
「親と買い物中にトイレに行ってきたら、こうなっていた」
私達はその子も保護した。
状況を打破する策は見つからないが、子供達を見ていると心が少し和んだ。
スーパーから出ると、駐車場に老婆を発見した。初めて見かける私達以外の大人だ。
何か知恵を貰えるかもと思い、話しかけたが。
老婆は薄気味悪く笑うだけで、私達の問いには答えようとしない。
それどころか、子供の手を掴むと、何処かへ引き摺って連れて行こうとする。
「やめて! 何なんだよ、あんたは!」
老婆はニヤニヤしてるだけ。老婆を引き剥がすと、私達は逃げるように車に乗り込み、発進させた。
自宅を突き止められると怖いので、その日はわざと遠回りして義両親宅へ避難した。
私達は赤の他人だけど、抱き合うようにして皆で一緒に寝た。
翌日、遠くの車のクラクションで目を覚ました。外を見ると、家から100メートル先の国道を車が行き交っている。
相変わらず義両親などは居ないままだが、寝起きのまま私達は国道へ向かおうとした。
その時だ。
庭先に昨日の老婆が居た。
(尾行された?!子供達を守らないと…!)
だが、老婆は昨日と様子が違っていた。花壇の柵代わりに置いてある庭石に腰かけて、煙草を燻らせていたのだ。
老婆は私達を一瞥すると、目を逸らして呟いた。
「あたしの負けだよ」
「…『負け』って、どういう事ですか?」
夫が問うと、老婆は眉間に皺を寄せて煙を吐いた。
「探してくれる人が居るっていうのは、幸せな事だよ。羨ましいね、本当に」
老婆は灰を落として、そう言った。
(この人は…、孤独な人だったのだ。人付き合いも家族もなく、居なくなっても気づかれない、そんな人だったのだろう。私達を巻き込もうとしたが、失敗したのだ)
所用が済み、帰宅中に私達は異変に気付いた。国道を車で走っているのに、他の車が1台も居ないのだ。
「え、何で他の車居ないの? 通行止めしてるのに気づかないで通っちゃった?」
「ちょっと待って、沿線の民家やお店、明かりも点いてなけりゃ人も居ない!」
停電かと思うも、信号や街灯は点いている。
私達だけが、誰も居ない空間に迷い込んだのだ。
勿論、義両親宅や近所の友人宅に行くも誰も居ない。電気やガスは使えるが、電話やネットは通じず、テレビもラジオも無音。
SNSにもメールアプリにも、誰も反応しない。
一夜明けても状況は変わらない。だが、近所で子供の泣く声がするので、声を頼りに向かった。
そこには、6歳と4歳の幼い兄弟が居た。
「公園にママと友達と行って遊んでたら、いつの間にか2人だけになっていた」
同世代の子を持つ親として、唯一の大人としての義務と思い、私と夫は兄弟を保護する事にした。
交番に警官は居らず、警察署に行っても勿論誰も居ない。
取りあえず、食料品と日用品を手に入れようとスーパーへ行くと、泣いている小学2年生の女児を発見した。
「親と買い物中にトイレに行ってきたら、こうなっていた」
私達はその子も保護した。
状況を打破する策は見つからないが、子供達を見ていると心が少し和んだ。
スーパーから出ると、駐車場に老婆を発見した。初めて見かける私達以外の大人だ。
何か知恵を貰えるかもと思い、話しかけたが。
老婆は薄気味悪く笑うだけで、私達の問いには答えようとしない。
それどころか、子供の手を掴むと、何処かへ引き摺って連れて行こうとする。
「やめて! 何なんだよ、あんたは!」
老婆はニヤニヤしてるだけ。老婆を引き剥がすと、私達は逃げるように車に乗り込み、発進させた。
自宅を突き止められると怖いので、その日はわざと遠回りして義両親宅へ避難した。
私達は赤の他人だけど、抱き合うようにして皆で一緒に寝た。
翌日、遠くの車のクラクションで目を覚ました。外を見ると、家から100メートル先の国道を車が行き交っている。
相変わらず義両親などは居ないままだが、寝起きのまま私達は国道へ向かおうとした。
その時だ。
庭先に昨日の老婆が居た。
(尾行された?!子供達を守らないと…!)
だが、老婆は昨日と様子が違っていた。花壇の柵代わりに置いてある庭石に腰かけて、煙草を燻らせていたのだ。
老婆は私達を一瞥すると、目を逸らして呟いた。
「あたしの負けだよ」
「…『負け』って、どういう事ですか?」
夫が問うと、老婆は眉間に皺を寄せて煙を吐いた。
「探してくれる人が居るっていうのは、幸せな事だよ。羨ましいね、本当に」
老婆は灰を落として、そう言った。
(この人は…、孤独な人だったのだ。人付き合いも家族もなく、居なくなっても気づかれない、そんな人だったのだろう。私達を巻き込もうとしたが、失敗したのだ)
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