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私達の戦争 ※子供の犯罪行為、性的表現?あり
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私は小学6年生になっていた。
卒業式を明日に控えた私達は、2階にある教室に立て籠もった。
クラスメイト全員で協力して椅子や机でバリケードを設置し、中身を満タンにした灯油のポリタンクを高々と掲げる。
「要求を訊かないなら、ポリタンクに火を放つ」
廊下や校庭から、教師や父兄達が『バカやってないで早く出て来い』と声をあげる。
『そういう事やってると、見たいテレビ逃すよ!』
「教室のテレビ見れまーす!」
『ご飯もおやつも抜きだよ!』
「食料も水も、充分運び入れてあるので、結構でーす!」
『その灯油偽物でしょ?』
学級委員の女子は、雑巾にポリタンクの液体を付けると、ライターの火を近づけてみせた。
雑巾はびっくりするほどよく燃えた。
「本物だよー!」
これにより、教師も父兄も悪ふざけではなく非常事態である事に気が付いたらしい。通報を受けて、消防車とパトカーがやって来た。
「テレビカメラまだぁ?」
男子が双眼鏡で外を見る私に尋ねるが、よく見えない。
「それっぽいのは居ないね。ヘリも居ない」
別の男子が、立て籠もる前に職員室から拝借していた電話の子機と電話帳を使い、片っ端から地方局に電話を掛ける。
小1時間で、校庭は野次馬と報道関係者と警官・消防士らで、埋め尽くされた。
6年間この学校に通ったが、学校行事でもここまでの数が集まったのは、見た事がない。
私達は外を見て目を輝かせた。
「すっげえ! これを『絶景』っていうのかな?」
「あそこ見て、野次馬の喧嘩をお巡りが止めてる! つーか、こっち止めないんかい。あはは!」
「あ、3チャンネルのレポーター居るね」
テレビ局のヘリコプターが旋回する中、外の大人達は朝礼台を私達の教室の真下へ移動させると、『交渉役らしい警官』が壇上に上がり、拡声器で呼びかける。
『遊びじゃないんだぞ君達! 何でこういう事するんだ!!』
ベタ過ぎて笑えるが、私達も拡声器で答える。
『オオバ先生とトシオの母ちゃんを出せ!』
警官達は人並みを分け、担任であるオオバとクラスメイトであるトシオの母親を、壇上に上らせた。
『要求通り出て来たぞ! もう止めなさい!!』
『そうだよ! 〇くんのお父さんも○○ちゃんのお母さんも皆悲しんでるよ?!』
担任オオバとトシオの母親が、順番に拡声器で呼びかける。クラスメイトの男子が答えた。
『トシオは、もっと悲しんでるよ?』
2人が首を傾げたので、私達は準備していたボリューム最大のラジカセを再生した。拡声器で、更に音を増幅させる。
露わになったのは、男女が行為に及んでいるらしい声と物音。不意に声が止むと、男の声がした。
《…今日、トシオは居ないの?》
《トシオは〇くんちに行くって、言ってたわ》
その声は、紛れもなく担任オオバとトシオの母親のものだった。朝礼台の上、2人は顔を青くしてへたり込む。
《トシオの奴、勘づいてきたのか、『先生のこと嫌いです』なんて言ってきたから、1発殴っといた》
《やあねえ、顔はバレるからやめといてね、せ・ん・せ・い?》
校庭には、2人の不貞の音声が大きく響き渡った。
私達は、後世に残る大きな事をやり遂げた。誰からも決して褒められる事はないだろう。
それでも私達子供は、大人を相手に『戦い』を挑んだのだ。
卒業式を明日に控えた私達は、2階にある教室に立て籠もった。
クラスメイト全員で協力して椅子や机でバリケードを設置し、中身を満タンにした灯油のポリタンクを高々と掲げる。
「要求を訊かないなら、ポリタンクに火を放つ」
廊下や校庭から、教師や父兄達が『バカやってないで早く出て来い』と声をあげる。
『そういう事やってると、見たいテレビ逃すよ!』
「教室のテレビ見れまーす!」
『ご飯もおやつも抜きだよ!』
「食料も水も、充分運び入れてあるので、結構でーす!」
『その灯油偽物でしょ?』
学級委員の女子は、雑巾にポリタンクの液体を付けると、ライターの火を近づけてみせた。
雑巾はびっくりするほどよく燃えた。
「本物だよー!」
これにより、教師も父兄も悪ふざけではなく非常事態である事に気が付いたらしい。通報を受けて、消防車とパトカーがやって来た。
「テレビカメラまだぁ?」
男子が双眼鏡で外を見る私に尋ねるが、よく見えない。
「それっぽいのは居ないね。ヘリも居ない」
別の男子が、立て籠もる前に職員室から拝借していた電話の子機と電話帳を使い、片っ端から地方局に電話を掛ける。
小1時間で、校庭は野次馬と報道関係者と警官・消防士らで、埋め尽くされた。
6年間この学校に通ったが、学校行事でもここまでの数が集まったのは、見た事がない。
私達は外を見て目を輝かせた。
「すっげえ! これを『絶景』っていうのかな?」
「あそこ見て、野次馬の喧嘩をお巡りが止めてる! つーか、こっち止めないんかい。あはは!」
「あ、3チャンネルのレポーター居るね」
テレビ局のヘリコプターが旋回する中、外の大人達は朝礼台を私達の教室の真下へ移動させると、『交渉役らしい警官』が壇上に上がり、拡声器で呼びかける。
『遊びじゃないんだぞ君達! 何でこういう事するんだ!!』
ベタ過ぎて笑えるが、私達も拡声器で答える。
『オオバ先生とトシオの母ちゃんを出せ!』
警官達は人並みを分け、担任であるオオバとクラスメイトであるトシオの母親を、壇上に上らせた。
『要求通り出て来たぞ! もう止めなさい!!』
『そうだよ! 〇くんのお父さんも○○ちゃんのお母さんも皆悲しんでるよ?!』
担任オオバとトシオの母親が、順番に拡声器で呼びかける。クラスメイトの男子が答えた。
『トシオは、もっと悲しんでるよ?』
2人が首を傾げたので、私達は準備していたボリューム最大のラジカセを再生した。拡声器で、更に音を増幅させる。
露わになったのは、男女が行為に及んでいるらしい声と物音。不意に声が止むと、男の声がした。
《…今日、トシオは居ないの?》
《トシオは〇くんちに行くって、言ってたわ》
その声は、紛れもなく担任オオバとトシオの母親のものだった。朝礼台の上、2人は顔を青くしてへたり込む。
《トシオの奴、勘づいてきたのか、『先生のこと嫌いです』なんて言ってきたから、1発殴っといた》
《やあねえ、顔はバレるからやめといてね、せ・ん・せ・い?》
校庭には、2人の不貞の音声が大きく響き渡った。
私達は、後世に残る大きな事をやり遂げた。誰からも決して褒められる事はないだろう。
それでも私達子供は、大人を相手に『戦い』を挑んだのだ。
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