漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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娘人形

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 私は小学生になっていた。


 その日、地元のある旧家で、半世紀ぶりにある祭りが開催された。普段は開放される事のない蔵が、大人数人がかりによって開けられる。

 開けられた蔵の中に鎮座していたのは、等身大の女の日本人形。和室の様に畳が敷かれ、障子戸に囲まれた空間に、人形が座っていた。

 帯留めなどの装備品も、着ている着物も全て本物の様に豪華で、黒く艶のある髪は肩まであり、肌も産毛があるかのようにリアルな質感だった。

(すごいな、素材は何で出来ているんだろう?)

 『娘人形』と呼ばれる彼女は、大人達によって旧家の奥座敷へ運ばれた。絹座布団に座らされた彼女の前には、沢山の御馳走が並ぶ。

「ほら、『娘』もこっちに来て食べなさい」


 この祭りはかなり奇妙だ。今日1日、『娘』役の私はフル装備の和装で、娘人形と共に過ごさなければならない。


 並べられた御馳走は当時の御馳走を模した様で、お節料理に少し似ていた。
 鯛の尾頭付き、紅白なます、栗きんとん、根菜の煮物、赤飯、カラフルな麩の浮いた吸い物…。

(でも、現代っ子の好きそうな物は無いのか…)


 食指が進まず少しだけ御馳走を口にした後、私は娘人形と共に遊ぶ。
 と言っても、娘人形の傍で遊んでみせるだけだ。カルタ、お手玉、鞠つき…。

「着物着てると、遊ぶの大変…」

 世話役の老婆にもらすが、ただただ笑っている。

(何だよ、他人事かい)

 昼も古き良き御馳走で、娘人形はその後着替えるという。私はしばし、旧家の庭で待つ事になった。

(そもそも、このお祭りって何なんだろう?人形を蔵から出して、ご飯食べて遊んで、着替えさせて仕舞うだけ?何の為に?)

 大勢の人がやって来る気配を感じ、私はその方を覗いた。屋敷の裏門に居たのは、住職と7,8人の喪服の人々。

(え、葬式?お祭り中なのに?でもあの人達、旧家の関係者だから、あれもお祭りの何かかな)


 元の場所に戻ると、蔵へ行くように命じられた。
 娘人形は身ぐるみ剝がされ裸で、畳敷きの空間の中央に、蔵を開けられた時の様に座っていた。

(あれ?着替えるんじゃなかったの?)

「これから娘人形を仕舞うんだけど、戸の建付けが悪いから、そっちから一緒に閉めて欲しいの」

 世話役の老婆はそう言って、私に娘人形側へ行くように命じた。

(え、でもそんな事したら…)

「ほら『娘』、早く!」

(私、閉じ込められちゃうんじゃないの?)


 娘人形と遊んでいる時に、聞こえた大人の声が蘇る。

『ご馳走、全然食べなかったぞ。どうやって眠らすんだ?』

『婆さんが適当に言って、中に押し込むって言ってたけど…』


 何処からともなく漂う線香の香りと、遠くから聞こえてくる読経。

「『娘』? どうした、そっち行ってくれ」

 老婆も蔵を施錠しようとする大人も、私の顔を見ないようにしている。

(どうしてみんな、顔を背けているの?)

 蠟燭の明かりだけが、蔵の中で瞬いていた。

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