上 下
103 / 110

蠅の女王

しおりを挟む
 私は、夢の中で夢を見ていた。蠅になっている夢だった。

(何これ、すごい楽しい!アクロバット飛行も出来れば、天井に逆さに止まる事も出来る!!)

 飛んでいたのは、私の勤め先であるショッピングモール。閉店時間なのか、非常灯しかない薄暗い中を私は飛び回っている。

(誘虫灯さえ気を付ければ、防犯センサーに引っ掛かるサイズでも無いし、快適~)

 気を良くした私は、ジグザグ飛行しながら、歌を唄っていた。

「あ~いしてたのは~、あ~たし~だけ~」

 見えてきたのは、勤務先の店舗。

「そ~んなのば~かげ~てる~」

 私はグルグル周回する。

「あなた~も~、い~っていた~よね~」

(楽しい!)

 勤務先の店舗を後にした私は、また歌いながら施設内を移動した。前方にひと際明るい光のある、警備員室を見つける。

(へえ、夜通し居るんだ。初めて知った)

 普段は立ち入る事の無い部屋へ侵入し、飛びながら室内を散策する。

(防犯カメラ、思ったより画質悪いな。『流行の最先端』を謳ってるなら防犯面も最新式入れなよ~)

 また私は歌を唄う。

「ジエ~ンド、ジエ~ンド、もうおそすぎる~」

 眼下の警備員達は、私の大音量の歌にも何処吹く風。

「あたし~は~、ひ~か~るぎんいろを~、あなた~の~、せなか~に~つきたてる~の~」

 見上げた壁には午前2時を指した時計。

「あ~あ、だから~、い~ったのに~ね~」

 私は、一夜限りのリサイタルを蠅の姿で行なうと、夢から覚めた。


 数日後。職場の先輩からある話をされた。

「動画投稿サイトの、沢木が好きな心霊動画チャンネルに新作が上がってるんだけど、チェックした?」

「え、見てないです。どれですか?」

 丁度休憩中だった私達は、スマホで検索してチャンネルを再生する。


 映し出されたのはどこかの室内。困惑する男の声。

『何なんだよ、これ。どこからなんだよ』

 スマホのカメラは天井と、謎の音声を捉えた。

『ジエ…ド…エ~ン…スギル…』

 焦った男の声。

『分かんねえ、外じゃねえぞ!』

 別の男の声。

『さっきから虫飛んでるけど、これ明らかに人の声だって』

『ア~ア…ラ~…ィ~ッテ…』

 女の声が切れ切れに聞こえてくる。

(え?!)
 私は画面に釘付けになる。

 男はスマホで虫を追う。

『じゃあ、あの虫が歌ってるってのか?あり得ねえよ』

『ア~ナタ~モ…』

『『うわぁぁっ!!』』

 逃げたのか画面はブレブレで、映像は途切れた。


(映ってた時計、警備員室の時計だ)

 映像を見終えて暗くなったスマホの画面に、私の顔が反射する。

(…やば。音痴じゃん、私)

しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

我ガ奇ナル日常譚 〜夢とリアルと日々ホラー〜

ホラー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

【完結】不可説不可説転 〜ヨキモノカナ、ワガジンセイ~

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:6

【完結】クラウディ・ヘヴン 〜僕たちのアオハルは血のにおい~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:5

その主婦、小説家志望につき。 〜物書きエッセイ喜怒哀楽〜

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1

鳴瀬ゆず子の社外秘備忘録 〜掃除のおばさんは見た~

経済・企業 / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:8

処理中です...