漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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旅立ちには早すぎて ※自殺、犯罪行為表現あり

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 私はミサトの遺影を前に、合掌した。


 ミサトは気が強く口達者で、友人グループ内で皆をまとめるリーダーだった。クラスに馴染めなかった私に、積極的に声をかける世話好きな一面もあった。

 2年付き合った夫との挙式披露宴のさなか、夫の兄との不貞行為の隠し撮り動画を会場で流され、式は中止。
 誰が動画を流したのか、映像は真実なのかも説明のないまま、式の中止から4日後にミサトは自殺した。


「姉のために、遠路遥々ありがとうございました」

 頭を下げるミサトの妹に、私は声をかけた。

「一報を聞いた時は耳を疑いました。大変な時にすみません」

「いえいえ。状況が状況なので、どなたもほとんどお見えになってなかったんです」

「そうなんですね…」

 仕事のため私が辞退した挙式には、友人知人が多く出席していた。動画を見せられて、気まずくて葬儀に行けないのか。生前はあんなに取り巻いていたのに、薄情な奴らだ。

「沢木さんにお尋ねしたい事があるのですが」

「何ですか?」

「『スイタさん』、『コダマさん』、『オガタさん』と言う方はご存知ですか?」

 質問に私は首を振った。

「いえ、存じません。何かあったんですか?」

「姉が生前お世話になったらしいのですが、連絡がつかなくて。もし、そのお三方をご存じの方が居ましたら、姉の事を伝えて下さい」

「分かりました」


 帰り道。駅でICカードを取りだした私は、カードポケット奥に名刺が挟まってるのに気づいた。『起業コンサルタント:児玉彩寧こだま あやね』のものだ。

(やーね。紛れていた)

 名刺を取り出し、くしゃくしゃに丸める。私は嘘をついた。児玉も、ウェブデザイナー:スイタテツヤも、A中学の同級生:尾形樹里おがた じゅりも、全員この世に存在しないのである。

(挙式直前にアカウントを全て消したけど、妹が追えてないなら大丈夫かな)


 3者は、私が成り済ました架空の人間だった。中学生時代にミサトから苛めを受けた私は、復讐を誓った。

 大学生になりミサトが個人起業したのをSNSで知った私は、起業コンサルに成りすまし、ウェブ面談で助言をした。 
 収益を上げ規模を徐々に拡大し、インフルエンサーに仕立て上げた。
 夫となる人物を紹介したのは、私扮するアジアを代表する新進的ウェブデザイナー:スイタだ。東南アジア在住のスイタは、児玉同様ウェブ上でしか言葉を交わして無いが、見栄っ張りで刹那主義であるミサトは、まんまと信じ込んだ。

 そしてミサトが計画外の動きをした。夫の兄と関係を持ったのだ。

(もっと有名にしてから、奈落に落とす予定だったんだけどな。途中でよそ見するとこが、ミサトらしいけど)

 情事を盗撮し、『お祝いムービー』として挙式で使用したのは、同級生:尾形。
 挙式は中止、でも多額の料金の支払い義務は発生、婚姻破綻、両家の面目丸つぶれ、慰謝料や責任の所在、友人知人関係者に痴態を刻む…。

(それだけじゃない。商売もダメにして負債も沢山出して…、やることまだ途中だったのに)

 人気のない駅のホーム。私は呟く。

「ミサト、何で死んじゃったの? 早すぎるよ」

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