きみよ奇跡の意味を知れ 【本編完結・番外プチ連載5/14完結】

桜以和果

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68 攻防

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 しかしそれでもやはりルーランは加減して走っているのだろう。
 もしくは、背後から迫る男たちの馬が余程の無理をさせられているのか。
 追われるものと追う者たちの距離は、次第に近づいてくる。

 しかも彼らは背後から矢を射掛けてくるのだ。遠矢が得意なものがいるのだろう。
 後ろから次々と矢が降ってくる。

<鬱陶しいな>

 それら全てをルーランは巧みに避けるが、やはり気にはなるのだろう。ルーランが面倒そうに言う。
 そしてそれは、リィがしっかり騎乗できていないせいでもあるのだ。
 相変わらず抜群の安定感で駆け、矢も危なげなく避けてはいるものの、普段とは身体のキレが全く違うから。

(このままでは……)

 リィの胸を不安が過る。
 逃げられてはいるが、逃げ切れるかどうかはわからない状況だ。だから追っ手も諦めることなく追いかけてき続けているのだろう。
 そう。もしまたなにか——ルーランが馬の姿に変われなくなってしまうような事態が起これば、すぐに追いつかれてしまうのだ。

 ルーランが助けに来てくれてから今まで、魔術を使うと思しき、あの仮面の男たちは姿を見せていない。
 それが不気味だった。

 そう——彼ら。彼らだ。
 彼らは、一体なんだったのだろう……?

 他の奴らとは、荒っぽい賊たちとは明らかに雰囲気が違っていた。
 身なりも立居振る舞いも話し方も声も。
 そしてリィに向けてきたあの憎悪。
 魔術師に恨まれるような覚えはないはずなのだが……。
 
 だがそもそも彼らは本当に魔術師なのだろうか。
 騏驥の「輪」に干渉できるような、そんな強力な魔術師が市井に——それも騎士の敵として、どうして——。

「っ!」

 つい考えてしまっていたリィの体が、ガクンと揺れる。先刻から矢を避けて細かくステップを踏んでいたルーランが、一際大きく横に飛んだのだ。
 慌ててその首にしがみついたリィの脇を、背後からの矢が、二本、三本と風を切って過ぎていく。

<おい、ぼーっとするなよ!>

 いくら俺の背中の上は安全だからって。

 即座にルーランから声がかかる。揶揄うような口調は、まだ彼に余裕がある証拠だ。だが。
 この馬体が一瞬で人に変化してしまう怖さをリィは嫌というほど知っている。
 
(なにか……)

 ルーランの背の上で、リィは必死に思案する。
 今の自分でもできることで、何か追っ手を引き離すための方法はないだろうか。遠ざけられるようなことは……。

 ——そうだ!

 思い出して、リィはルーランから渡されていた袋を探る。
 手綱が入っていたぐらいだ。ジェムか符か、何か役に立つものがあるかもしれない。
 リィは片腕でルーランにしがみついたまま、なんとか袋の中に手を突っ込む。見た目より奥が深いその中を探ると——。

(あった)

 やはりジェムがあった。
 この際なんでもいい。なんとかして使ってやる——。
 そう思って取り出しかけた時。

「!」

 指に、馴染みのあるものが触れた。
 
 「ルーラン!」

 リィは駆け続ける騏驥に向けて声を上げた。

「合図をしたらなるべく真っ直ぐに走れ。三秒でいい」

<真っ直ぐ? 狙われるぜ?> 

「だから”なるべく”、だ。加減は任せる」

 よほど大きく横に揺れない限り、やれる自信はある。
 言いながら、リィは片手で「それ」を取り出した。

 袋に入っていた弓と矢。それらは普段リィが使っているものではないが、充分使えるものだ。
 リィはルーランにしがみついてた腕を解くと、ゆっくりと身を起す。
 まだ身体は万全ではないが、そんなことは言ってられない。
 数秒——数秒だけならなんとかなる。してみせる。
 
 相手はこちらが反撃してこないと思っているのだ。
 ならば。

 そうしている間にも、次々矢が降ってくる。だがルーランは、暗闇の中から飛んでくるそれらを全て避ける。
 最低限の動きで。リィの指示に既に従うように。
 リィは自らの騏驥の能力に改めて感心しつつ、そっと手綱を離す。
 手離しでルーランの背に跨ったままグッと身を捩ると、弓と矢を手に身体ごと背後を振り向く。

「ルーラン!」

 タイミングを見計らって合図すると、速さはそのままにもかかわらず、揺れが一気に少なくなる。
 一体どうやって走っているのか。
 感心の上に感激を重ねて感じながら、リィは息をつめ背後に向けて矢をつがえる。
 狙いを定めた次の瞬間、片手にジェムを握り込んだまま矢を放つと、放たれたそれは幾筋もの軌跡を描いて飛んでいく。

 程なく、それまで絶え間なく飛んできていた矢が降ってこなくなった。
 
 リィはほっと息をつくと、前に向き直り手綱を持ち直す。
 
<は……すごいな。何本撃ったんだ?>

 驚いたようなルーランの声が届く。彼のそんな声を聞くと、少し気分がいい。
 リィは小さく笑った。

「見たのは初めてだったか?」

<これだけたくさんは>

 そうか、とリィは頷く。
 確かに、今までは弓を使うにしても普通に射ていただけだった。

「半ば脅しだ。ジェムを使った魔術の効果で分散させただけだから、ほとんど殺傷能力はない。だが脅しでいい。今のうちに引き離そう。行くぞ」

 だがそう言った直後。
 
(あ)

 まずい。
 クラ、と大きな目眩がした。視界が歪んで点滅する。
 リィはきつく眉を寄せる。

 魔術を使ったせいだ。
 そんなつもりじゃなかったのに、思っていた以上に体力を削られた。

<おい!?  リィ!?>

 ルーランの声がする。
 ちゃんと聞こえている。
 けれどそれに応える前に、リィの意識は霞むように途切れた。
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