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この赤い1滴は大好きな人へ

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 はぁ、やっちゃった。でも仕方無かったの。



 王子様も憎いけど、彼女の命を奪ったコイツが一番憎い。昨晩からずっと、ずっと、ずっと! いつか殺したいと思っていた。



 自分からこんなチャンスを、それも次の日にくれるなんてなんて優しい人!



「あぁエリザロッテ様ぁ、私やりましたぁ……」



 ロビーで見かけ、先に奥へと行っていた侍女がやってくる。このまま私は死刑だと思う。でも彼女と同じところに行けるなら……



 目を瞑って捕まるその時を待つ。死を告げる筈の足音はどんどん近づいてきて……



 ふいに息が出来なくなった。唇には懐かしい柔らかさが、鼻からは懐かしい香りが入ってくる。



 恐る恐る、だけどちょっと期待しながら開けた目の先には



「その口調を辞めなさいと言ったでしょう?」



 あぁ、あぁ……私の大好きな人。どうして最初に見た時に気付かなかったのだろう。



この侍女は……

「エリザロッテ……さまぁ……!」



 生きてた!生きてた!



「でもなんで!?」

「アイツの殺したフリよ。切られたショックで気絶しちゃったみたい」

「ふえぇぇ…… 良かったぁ……!」

「よしよし」

「あっ、でもどうしよう…… じゃあ私無実のラダマス君を……」

「えぇそうね。でも、彼が生きていても私達はきっと縛られるだけ。漸く二人になれた。私たちは自由よ!逃げましょう、一緒に!」



 甘美な提案だった。乗る以外なかった。



「はい!」



 こうして私たち2人は大好きな人を手に入れた。



 きっとまだ乗り越えなきゃいけない壁は一杯あるけど、私なら、いや私たちなら大丈夫!



 ……だってこんなに、幸せなんだから!
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