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☆酒好き追放聖女×俺様系伝説の吸血鬼
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どうやら、彼はわたしの名前を知っているようだった。
「あのマシバか? 第二王子に捨てられた?」
「殺すぞ」
思わず口からこんな言葉が出ていた。
どうしてそんなことを知っているのかと聞けば、どうやらこの男、「旅をしているのは本当」という言葉に偽りはなく、丁度わたしが婚約破棄を言い渡され、退職と言う名の追放をされた少し後に、ノアト王国を訪れていたらしい。
「確かに【黒】のない、澄み切った国だったが、あれは今後苦労するだろうな」
覆いかぶさったままだった男が上体を起こす。わたしは思い切り横っ面をひっぱたいたし、会話に色気もなにもない。情事の雰囲気は一気に霧散したので、少し話して仕切り直すつもりだろうか。
それにしても苦労する、とは。
「浄化された国のなにが悪いのよ」
『澄み切った国』と表現されるくらいだ。わたしが頑張っていたとき以上に、国内の浄化が済んでいるに違いない。現に、目の前の男――シルムは「【黒】がない」と言い切っている。
「確かに浄化はされていたさ。でも、同時に、すごく過ごしやすい国だった。吸血鬼のオレがこう言う意味、聖女のお前なら分かるだろ」
「…………」
言うまでもない。分かるに決まっている。
吸血鬼という、人外の種族が「過ごしやすい」というのだ。それはつまり、人外種が今後、あの国に集まる、ということだ。獣人などの、元から人との共存を選んでいる人外種だったら、国内にたくさんいるし、法整備も進んでいるので集まってきたところで問題はないだろう。
ただ、人との共存を望んでいなかったはずの人外種は話が別だ。
この男のような、吸血鬼など、法整備は進んでいないものの、暗黙のルール、みたいなものが存在している人外種ならまだいい。
問題は、まったく法もルールも存在しない人外種と、人を食べる人外種だ。
今後、急いで法整備を進めないとどんどん国内は荒れて行くだろうし、人を食べる人外種に関しては、討伐隊を組んで対策しないといけない。
その労力を考えると、途方もないだろう。
十年も住んだ、あのノアト王国にそんな未来が待っているなんて、そんなの、考えるだけで――。
「ざまーないわね!」
その感情しかなかった。ノアト王国はまだ王が健在で、王位継承権を持つ次期王の候補は何人かいるが、一人に決定はされていない。第二王子が国政にどのくらい関わるかは分からないが、原因が追及されたとき、慌てふためくのは間違いない。
いい気味である。
「そこで笑えるとは、いい女だな。気に入った」
そう言って、シルムが再度、わたしを押し倒す――が、わたしは、押し倒されながらも、さっきひっぱたいた頬をつねった。
「何、しれっと再開しようとしてんのよ。まだ飲ませてくださいってお願いされてないんだけど」
わたしの言葉に、シルムはぐっと眉を寄せた。
「あのマシバか? 第二王子に捨てられた?」
「殺すぞ」
思わず口からこんな言葉が出ていた。
どうしてそんなことを知っているのかと聞けば、どうやらこの男、「旅をしているのは本当」という言葉に偽りはなく、丁度わたしが婚約破棄を言い渡され、退職と言う名の追放をされた少し後に、ノアト王国を訪れていたらしい。
「確かに【黒】のない、澄み切った国だったが、あれは今後苦労するだろうな」
覆いかぶさったままだった男が上体を起こす。わたしは思い切り横っ面をひっぱたいたし、会話に色気もなにもない。情事の雰囲気は一気に霧散したので、少し話して仕切り直すつもりだろうか。
それにしても苦労する、とは。
「浄化された国のなにが悪いのよ」
『澄み切った国』と表現されるくらいだ。わたしが頑張っていたとき以上に、国内の浄化が済んでいるに違いない。現に、目の前の男――シルムは「【黒】がない」と言い切っている。
「確かに浄化はされていたさ。でも、同時に、すごく過ごしやすい国だった。吸血鬼のオレがこう言う意味、聖女のお前なら分かるだろ」
「…………」
言うまでもない。分かるに決まっている。
吸血鬼という、人外の種族が「過ごしやすい」というのだ。それはつまり、人外種が今後、あの国に集まる、ということだ。獣人などの、元から人との共存を選んでいる人外種だったら、国内にたくさんいるし、法整備も進んでいるので集まってきたところで問題はないだろう。
ただ、人との共存を望んでいなかったはずの人外種は話が別だ。
この男のような、吸血鬼など、法整備は進んでいないものの、暗黙のルール、みたいなものが存在している人外種ならまだいい。
問題は、まったく法もルールも存在しない人外種と、人を食べる人外種だ。
今後、急いで法整備を進めないとどんどん国内は荒れて行くだろうし、人を食べる人外種に関しては、討伐隊を組んで対策しないといけない。
その労力を考えると、途方もないだろう。
十年も住んだ、あのノアト王国にそんな未来が待っているなんて、そんなの、考えるだけで――。
「ざまーないわね!」
その感情しかなかった。ノアト王国はまだ王が健在で、王位継承権を持つ次期王の候補は何人かいるが、一人に決定はされていない。第二王子が国政にどのくらい関わるかは分からないが、原因が追及されたとき、慌てふためくのは間違いない。
いい気味である。
「そこで笑えるとは、いい女だな。気に入った」
そう言って、シルムが再度、わたしを押し倒す――が、わたしは、押し倒されながらも、さっきひっぱたいた頬をつねった。
「何、しれっと再開しようとしてんのよ。まだ飲ませてくださいってお願いされてないんだけど」
わたしの言葉に、シルムはぐっと眉を寄せた。
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