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3話
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「どう?おいしい?」
「すごく!ほっぺたが落ちてしまいそう」
シチューを口に運び、満面の笑みを浮かべるサリアを見て、
ルークは思わず顔に笑みを浮かべた。
彼女はほんとうは本当においしそうにルークの作った料理をたべてくれている。
反応一つ一つがすこし大げさではないかと思わなくもないが、ルークは彼女の
そんな所が大好きであった。
見かけだけでだまされてくれる、その簡単さが。
ルーク自身はシチューをすくう手をとめ、彼女の顔をただ見つめる。
出来たての料理が冷めてしまうが、それ以上に彼女の顔をみていたかったからだ。
「私の顔に何かついてる?」
ルークが自身の顔を見つめていることに気がつき、
サリアは首を傾げる。
「いや、なんでもないよ」
そんな彼女に短く言葉を返しながら、ルークは再び
口に料理を運び始めるのであった。
やっぱり馬鹿はいいな、と思いながら。
「昨日ぶつけた所はもう大丈夫?」
話題をそらすようにルークは、昨日サリアが転倒し
できたたんこぶの行方について問うた。
そんな問いにサリアは
「もう全然痛くないよ。おさがわせしました」
と軽く返す。
そしてルークの方を見ながら、
「ねえ。私が記憶喪失になったときも、ああいう転び方だったの?」
と、逆に問うてきた。
ルークは自身の心臓がドクン!と跳ね上がるのを感じた。
必死に不安を表情に出さぬよう注意をはらい、
「そうだよ。だから気をつけてね」
と言う。
「ふ~ん」
サリアはしばらく細めた目でルークを見つめていたが、
まあいいかという風に食事に意識を戻していった。
ルークは心の中で胸をなで下ろした。
どうやらうまく乗り越えられたようだ。
浮気がサリアにばれて、思わず彼女を引き倒してしまい、
記憶喪失になってから一ヶ月の時が過ぎている。
当初はどうなるものかと怯える毎日であった。
サリアは頭から血を流し、病院に運ばれ、
浮気相手にはもうこれで終わりにしましょうと
一方的に関係を切られてしまった。
ルークに残ったのは浮気をしたという暗い過去と、
意識を失ったままのサリアのみだ。
医者にはサリアは不注意で転倒したと説明した。
専門家相手に素人のウソが通用するのかと背筋が凍る
思いをしたが、医師はそうですか、とすんなり受け入れてくれた。
そしてサリアを知る人々にも、同じようにウソをついた。
みなルークのウソを簡単に信じてくれた。
お気の毒でしたねと、ルークに同情までしてくれる。
案外悪くないと思った。
浮気も隠せて、心配までしてもらえるのだ。
後はこれでサリアが目を覚まさなければ完璧だな
とまで考えていた。
眠る彼女を見つめながら。
しかしそんなルークの考えをぶち壊す事件が起きた。
サリアが目を覚ましてしまったのである。
ルークはまずいと思った。
彼女が自分の浮気を他人に話せば、
今まで作ってきたイメージが台無しになってしまう。
どうにかそしできないだろうか、と。
しかし神様はどこまでもルークの味方であった。
目が覚めたサリアと会話してみると、
なんと彼女は浮気の事どころか、自分が誰かすらも忘れてい
るではないか。
記憶喪失、と呼ばれる奴だ。
どうやらサリアは床に頭を打ち付けた際に、
多くの記憶がどこかに飛んでいってしまったらしい。
医者からすると、記憶が何時戻るのかどころか、
戻るかどうかすら分からないとの事だ。
ルークはしめたと思った。
これならば、もう一度やり直せるのではないだろうか。
そんな考えが彼の頭の中に浮かぶ。
以降は、記憶が無い彼女に対して、良き夫を演じている。
世間からは記憶を失い大変な妻を献身的に介護する夫であり、
サリア自身からも絶大な信頼を得ることができている。
当然、浮気のことは話していない。
このまま彼女の記憶が戻るまで、隠し通すつもりだ。
もし彼女が記憶を取り戻し、事実を言い始めたとしても、
時間がたってしまっていれば浮気を証明する手段はないし、
頭がおかしくなった変人というレッテルをはって対処することもできる。
このままいけば良い夫婦でいられるし、
記憶が戻った際の対応も完璧だ。
「それに戻らなくても、今日から思い出を作っていけばいいじゃないか」
ルークは自身の口から出たこの言葉に、笑いが抑えきれなかった。
記憶が戻られると都合が悪いから、出た言葉。
それをききサリアは自身の事を心配してくれているのだと
おおきな勘違いをし、嬉しそうにしていた。
何度思い出しても、滑稽でしかない。
簡単にだまされてくれるから、やっぱりこの子が好き。
「ルーク、ちょっと手伝ってもらえる?」
「わかった。何をすればいい?」
今日もルークは彼女の良い夫を演じている。
彼女のことを見下しながら。
そして彼はすでにサリア記憶が戻っていることを、
まだ知らないのであった。
「すごく!ほっぺたが落ちてしまいそう」
シチューを口に運び、満面の笑みを浮かべるサリアを見て、
ルークは思わず顔に笑みを浮かべた。
彼女はほんとうは本当においしそうにルークの作った料理をたべてくれている。
反応一つ一つがすこし大げさではないかと思わなくもないが、ルークは彼女の
そんな所が大好きであった。
見かけだけでだまされてくれる、その簡単さが。
ルーク自身はシチューをすくう手をとめ、彼女の顔をただ見つめる。
出来たての料理が冷めてしまうが、それ以上に彼女の顔をみていたかったからだ。
「私の顔に何かついてる?」
ルークが自身の顔を見つめていることに気がつき、
サリアは首を傾げる。
「いや、なんでもないよ」
そんな彼女に短く言葉を返しながら、ルークは再び
口に料理を運び始めるのであった。
やっぱり馬鹿はいいな、と思いながら。
「昨日ぶつけた所はもう大丈夫?」
話題をそらすようにルークは、昨日サリアが転倒し
できたたんこぶの行方について問うた。
そんな問いにサリアは
「もう全然痛くないよ。おさがわせしました」
と軽く返す。
そしてルークの方を見ながら、
「ねえ。私が記憶喪失になったときも、ああいう転び方だったの?」
と、逆に問うてきた。
ルークは自身の心臓がドクン!と跳ね上がるのを感じた。
必死に不安を表情に出さぬよう注意をはらい、
「そうだよ。だから気をつけてね」
と言う。
「ふ~ん」
サリアはしばらく細めた目でルークを見つめていたが、
まあいいかという風に食事に意識を戻していった。
ルークは心の中で胸をなで下ろした。
どうやらうまく乗り越えられたようだ。
浮気がサリアにばれて、思わず彼女を引き倒してしまい、
記憶喪失になってから一ヶ月の時が過ぎている。
当初はどうなるものかと怯える毎日であった。
サリアは頭から血を流し、病院に運ばれ、
浮気相手にはもうこれで終わりにしましょうと
一方的に関係を切られてしまった。
ルークに残ったのは浮気をしたという暗い過去と、
意識を失ったままのサリアのみだ。
医者にはサリアは不注意で転倒したと説明した。
専門家相手に素人のウソが通用するのかと背筋が凍る
思いをしたが、医師はそうですか、とすんなり受け入れてくれた。
そしてサリアを知る人々にも、同じようにウソをついた。
みなルークのウソを簡単に信じてくれた。
お気の毒でしたねと、ルークに同情までしてくれる。
案外悪くないと思った。
浮気も隠せて、心配までしてもらえるのだ。
後はこれでサリアが目を覚まさなければ完璧だな
とまで考えていた。
眠る彼女を見つめながら。
しかしそんなルークの考えをぶち壊す事件が起きた。
サリアが目を覚ましてしまったのである。
ルークはまずいと思った。
彼女が自分の浮気を他人に話せば、
今まで作ってきたイメージが台無しになってしまう。
どうにかそしできないだろうか、と。
しかし神様はどこまでもルークの味方であった。
目が覚めたサリアと会話してみると、
なんと彼女は浮気の事どころか、自分が誰かすらも忘れてい
るではないか。
記憶喪失、と呼ばれる奴だ。
どうやらサリアは床に頭を打ち付けた際に、
多くの記憶がどこかに飛んでいってしまったらしい。
医者からすると、記憶が何時戻るのかどころか、
戻るかどうかすら分からないとの事だ。
ルークはしめたと思った。
これならば、もう一度やり直せるのではないだろうか。
そんな考えが彼の頭の中に浮かぶ。
以降は、記憶が無い彼女に対して、良き夫を演じている。
世間からは記憶を失い大変な妻を献身的に介護する夫であり、
サリア自身からも絶大な信頼を得ることができている。
当然、浮気のことは話していない。
このまま彼女の記憶が戻るまで、隠し通すつもりだ。
もし彼女が記憶を取り戻し、事実を言い始めたとしても、
時間がたってしまっていれば浮気を証明する手段はないし、
頭がおかしくなった変人というレッテルをはって対処することもできる。
このままいけば良い夫婦でいられるし、
記憶が戻った際の対応も完璧だ。
「それに戻らなくても、今日から思い出を作っていけばいいじゃないか」
ルークは自身の口から出たこの言葉に、笑いが抑えきれなかった。
記憶が戻られると都合が悪いから、出た言葉。
それをききサリアは自身の事を心配してくれているのだと
おおきな勘違いをし、嬉しそうにしていた。
何度思い出しても、滑稽でしかない。
簡単にだまされてくれるから、やっぱりこの子が好き。
「ルーク、ちょっと手伝ってもらえる?」
「わかった。何をすればいい?」
今日もルークは彼女の良い夫を演じている。
彼女のことを見下しながら。
そして彼はすでにサリア記憶が戻っていることを、
まだ知らないのであった。
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