【完結】ごめんなさい実はもう私、記憶戻ってるの

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

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2話

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「・・・うん。やっぱりそうだ」


深夜、ルークが眠りに落ち、安らかな吐息が聞こえてきた頃、
サリアはベッドからこっそりと抜け出して鏡の前に立ち、つぶやいた。


ジッと鏡に写る自身の顔を見つめる彼女の表情は硬い。
まるで何か重要な出来事を思い出した直後のような表情だった。


いや、その表現は適切ではない。


彼女のその表情は、重要な何かを思い出した際のものであった。


「そうか。そういうことだったんだ」


サリアは手で頭を抑えながら、ながれてくる膨大な量の情報に思わず顔を歪める。


凍結した大地に足を滑らせ、石畳に頭をぶつけた瞬間、サリアに失われたはずであった、
24年間の過去の記憶が頭の中を駆け回りはじめていた。


そして彼女は、理解してしまった。


自身が記憶を失った理由が、ルークの言うような転倒ではないということを。
いつも優しいルークの本性が、どうしようもないクズであるということを


サリアはゆっくりと駆け巡る記憶達を整理していく。


思い出されるのは、ルークの浮気現場。


忘れ物をしたからと急遽家に帰ると、そこにあったのは知らない人の靴で、
そのまま中に入ってみるとルークが知らない女性といたしている最中だった。


サリアは思わず声を上げてしまった。


次に部屋に響くのはこちらに気づき、
なんでここにいる!と怒鳴るルークの声。


思わずサリアは逃げようとした。
だが無理矢理腕を掴まれて、後ろへと引っ張られる。


そして思いっきり頭を床へと打ち付けられて、視界が黒く染まっていく。
そこで記憶は、お終い。


「どこが、転倒なのよ」


サリアは唇を強くかみしめながらつぶやいた。


記憶喪失の際、ルークからはサリアは家で転び、
頭を打ち付けたことで記憶喪失になってしまったと聞いていた。


そして記憶を失っていた私は、彼の言葉を何の疑いもなく信じていた。


だがそれはまったくのウソであったのだ。


ルークが、やったのだ。


そしてあろうことかあの男は、記憶を失った私に真実を伝えずに、
都合のよい情報のみを与えていた。


サリアは、少し前まで、あんな男に幸福な感情を向けていた自分に吐き気がしてきていた。



今日から思い出を作っていけばいい。あの言葉も優しさからでたものではない。
記憶が戻ってしまったら、ルーク自身が危険だから、あのようにほざいたのだ。

そして常に隣にいてくれたのも、サリアの心配をしていたのではなく、
記憶が戻り自分たちの浮気がばれないか心配する気持ちからだったからなのだろう。


ルークはおしどりなどではない。


たっだの自己保身に走るゲス野郎だ。


「これから、どうしよう」


けれどそんな事実を突きつけられても尚、
サリアは未だに迷っていた。


記憶を失てから、ルークは本当に献身的にサリアに寄り添ってくれていた。
ルークがとんでもないクズである事は事実ではあるが、優しくしてもらえたことも事実である。
それが例え彼自身のためであっても。


記憶を失って以降、ルークが浮気をしている可能性はない。
ずっと隣にいてくれたのだから、それは確定だ。


記憶を失う以前と取り戻した後のルークへの憎悪の記憶と、
記憶を失っていた際のルークへの愛着の記憶。


二つの記憶が混じり、複雑な感情がサリアを襲う。


浮気を糾弾し、彼と決別するのか。


それともこのまま記憶がないふりをして、幸せな生活を送るか。


サリアはしばらく悩み、そして決意した。
ルークに、決めさせてしまおうと。


もし彼が、記憶を失ったままの私に、
自分がやった過ちを素直に告白すうならば、許そう。


だがもし隠しとうそうとするならば、そこで終わりだ。


このまま記憶が無いふりを続けて、彼を試す。


ルークが自ら決めてくれるのなら、お互いに納得も
つくだろうと、サリアは自身のこころに言い聞かせた。


こうしてサリアの記憶喪失のふりをする生活が幕を開けるのであった。
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