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6話(2)

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 粘土の元にはたくさんの小石が含まれていているため、このまま水を加えても綺麗な粘土になってくれない。だから、ひたすら叩いて小石を細かく砕く作業をしてやる必要があるのだ。目に見える大きい奴は取り除いてできるだけ不純物をなくしていく。


 地道な作業だった。保育園の時こねこねと遊んだあと外に放置してしまい無残にも乾いてしまった粘土達。今は簡単に買うこともできない。


「ねえねえねえ、なにやってるの?」


 ひたすら粘土の元を石で叩いていると、急に誰かに話しかけられた。驚いて顔を上げると、目の前に手を後ろで組みながら立つゴブリンが見えた。私とおなじくらいの女の子だ。知っている子だった。というのも夜、抱きつきながら寝る子だ。


 完全に私を抱き枕のようにかかえる点だけには困らされるが、それ以外は他者にやさしいゴブリンちゃん。


 彼女は興味ありげにジーとこちらをみつめている。目はキラキラと輝いており口角は軽く上がっている。何か面白い物をみつけたというふうな顔だ。まあ、傍からみれば土をひたすら石で叩くなど奇妙な行動であるから、不思議でおもしろそうな奴認定されるのはしかたない。


 あと、誤解のないように言っておくが、ひたすら彼女と呼ぶのは名前で呼ぶのが嫌だからではない。彼女には名前がないのだ。しかもそれは彼女だけではなかった。この村ではみんな顔見知りのため名前が必要ないからだ。ただ名前がないと不便なので、便宜上ゴブリンAちゃんとでもつけておこうか。


 「固い木の実を食べれるようにする道具だよ」


 興味津々なゴブリンAちゃんに私は再び作業に戻りながら答えた。この村に土器はないようだから多分説明しても彼女には伝わらないだろう。それならちゃっちゃと作って見せた方が早いはずだ。だからまあ、なんとも抽象的な返事になってしまったなと思ったが彼女は気にする様子も無く、


 「ええ!!そんなのが作れるの!!わたしもやるやる!!」


 と、喜びながら私の隣に座り作業を手伝い始めてくれた。この子には警戒心というものがないのだろうか。こんな危険な生活をしていて、ほわほわした感覚を残せているというのは驚きだ。



 ・・・ただ正直に言えば、粘土をひたすら叩く作業をしていた私の腕はかなりつらかったので、彼女の協力はありがたかった。交代交代でやることで、作業の効率もあがるため良いことずくめだ。彼女の善意に甘えさせてもらうとしよう。
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