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5話
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帝国歴809年。
帝国で大きな飢饉が起きた。
原作で革命を引き起こす原因になるものとは別の奴だ。
どうやら作物の病気が流行って、平民の主食であるお芋がまったくとれていないらしい。
帝国では小麦も作っているが、それは税金としてすべて取られてしまう。
だから帝国内に食料はあるのに、平民に食料はないといういびつな状態になっているのだ
このままだと多くの人が餓死することになる。
たくさんの人が餓死すれば、貴族はただでさえ重税で平民に恨まれているのに、さらに憎悪されるようになるだろう。
しかも自分たちがピンチな時になにもしてもらえないと分かれば、貴族側に味方してくれる人も少なくなる。
この飢饉を放置してはいけないのだ。
私は急いで皇帝陛下に意見を具申しにいった。
はじめは5歳の少女の意見など陛下は聞かないと配下さんにとめられてしまったが、陛下の通せの一言でわたしは今一度彼の前に立つことができた。
「マリーよ。伝えたいこととはなんだ?」
陛下は冷たい目線で私を見下ろす。
ここで発言を間違えれば、飢饉で大勢死に、私は革命以前に投獄だ。
ミスは許されない。
「恐れながら申し上げます、陛下。平民への支援をするべきではないでしょうか」
私は小さな体でひざまずきながら言った。
「なぜだ?ウサギのように増えるのがいけないのだろう。あれは奴ら自身が招いた厄災だ。我らが助けてやる義理はない」
そんな私に陛下はたんたんと告げる。
予想通りの反応だった。
陛下は平民の命などこれっぽっちも考えていない。
だから情に訴えるたところで無意味だ。
だから、
「はい。陛下のおっしゃる通りでございます。だからこそ支援が必要なのです」
「ほお?理由は?」
「平民どもはただの獣です。獣は食べ物がないとなると醜く争い、飢饉の後に残るのは生き残った害獣のみであるからです」
周りではどよめきがおこった。
まさか誰も5歳の少女が平民のことを害獣などと呼ぶとは思っていなかったのだろう。
いい反応だ。みんな聞いてくれている。
そして陛下も黙って私の言葉に耳を傾けてくれている。
「わざわざ害獣を選別し、帝国が抱えてやる必要はありません。現在、害獣はあぶり出されています。
支援をしてやれば、再び善良なウサギ達は勢力を取り戻し、害獣を駆除してくれましょう」
「・・・・・・・」
「獣は人が管理してやらねばならぬものです。でなければ恩もしらず飼い主に噛みついてきます。
私は害獣に噛まれたくありません。ぜひ、駆除するためにも支援をご検討いただきたい」
言いたいことは言い終わった。
ぺこりと頭を下げる。
さて、どうなる。
自分でも恐ろしい言葉を口にしているな、と思った。
人を獣と呼び、必死に生きようとする人間を害獣呼びとは。
心の中で、ごめんなさいと謝っておく。
でも、こうでもしないと陛下や貴族達の心は動かせないのだ。
平民がかわいそうだとかそんな善意では人は動いてくれない。
平民を同じ人間だと思っていない彼らのは、意味は無い。
彼らを動かすのは自らの損得だけ。
だから感情は捨てて、支援をしないデメリットを、危うさを大声で叫ぶ。
5歳児が言うのだ。インパクトは十分なはず。
脇で待機している父はものすごく震えていた。
私もすこし体が震えている。
さて、どうなるかな。
「ふ」
「?」
陛下が口を開く。
「ふははははは!ははははは!トワネット卿!」
「陛下!お許しください!マリーはまだ幼く、現実が分かっておらぬのです!」
陛下に呼ばれ、父が立ち上がる。
声が裏返りながら必死に言い訳をしていた。
「よい教育をしておるな」
けれど陛下はそんな父を気にもとめずに玉座から立ち上がり、私の元へと近づいてくる。
それから手を伸ばしひょいっと私を抱きかかえた。
「わ!」
思わず声を上げてしまう。
そして陛下は私の顔を見つめ、笑みを浮かべながら、
「マリーよ、その提案、気に入った。平民街へ支援をおこなおう。退屈せぬ進言であったぞ」
と告げるのであった。
どうやらうまくいってくれたらしい。
私は思わず胸をなで下ろした。
その後、陛下はすぐに平民街に食料支援をおこなってくれた。
本来は海外に売却するはずだった小麦を配り、飢えをしのがせる。
そして平民街では私の予想通りのことが起きているようだった。
飢饉が起きた際、食料を独占した者、他人から奪ったたり盗んだり
したものたちは、他の平民達から白い目で見られている。
彼らはもう仲間としては受け入れてもらえないだろう。
孤独に、ひっそりと生きるしかないのだ。
厳しい状況を醜く生き残ろうとした害獣はこれで消えてくれる。
残ったのは盗みも、独占もしようとしない善良なウサギ達。
計画は完全に成功してくれた。
貴族達には食糧支援は、表向きは平民を生かすためだが、
本当の目的は害獣を駆除するためだと話してある。
でも、実際は逆だ。
表向きに害獣の駆除をうたいながら、
本当の目的はただの平民への食料供給。
だれがこのウソを見抜けるだろうか。
みんな綺麗にだまされてくれた。
この食糧支援で、餓死で死ぬひとはほとんどいなくなるだろう。
貴族への恨みは減って首を切られる可能性は減り、私は実績という見えない信頼を得られる。
いいことずくめだ。
本音を隠し、平民を蔑みながら、彼らを救う。
どうやらこれが私の基本スタンスになりそうであった。
帝国で大きな飢饉が起きた。
原作で革命を引き起こす原因になるものとは別の奴だ。
どうやら作物の病気が流行って、平民の主食であるお芋がまったくとれていないらしい。
帝国では小麦も作っているが、それは税金としてすべて取られてしまう。
だから帝国内に食料はあるのに、平民に食料はないといういびつな状態になっているのだ
このままだと多くの人が餓死することになる。
たくさんの人が餓死すれば、貴族はただでさえ重税で平民に恨まれているのに、さらに憎悪されるようになるだろう。
しかも自分たちがピンチな時になにもしてもらえないと分かれば、貴族側に味方してくれる人も少なくなる。
この飢饉を放置してはいけないのだ。
私は急いで皇帝陛下に意見を具申しにいった。
はじめは5歳の少女の意見など陛下は聞かないと配下さんにとめられてしまったが、陛下の通せの一言でわたしは今一度彼の前に立つことができた。
「マリーよ。伝えたいこととはなんだ?」
陛下は冷たい目線で私を見下ろす。
ここで発言を間違えれば、飢饉で大勢死に、私は革命以前に投獄だ。
ミスは許されない。
「恐れながら申し上げます、陛下。平民への支援をするべきではないでしょうか」
私は小さな体でひざまずきながら言った。
「なぜだ?ウサギのように増えるのがいけないのだろう。あれは奴ら自身が招いた厄災だ。我らが助けてやる義理はない」
そんな私に陛下はたんたんと告げる。
予想通りの反応だった。
陛下は平民の命などこれっぽっちも考えていない。
だから情に訴えるたところで無意味だ。
だから、
「はい。陛下のおっしゃる通りでございます。だからこそ支援が必要なのです」
「ほお?理由は?」
「平民どもはただの獣です。獣は食べ物がないとなると醜く争い、飢饉の後に残るのは生き残った害獣のみであるからです」
周りではどよめきがおこった。
まさか誰も5歳の少女が平民のことを害獣などと呼ぶとは思っていなかったのだろう。
いい反応だ。みんな聞いてくれている。
そして陛下も黙って私の言葉に耳を傾けてくれている。
「わざわざ害獣を選別し、帝国が抱えてやる必要はありません。現在、害獣はあぶり出されています。
支援をしてやれば、再び善良なウサギ達は勢力を取り戻し、害獣を駆除してくれましょう」
「・・・・・・・」
「獣は人が管理してやらねばならぬものです。でなければ恩もしらず飼い主に噛みついてきます。
私は害獣に噛まれたくありません。ぜひ、駆除するためにも支援をご検討いただきたい」
言いたいことは言い終わった。
ぺこりと頭を下げる。
さて、どうなる。
自分でも恐ろしい言葉を口にしているな、と思った。
人を獣と呼び、必死に生きようとする人間を害獣呼びとは。
心の中で、ごめんなさいと謝っておく。
でも、こうでもしないと陛下や貴族達の心は動かせないのだ。
平民がかわいそうだとかそんな善意では人は動いてくれない。
平民を同じ人間だと思っていない彼らのは、意味は無い。
彼らを動かすのは自らの損得だけ。
だから感情は捨てて、支援をしないデメリットを、危うさを大声で叫ぶ。
5歳児が言うのだ。インパクトは十分なはず。
脇で待機している父はものすごく震えていた。
私もすこし体が震えている。
さて、どうなるかな。
「ふ」
「?」
陛下が口を開く。
「ふははははは!ははははは!トワネット卿!」
「陛下!お許しください!マリーはまだ幼く、現実が分かっておらぬのです!」
陛下に呼ばれ、父が立ち上がる。
声が裏返りながら必死に言い訳をしていた。
「よい教育をしておるな」
けれど陛下はそんな父を気にもとめずに玉座から立ち上がり、私の元へと近づいてくる。
それから手を伸ばしひょいっと私を抱きかかえた。
「わ!」
思わず声を上げてしまう。
そして陛下は私の顔を見つめ、笑みを浮かべながら、
「マリーよ、その提案、気に入った。平民街へ支援をおこなおう。退屈せぬ進言であったぞ」
と告げるのであった。
どうやらうまくいってくれたらしい。
私は思わず胸をなで下ろした。
その後、陛下はすぐに平民街に食料支援をおこなってくれた。
本来は海外に売却するはずだった小麦を配り、飢えをしのがせる。
そして平民街では私の予想通りのことが起きているようだった。
飢饉が起きた際、食料を独占した者、他人から奪ったたり盗んだり
したものたちは、他の平民達から白い目で見られている。
彼らはもう仲間としては受け入れてもらえないだろう。
孤独に、ひっそりと生きるしかないのだ。
厳しい状況を醜く生き残ろうとした害獣はこれで消えてくれる。
残ったのは盗みも、独占もしようとしない善良なウサギ達。
計画は完全に成功してくれた。
貴族達には食糧支援は、表向きは平民を生かすためだが、
本当の目的は害獣を駆除するためだと話してある。
でも、実際は逆だ。
表向きに害獣の駆除をうたいながら、
本当の目的はただの平民への食料供給。
だれがこのウソを見抜けるだろうか。
みんな綺麗にだまされてくれた。
この食糧支援で、餓死で死ぬひとはほとんどいなくなるだろう。
貴族への恨みは減って首を切られる可能性は減り、私は実績という見えない信頼を得られる。
いいことずくめだ。
本音を隠し、平民を蔑みながら、彼らを救う。
どうやらこれが私の基本スタンスになりそうであった。
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