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第1巻 犬耳美少女の誘拐
01
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「この勇者パーティーの中に、裏切り者がいる」
神託のお告げ。
俺達の勇者パーティー【聖剣】に、そんな残酷な事実が知らされた。
「その者は今も密かに力を蓄え、裏切るべき時を静かに待ち続けている。この先5年以内に、その者の裏切りによってこのパーティーは崩壊するであろう」
神託は容赦ないセリフを俺達に吐き、それからピタリと固まって動かなくなった。
「いやいや、よくないでしょ、こいつ~。だいたい、なんだってのさ、神託って。これまでに当たったことがあるかっての」
「いや毎回当たってんじゃん」
真に受けてないような呑気な口調で文句を言ったのが、この勇者パーティーの盛り上げ役のアル。
そして慣れた様子でアルにツッコミを入れたのが、その双子の姉のハルだ。
神託のお告げが外れたことはない。
どんなに凄い人も、俺達の目の前にいる神託の予言には敵わない。
アポロンとかいうハンサムな神が、この包帯グルグル巻きミイラを地上に連れてきてからというもの、この街のパーティーに所属する者たちはお告げをもらいに来るのが風習になった。
別に俺は神託を信じているわけじゃないし、神を信仰しているわけでもない。
でも、神に逆らうようなことだけはできない。
それは自ら命を投げ出すことと同じだ。
「ウィル、どうするつもりだ?」
低く冷たい声で、ロルフがリーダーのウィルに判断を仰ぐ。
「みんな、よく聞いてくれ。こんなことを言うのは神に対する冒涜だ、とか言われるかもしれない。でも、僕は言うよ」
爽やかだが凛々しいその通った声に、パーティーの仲間全員の注意が向いた。
勿論俺も同じだ。
ウィルは人の注意を引く技を持っている。どんなに緊迫した状況でも、リーダーのウィルが一言発すれば、みんな彼の指示に従う。
比較的自分勝手なアルとハル、それから普段控えめなクロエでさえも。
「この中に裏切り者なんていない。僕はそう信じてる」
ウィルはそうはっきりと言い切った。
金髪に赤い目、整った顔立ち。
そして何より、ツンと尖ったエルフの耳。
そこに小柄な可愛らしい体がギャップ萌えを誘う。
男でもついクラっとしそうになるよ、ほんと。ウィル=ストライカーという完璧なリーダーには。
「オレもウィルを信じる」
静かにロルフが言った。
ロルフは普段積極的に意見を言うようなタイプじゃないと思うが、今回ばかりはそういう状況じゃなかったらしい。
それに、彼はウィルを絶対的に信頼している。
「オラも全面的に賛成、っと」
「まあ、それにはあっしも賛成」
続いてアルとハルが手を挙げて賛成の意志を示す。
「私も皆さんを信じてるわ」
絶世の美女と呼ばれるヴィーナスも迷う素振りなく頷いた。
残るは俺とクロエ。
クロエは恥ずかしがり屋で相手の目を見るだけで赤面するようなタイプだが、どうなんだろう?
「あたし、あたしも……みんなのこと疑いたく……ないです!」
顔をカーっと真っ赤にして呟くクロエは、なんだか可愛らしい。
俺も流れに便乗するように頷く。
「俺もみんなのこと信じます」
「ありがとう、オーウェン。ありがとう、みんな」
ウィルが微笑んだ。
リーダーとしては、ここで仲間割れなんかが起きると困るからな。本心にしろなんにしろ、全体に前向きな流れを作ってやる必要がある。
やっぱりこのパーティーは優秀だ。
【聖剣】が他のパーティーより高名で評価が高いのは、このリーダーによるものが大きいんだろう。
そしてそのリーダーに絶対の信頼を寄せる仲間たち。
そこには純粋にお互いを助け合い、信じ合う精神が感じられる。
本当に素敵なパーティーだ。
「改めて、今日はみんなよく頑張った。南の地下迷宮はもうほとんど制圧できたからね。まあ、モンスターは倒しても次から次に生まれるわけだけど」
「いや~、ほんとだよ~。気をちょっとでも緩めたら、さっき大切な玉殴られてさ~」
「その犯人あっしだけど」
「は!? ちょいちょい、じゃあオラの髪の毛3本燃やしたのは!?」
「さあ、それは知らない」
双子はいつものように喧嘩を始めた。
ロルフは半分軽蔑するように、ウィルはどこか面白そうに双子の様子を眺めている。ここまでがセットでいつもの光景だ。
それからウィルは真剣な表情に切り替えて続ける。
「これから打ち上げで豪華なディナーといこう。今日は勿論僕からの奢りだ」
双子が歓喜の声を上げる。
いつも奢られてるくせに。
とはいえ、こうして「奢る」という言葉でまたパーティーの雰囲気を盛り上げたのはウィルの狙い通りだろう。
この中に裏切り者がいる、なんていうくだらない予言に引きずられるわけにはいかないから、酒でも飲んで、すっきりしようぜ、そんな風にも聞こえた。
「それじゃあ、まずは街に戻らないとね」
俺達はすっかりウィルに誘導され、予言のことなんて頭から抜き取りながら街に向かう。
ちなみに俺はウィルの言葉を信じていない。
この中に、確実に裏切り者が存在する。
なぜそんな確信が持てるのか。なぜあの優秀過ぎるリーダーの言葉を信じないのか。
答えは簡単だ。
俺がこの勇者パーティーの裏切り者だから。
《作者コメント》
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神託のお告げ。
俺達の勇者パーティー【聖剣】に、そんな残酷な事実が知らされた。
「その者は今も密かに力を蓄え、裏切るべき時を静かに待ち続けている。この先5年以内に、その者の裏切りによってこのパーティーは崩壊するであろう」
神託は容赦ないセリフを俺達に吐き、それからピタリと固まって動かなくなった。
「いやいや、よくないでしょ、こいつ~。だいたい、なんだってのさ、神託って。これまでに当たったことがあるかっての」
「いや毎回当たってんじゃん」
真に受けてないような呑気な口調で文句を言ったのが、この勇者パーティーの盛り上げ役のアル。
そして慣れた様子でアルにツッコミを入れたのが、その双子の姉のハルだ。
神託のお告げが外れたことはない。
どんなに凄い人も、俺達の目の前にいる神託の予言には敵わない。
アポロンとかいうハンサムな神が、この包帯グルグル巻きミイラを地上に連れてきてからというもの、この街のパーティーに所属する者たちはお告げをもらいに来るのが風習になった。
別に俺は神託を信じているわけじゃないし、神を信仰しているわけでもない。
でも、神に逆らうようなことだけはできない。
それは自ら命を投げ出すことと同じだ。
「ウィル、どうするつもりだ?」
低く冷たい声で、ロルフがリーダーのウィルに判断を仰ぐ。
「みんな、よく聞いてくれ。こんなことを言うのは神に対する冒涜だ、とか言われるかもしれない。でも、僕は言うよ」
爽やかだが凛々しいその通った声に、パーティーの仲間全員の注意が向いた。
勿論俺も同じだ。
ウィルは人の注意を引く技を持っている。どんなに緊迫した状況でも、リーダーのウィルが一言発すれば、みんな彼の指示に従う。
比較的自分勝手なアルとハル、それから普段控えめなクロエでさえも。
「この中に裏切り者なんていない。僕はそう信じてる」
ウィルはそうはっきりと言い切った。
金髪に赤い目、整った顔立ち。
そして何より、ツンと尖ったエルフの耳。
そこに小柄な可愛らしい体がギャップ萌えを誘う。
男でもついクラっとしそうになるよ、ほんと。ウィル=ストライカーという完璧なリーダーには。
「オレもウィルを信じる」
静かにロルフが言った。
ロルフは普段積極的に意見を言うようなタイプじゃないと思うが、今回ばかりはそういう状況じゃなかったらしい。
それに、彼はウィルを絶対的に信頼している。
「オラも全面的に賛成、っと」
「まあ、それにはあっしも賛成」
続いてアルとハルが手を挙げて賛成の意志を示す。
「私も皆さんを信じてるわ」
絶世の美女と呼ばれるヴィーナスも迷う素振りなく頷いた。
残るは俺とクロエ。
クロエは恥ずかしがり屋で相手の目を見るだけで赤面するようなタイプだが、どうなんだろう?
「あたし、あたしも……みんなのこと疑いたく……ないです!」
顔をカーっと真っ赤にして呟くクロエは、なんだか可愛らしい。
俺も流れに便乗するように頷く。
「俺もみんなのこと信じます」
「ありがとう、オーウェン。ありがとう、みんな」
ウィルが微笑んだ。
リーダーとしては、ここで仲間割れなんかが起きると困るからな。本心にしろなんにしろ、全体に前向きな流れを作ってやる必要がある。
やっぱりこのパーティーは優秀だ。
【聖剣】が他のパーティーより高名で評価が高いのは、このリーダーによるものが大きいんだろう。
そしてそのリーダーに絶対の信頼を寄せる仲間たち。
そこには純粋にお互いを助け合い、信じ合う精神が感じられる。
本当に素敵なパーティーだ。
「改めて、今日はみんなよく頑張った。南の地下迷宮はもうほとんど制圧できたからね。まあ、モンスターは倒しても次から次に生まれるわけだけど」
「いや~、ほんとだよ~。気をちょっとでも緩めたら、さっき大切な玉殴られてさ~」
「その犯人あっしだけど」
「は!? ちょいちょい、じゃあオラの髪の毛3本燃やしたのは!?」
「さあ、それは知らない」
双子はいつものように喧嘩を始めた。
ロルフは半分軽蔑するように、ウィルはどこか面白そうに双子の様子を眺めている。ここまでがセットでいつもの光景だ。
それからウィルは真剣な表情に切り替えて続ける。
「これから打ち上げで豪華なディナーといこう。今日は勿論僕からの奢りだ」
双子が歓喜の声を上げる。
いつも奢られてるくせに。
とはいえ、こうして「奢る」という言葉でまたパーティーの雰囲気を盛り上げたのはウィルの狙い通りだろう。
この中に裏切り者がいる、なんていうくだらない予言に引きずられるわけにはいかないから、酒でも飲んで、すっきりしようぜ、そんな風にも聞こえた。
「それじゃあ、まずは街に戻らないとね」
俺達はすっかりウィルに誘導され、予言のことなんて頭から抜き取りながら街に向かう。
ちなみに俺はウィルの言葉を信じていない。
この中に、確実に裏切り者が存在する。
なぜそんな確信が持てるのか。なぜあの優秀過ぎるリーダーの言葉を信じないのか。
答えは簡単だ。
俺がこの勇者パーティーの裏切り者だから。
《作者コメント》
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※小説家になろうにも掲載しています。
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