3 / 29
第1巻 犬耳美少女の誘拐
03
しおりを挟む
「どうやら今日の冒険は充実していたようだ。このように打ち上げまでして、さぞ喜ばしかったことでしょうな」
「何が言いたい?」
俺達を挑発するような口調のネロを、ロルフがその切れ長の目でキツく睨む。
ロルフの言動には貫禄があり、本能的に相手を萎縮させる威圧感を持っている。
この牽制はロルフにしかできない。
温厚なウィルでは迫力不足だろう。
「おやおや、ロルフか。貴殿も変わっていないようで何よりだ」
「何を、言いにきた?」
「いやいや、たまたま貴殿らの凱旋を見たものでね。感動したよ。新入りも順調に育ってきているようではないか」
ネロがちらっと俺を見る。
俺だけじゃなく、クロエ、アル&ハルもその対象だ。
「そこで貴殿らにも吾輩の仲間の成長を伝えねばと思ったのだよ。親切だろう?」
「なーにが親切だっての」
アルがぼやく。
これはヤバい。
ネロという人物は、怒ったらすぐに殺しにかかりそうだ。
この17年間で、ヤバいイカれた連中の特徴は把握している。ネロもそのうちの上位に入ってくることは間違いない。
邪悪な瞳の奥が狂気に満ちている。
俺はアルの死を覚悟した。
短い間だったが、いろいろとお世話になった、アル。あの世でも呑気に暮らしてくれ。
「なかなか生意気に育っているではないか、面白い」
ネロは笑っただけだった。
思っていたより器の小さい男じゃなかったってことだろう。
アルの死は免れた。
「楽しみムードの貴殿らに報告しておくとしよう。2か月前に加入したばかりの新入り、アレス=ヴァイオラは見事この前のランク昇級試験に合格し、A1からS3へと進化した」
自慢気に話すネロ。
正直今にも殴りかかってしまいそうだが、ここは我慢しておこう。
それに、たぶんネロは俺より強い。というか、もしかすると俺達の古参たちより強いのかもしれない。
実は俺達新入りは、古参3人のランクを知らないのだ。
だから正確にランクで実力差を計算することはできない。
「それに、吾輩もこの度、なんとS2へと昇格したのだよ!」
自分で言うんだ……。
繊細な内容でも、驚くほどに高ければ人前で堂々と言えるのか。
ネロのわざとらしく張り上げた大きな声に、酒場の多くの人が注目を向ける。
これが狙いだったのかもしれない。
周囲の客達は凄いだのなんだのネロを褒め称え始めた。
「どうだいどうだい? ウィル、貴殿はせいぜいまだS3といったところだろう?」
話し方からして、ネロでさえもウィルのランクを知らないらしい。
まあ、仮にネロが俺達の宿敵だとしたら、わざわざランクを教えないことも必然と言えるか。
ネロの挑発をウィルは笑って流した。
「キミは凄いね」
「ふむふむ、素直ではないか」
誰よりも素直に喜ぶネロ。
この姿だけ見ると、ネロはそこまで危ないやつでもなさそうに思える。
ただ承認欲求を満たしたいだけの極度な目立たがり屋、そういうことかもしれない。
「言いたいことはそれだけかい?」
「おやおや、そうやって冷静を装って、実は内心焦っているのではないか?」
「そうかもしれないね」
半分呆れたように返すウィル。
オトナの対応だ。
面倒くさい相手は相手にしない。その鉄則を忠実に守っている。
「ではでは、せいぜい食事を楽しみたまえ」
そう言い残して、ネロは酒場を去っていった。
「あいつ無理」
心底嫌そうな顔をして、ハルが呟く。
それに何がなんでも同意するっていう感じで、うんうん頷くクロエ。
ネロが自分自身のパーティーでどういう扱いを受けているのかは知らないが、パーティー内に強烈なアンチがいてもおかしくない性格だ、あれは。
「みんなには迷惑かけたね」
ウィルが頭を丁寧に下げて謝罪した。
半分は申し訳なさそうに、半分は呆れながら。
ロルフは鼻をふんと鳴らすと、腕を組んで何も言わなくなった。
ヴィーナスの方は女神のように可憐な笑みをこぼし、優雅に食事を続けている。
「ああ見えても実力は折り紙付きだし、根っからの悪人ってわけでもない。また会った時に絡まれたら、適当に流しておいてほしい」
ウィルはそう締めくくって、ネロに支配されそうになった空気を終わらせた。
***
「うへぇ~、こりゃ酔い過ぎた」
この世界から離れ彷徨っているアルの声がする。
もう酒の毒は全身を巡り、重症化していた。
ハルは呆れてアルと話す気もなくし、その結果俺がアルを背負って本拠地まで帰ることになったわけだ。
「お願いね、オーウェン。今ちょっとこいつに愛想尽かしちゃったからさ」
幸い酒場と本拠地の距離はそう遠くない。
それにこれもいい訓練になると考えれば、悪いものでもない。
「今日は長かったね」
先頭に立つウィルが言った。
「いろいろ整理すべきことはあるかもしれないけど、今はゆっくり休もう。大浴場で疲れを取るといい」
そうして俺達は、広大な敷地に建つ立派な本拠地を眺める。
いつ見ても美しい。
完全にヴィーナスの趣味であるぶどう庭園が一面に広がり、神殿のような白い建造物が堂々と存在感を放っている。
7人で住むには大き過ぎるので、勿論メイドも10人ほど雇っていた。そうでもしないと掃除から何からやるべき仕事が増えてしまう。
「オーウェン、そいつ風呂に入れてやって」
俺はアルの世話係じゃないんだが。
そういうのはメイドの誰かに頼めばいいのに。
ハルは結局双子の弟のことが心配なんだろう。
そういうところ、俺は嫌いじゃない。
「わかった」
溜め息を漏らしながらそう返事をし、アルを背負ったまま大浴場へ向かう。
「何が言いたい?」
俺達を挑発するような口調のネロを、ロルフがその切れ長の目でキツく睨む。
ロルフの言動には貫禄があり、本能的に相手を萎縮させる威圧感を持っている。
この牽制はロルフにしかできない。
温厚なウィルでは迫力不足だろう。
「おやおや、ロルフか。貴殿も変わっていないようで何よりだ」
「何を、言いにきた?」
「いやいや、たまたま貴殿らの凱旋を見たものでね。感動したよ。新入りも順調に育ってきているようではないか」
ネロがちらっと俺を見る。
俺だけじゃなく、クロエ、アル&ハルもその対象だ。
「そこで貴殿らにも吾輩の仲間の成長を伝えねばと思ったのだよ。親切だろう?」
「なーにが親切だっての」
アルがぼやく。
これはヤバい。
ネロという人物は、怒ったらすぐに殺しにかかりそうだ。
この17年間で、ヤバいイカれた連中の特徴は把握している。ネロもそのうちの上位に入ってくることは間違いない。
邪悪な瞳の奥が狂気に満ちている。
俺はアルの死を覚悟した。
短い間だったが、いろいろとお世話になった、アル。あの世でも呑気に暮らしてくれ。
「なかなか生意気に育っているではないか、面白い」
ネロは笑っただけだった。
思っていたより器の小さい男じゃなかったってことだろう。
アルの死は免れた。
「楽しみムードの貴殿らに報告しておくとしよう。2か月前に加入したばかりの新入り、アレス=ヴァイオラは見事この前のランク昇級試験に合格し、A1からS3へと進化した」
自慢気に話すネロ。
正直今にも殴りかかってしまいそうだが、ここは我慢しておこう。
それに、たぶんネロは俺より強い。というか、もしかすると俺達の古参たちより強いのかもしれない。
実は俺達新入りは、古参3人のランクを知らないのだ。
だから正確にランクで実力差を計算することはできない。
「それに、吾輩もこの度、なんとS2へと昇格したのだよ!」
自分で言うんだ……。
繊細な内容でも、驚くほどに高ければ人前で堂々と言えるのか。
ネロのわざとらしく張り上げた大きな声に、酒場の多くの人が注目を向ける。
これが狙いだったのかもしれない。
周囲の客達は凄いだのなんだのネロを褒め称え始めた。
「どうだいどうだい? ウィル、貴殿はせいぜいまだS3といったところだろう?」
話し方からして、ネロでさえもウィルのランクを知らないらしい。
まあ、仮にネロが俺達の宿敵だとしたら、わざわざランクを教えないことも必然と言えるか。
ネロの挑発をウィルは笑って流した。
「キミは凄いね」
「ふむふむ、素直ではないか」
誰よりも素直に喜ぶネロ。
この姿だけ見ると、ネロはそこまで危ないやつでもなさそうに思える。
ただ承認欲求を満たしたいだけの極度な目立たがり屋、そういうことかもしれない。
「言いたいことはそれだけかい?」
「おやおや、そうやって冷静を装って、実は内心焦っているのではないか?」
「そうかもしれないね」
半分呆れたように返すウィル。
オトナの対応だ。
面倒くさい相手は相手にしない。その鉄則を忠実に守っている。
「ではでは、せいぜい食事を楽しみたまえ」
そう言い残して、ネロは酒場を去っていった。
「あいつ無理」
心底嫌そうな顔をして、ハルが呟く。
それに何がなんでも同意するっていう感じで、うんうん頷くクロエ。
ネロが自分自身のパーティーでどういう扱いを受けているのかは知らないが、パーティー内に強烈なアンチがいてもおかしくない性格だ、あれは。
「みんなには迷惑かけたね」
ウィルが頭を丁寧に下げて謝罪した。
半分は申し訳なさそうに、半分は呆れながら。
ロルフは鼻をふんと鳴らすと、腕を組んで何も言わなくなった。
ヴィーナスの方は女神のように可憐な笑みをこぼし、優雅に食事を続けている。
「ああ見えても実力は折り紙付きだし、根っからの悪人ってわけでもない。また会った時に絡まれたら、適当に流しておいてほしい」
ウィルはそう締めくくって、ネロに支配されそうになった空気を終わらせた。
***
「うへぇ~、こりゃ酔い過ぎた」
この世界から離れ彷徨っているアルの声がする。
もう酒の毒は全身を巡り、重症化していた。
ハルは呆れてアルと話す気もなくし、その結果俺がアルを背負って本拠地まで帰ることになったわけだ。
「お願いね、オーウェン。今ちょっとこいつに愛想尽かしちゃったからさ」
幸い酒場と本拠地の距離はそう遠くない。
それにこれもいい訓練になると考えれば、悪いものでもない。
「今日は長かったね」
先頭に立つウィルが言った。
「いろいろ整理すべきことはあるかもしれないけど、今はゆっくり休もう。大浴場で疲れを取るといい」
そうして俺達は、広大な敷地に建つ立派な本拠地を眺める。
いつ見ても美しい。
完全にヴィーナスの趣味であるぶどう庭園が一面に広がり、神殿のような白い建造物が堂々と存在感を放っている。
7人で住むには大き過ぎるので、勿論メイドも10人ほど雇っていた。そうでもしないと掃除から何からやるべき仕事が増えてしまう。
「オーウェン、そいつ風呂に入れてやって」
俺はアルの世話係じゃないんだが。
そういうのはメイドの誰かに頼めばいいのに。
ハルは結局双子の弟のことが心配なんだろう。
そういうところ、俺は嫌いじゃない。
「わかった」
溜め息を漏らしながらそう返事をし、アルを背負ったまま大浴場へ向かう。
10
あなたにおすすめの小説
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる