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第1巻 犬耳美少女の誘拐
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クロエの回復魔術のおかげで、アルも完全復活した。
とはいえ俺が戻ってきた頃には、すっかり元気だったが。
アルの元気と自己回復力の高さには相変わらず驚かされる。
「ぷぁ~、助かった~」
呑気にアルが言う。
回復魔術を受けると少しだけ快楽を感じる副作用みたいなものがあるので、その影響かもしれない。
まあ、アルはいつもハイだ。
正式に酒が飲めるようになってからというもの、毎日堂々とがぶ飲みしているらしい。
だから毎日が2日酔いで、毎日がハイだ。
「あんた、そろそろヤバいんじゃないの? アルコール中毒で死ぬよ」
ハルは相棒のこの様子にご立腹らしい。
その整った中性的な顔を歪ませている。
水色の瞳は冷たく、軽蔑的だ。
「大丈夫だっての。オラがそんなに簡単に死ぬわけないさ~」
「気づいたらころっと死んでるかもな」
俺も口を開いた。
「オーウェンく~ん、頼むぜ~、そんな酷いこと言うなって」
「あんたが悪いんでしょっ! あっしら心配してんだからね! 言う事聞かないなら、ウィルに頼んで本拠地での飲酒を禁じてもらうからっ!」
「そ、それだけはどうにか……それこそ死だー」
「酒場に行った時だけ飲めばいいいでしょ!」
「そうだけどさ~、たまにしか行かないし……いや、待てよ。毎日通って、酒場の常連客になればよくね?」
アルは神も驚く名案を考え付いたつもりでいる。
普通に考えればわかることだが、アルの名誉のためにもここは黙っておこう。それにしても、アルとハルの喧嘩は、やっぱり嫌いじゃない。
「そうだ! 常連になって、マスターに言おう! いつものを頼む、って。うわぁ~、それ最高じゃん! で、美人なあの店員くんとお近づきになって――うっ」
調子に乗り始めたアルを、ハルが蹴り上げる。
可哀想なことに、ハルの足には戦闘のために装着した金属が……
幸いにも、攻撃の的は腹だった。
もしこれが、アレだったら、アルはもうこの世にいない。仮に生存できていたとしても、男としての人生は終わりを迎えることになる。
「アル、無理に酒場の店員に手を出さなくてもいいだろ。この本拠地にはたくさんメイドがいるんだし」
助け舟を出すつもりで、俺が言う。
だが、その瞬間にハルからの睨みを食らった。
股間を蹴られたかと思うくらいに鋭い痛みだ。
「あんた、メイドをそういう目で見てるんだぁ……」
なんだか怖い。
今のハルは【絶望の魔人】と同じくらいの威圧感が出せている。背筋が凍る思いだ。
「オ、オーウェンくんは、そんなこと、思ってないと思います!」
顔を赤くしながら、遂に言葉を発するクロエ。
よく言ってくれた。
別に仲が悪いわけじゃないが、さほど噛み合わないハルに意見するなんて、相当な勇気がなければできないことだ。今回の勇者はクロエで決まりだろう。
そのうちクロエが魔王を倒すのかもしれない。
クロエは何かを言う度にモジモジしているわけじゃない。
ただ相手の機嫌や反応に敏感で、まっすぐ目を見れないだけだ。言葉にして発言すれば、それなりに堂々としているような印象も受ける。
「へ、へへっ、メイドか~」
空気を読まずニヤけているのは、世界で最も呑気な男アル。
今度は平手打ちを顔面に食らった。
それでもどうしてこんなに楽しそうにしていられるんだ? 驚きを通り越して尊敬に値する。
「てかクロエいたんだ。ごめん、気づかなかった」
ハルは急に発言した人物がクロエであることに、たった今気がついたらしい。
なかなか、いや、かなり失礼なことをしている。
その自覚はあるのか、クロエの肩を優しく撫でて謝っている。
言ってやりたい。
謝るくらいなら、そもそもさっきみたいな発言をするな、と。
「ぜ、全然平気です……」
嘘だ。
絶対心に響いている。
そう言うクロエの目には涙が溜まっていた。そりゃあ同じ勇者パーティーのメンバーに存在を気づかれなかったとなれば、傷つくのも当然だろう。
今後もふたりの間の溝は深まっていくだろうな。
枕を抱えながら、ポロポロ涙を流し悲しむクロエの姿が浮かんだ。
妙にリアルだ。
現実に起こっているかのように。
せっかく素晴らしい勇者パーティーに所属できたのに、せっかく仲間ができたのに、せっかく本拠地にいるのに……
【聖剣】に所属できているという状況はとても恵まれている。
多くの所属希望者が後を絶たない。
安定した生活は約束され、10人ものメイドと個性豊かな仲間達と過ごす広々とした豪邸。
総合的な環境で見れば、【聖剣】をも超える。
そんな状況下に置かれながらも、クロエは苦しんでいる。
「ハル、さっきのは酷い」
「だから謝ってるでしょ!」
庇ってくれたクロエを思い、俺からも注意するつもりだったが、ハルの逆鱗に触れることになりそうだ。
それにハルは強情で、そうと決めたら譲らないところがある。
「オーウェンくん、ありがとうございます。で、でも、あたしは大丈夫ですから」
未だ話し方に距離を感じるものの、クロエの俺に対する態度は変わってきている。
前より発言に自信がある感じだ。
話のしやすい俺だから、というのもある。
とはいえ、この調子で行けば、獣人の少女がメンバー全員と打ち解ける日も遠くないかもしれない。
問題はハルだ。
特別嫌われているとは思わないが、軽蔑の目やライバルとしての目を向けられることも多い。
観察しよう。
しっかり見て、弱点を探す。
どんな人間でも、エルフでも、神でさえも弱点はある。
だが、ハルはまだだ。
俺の勘がそう告げている。まだ焦る必要はない。俺がまず攻略すべきは、クロエなのだから。
とはいえ俺が戻ってきた頃には、すっかり元気だったが。
アルの元気と自己回復力の高さには相変わらず驚かされる。
「ぷぁ~、助かった~」
呑気にアルが言う。
回復魔術を受けると少しだけ快楽を感じる副作用みたいなものがあるので、その影響かもしれない。
まあ、アルはいつもハイだ。
正式に酒が飲めるようになってからというもの、毎日堂々とがぶ飲みしているらしい。
だから毎日が2日酔いで、毎日がハイだ。
「あんた、そろそろヤバいんじゃないの? アルコール中毒で死ぬよ」
ハルは相棒のこの様子にご立腹らしい。
その整った中性的な顔を歪ませている。
水色の瞳は冷たく、軽蔑的だ。
「大丈夫だっての。オラがそんなに簡単に死ぬわけないさ~」
「気づいたらころっと死んでるかもな」
俺も口を開いた。
「オーウェンく~ん、頼むぜ~、そんな酷いこと言うなって」
「あんたが悪いんでしょっ! あっしら心配してんだからね! 言う事聞かないなら、ウィルに頼んで本拠地での飲酒を禁じてもらうからっ!」
「そ、それだけはどうにか……それこそ死だー」
「酒場に行った時だけ飲めばいいいでしょ!」
「そうだけどさ~、たまにしか行かないし……いや、待てよ。毎日通って、酒場の常連客になればよくね?」
アルは神も驚く名案を考え付いたつもりでいる。
普通に考えればわかることだが、アルの名誉のためにもここは黙っておこう。それにしても、アルとハルの喧嘩は、やっぱり嫌いじゃない。
「そうだ! 常連になって、マスターに言おう! いつものを頼む、って。うわぁ~、それ最高じゃん! で、美人なあの店員くんとお近づきになって――うっ」
調子に乗り始めたアルを、ハルが蹴り上げる。
可哀想なことに、ハルの足には戦闘のために装着した金属が……
幸いにも、攻撃の的は腹だった。
もしこれが、アレだったら、アルはもうこの世にいない。仮に生存できていたとしても、男としての人生は終わりを迎えることになる。
「アル、無理に酒場の店員に手を出さなくてもいいだろ。この本拠地にはたくさんメイドがいるんだし」
助け舟を出すつもりで、俺が言う。
だが、その瞬間にハルからの睨みを食らった。
股間を蹴られたかと思うくらいに鋭い痛みだ。
「あんた、メイドをそういう目で見てるんだぁ……」
なんだか怖い。
今のハルは【絶望の魔人】と同じくらいの威圧感が出せている。背筋が凍る思いだ。
「オ、オーウェンくんは、そんなこと、思ってないと思います!」
顔を赤くしながら、遂に言葉を発するクロエ。
よく言ってくれた。
別に仲が悪いわけじゃないが、さほど噛み合わないハルに意見するなんて、相当な勇気がなければできないことだ。今回の勇者はクロエで決まりだろう。
そのうちクロエが魔王を倒すのかもしれない。
クロエは何かを言う度にモジモジしているわけじゃない。
ただ相手の機嫌や反応に敏感で、まっすぐ目を見れないだけだ。言葉にして発言すれば、それなりに堂々としているような印象も受ける。
「へ、へへっ、メイドか~」
空気を読まずニヤけているのは、世界で最も呑気な男アル。
今度は平手打ちを顔面に食らった。
それでもどうしてこんなに楽しそうにしていられるんだ? 驚きを通り越して尊敬に値する。
「てかクロエいたんだ。ごめん、気づかなかった」
ハルは急に発言した人物がクロエであることに、たった今気がついたらしい。
なかなか、いや、かなり失礼なことをしている。
その自覚はあるのか、クロエの肩を優しく撫でて謝っている。
言ってやりたい。
謝るくらいなら、そもそもさっきみたいな発言をするな、と。
「ぜ、全然平気です……」
嘘だ。
絶対心に響いている。
そう言うクロエの目には涙が溜まっていた。そりゃあ同じ勇者パーティーのメンバーに存在を気づかれなかったとなれば、傷つくのも当然だろう。
今後もふたりの間の溝は深まっていくだろうな。
枕を抱えながら、ポロポロ涙を流し悲しむクロエの姿が浮かんだ。
妙にリアルだ。
現実に起こっているかのように。
せっかく素晴らしい勇者パーティーに所属できたのに、せっかく仲間ができたのに、せっかく本拠地にいるのに……
【聖剣】に所属できているという状況はとても恵まれている。
多くの所属希望者が後を絶たない。
安定した生活は約束され、10人ものメイドと個性豊かな仲間達と過ごす広々とした豪邸。
総合的な環境で見れば、【聖剣】をも超える。
そんな状況下に置かれながらも、クロエは苦しんでいる。
「ハル、さっきのは酷い」
「だから謝ってるでしょ!」
庇ってくれたクロエを思い、俺からも注意するつもりだったが、ハルの逆鱗に触れることになりそうだ。
それにハルは強情で、そうと決めたら譲らないところがある。
「オーウェンくん、ありがとうございます。で、でも、あたしは大丈夫ですから」
未だ話し方に距離を感じるものの、クロエの俺に対する態度は変わってきている。
前より発言に自信がある感じだ。
話のしやすい俺だから、というのもある。
とはいえ、この調子で行けば、獣人の少女がメンバー全員と打ち解ける日も遠くないかもしれない。
問題はハルだ。
特別嫌われているとは思わないが、軽蔑の目やライバルとしての目を向けられることも多い。
観察しよう。
しっかり見て、弱点を探す。
どんな人間でも、エルフでも、神でさえも弱点はある。
だが、ハルはまだだ。
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