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第29話 魔王の最期
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四人の杖士たちがイピリア神殿に着いたときには、大陸は悪夢のような暗闇に包まれていた。
「これがまさに悪夢ってやつよ」アキラが言う。「勝ったかと思えば、次は世界が滅びるだって?」
イピリア神殿の外壁は大胆に破壊され、あちこちが燃え上がっている。
「ジャックはどこだ?」クリスが目を凝らして周囲を見渡す。
彼らデイブレイクの目的は達成された。
ユハ帝国を崩壊させ、さらには平和で新しい共和国を作り上げた。これまでに多くの種族と出会い、多くの絆を築いてきた。そんな努力が今、水の泡になろうとしている。
神殿の中では、一人のエルフの女性が、しくしくと泣いていた。
大粒の涙が地面にこぼれる。
「エリザベス!」クリスが急いで駆け寄った。「ここで何があった?」
エリザベスは相当ダメージを受けているのか、しばらく話そうとはしなかった。
瞳にいつもの輝きがない。
「クリス、聞いても無駄だ。ひどいことがあったのは間違いない。そしてその原因がジャックであることもな」
「やっぱりまだ信じられない。あのジャックが、あたしたちを裏切るなんて……」
アキラは辛そうだ。「ジャックの心にはまだ光が残っている」
「そうよ、ジャックを光に連れ戻しましょう」シエナがアキラを元気づけるように言った。
アキラはエリザベスの方をゆっくりと見た。悲しみに打ちひしがれ、絶望の果てにいるエルフだ。基本的にエルフは不老不死とされているが、目の前にいるこのエルフは今にも力尽きてしまいそうだった。
「クリス、妹のそばにいてやってくれ」アキラが決意したような声で言った。「俺が一人でジャックをとめる」
クリスは震えながら妹を抱いている。もう彼女の命が長くないこともどこかで悟っているようだった。
一方でランランは、冷たい目でアキラを見ていた。「何かっこつけてるの? ジャックはアキラの親友ってだけじゃない! あたしたちの親友でもあるもん! 絶対にあたしもジャックをとめに行くからね!」
「私も行く。デイブレイクは五人しか考えられない。ジャックがいるからデイブレイクなの」
「僕も……行く……」クリスでさえ弱々しい声で主張した。「僕の妹エリザベスは……たった今……死んだ……」
アキラが涙をこらえて目をそらす。
目の前で命が失われるのを見るのは、悲しみが深すぎる。
少し前まで明るく生きていたはずのエルフは、風とともに自然に還っていった。
「クリス……本当に行けるのか?」
「ああ、それが僕の――いや、僕たちの使命だ」まだ声は震えていたが、そこにははっきりとした決意があった。
ジャックとエイダンと魔王は、イピリア神殿を闇のエネルギーで満たすことにより、スペイゴール大陸を闇色に染めた。
クリスの妹であるエリザベスは、スペイゴールと結婚した守護者として唯一彼らに抵抗できる者だったが、黒魔術のマスターであるジャックの足元にも及ばなかった。
スペイゴールは暗闇に包まれ、ダークエルフやオーク、野蛮な狼人間といった闇の住人らが目を覚まそうとしていた。
「これで好き放題だ。俺様は大陸の半分をもらおう」エイダンが言った。
「そんなことはどうでもいい。魔王、早く悪人どもをアビス王国に連行してくれ」
ジャックの頼みは切実だった。
そもそも、彼は悪人をこの世界からほうむるためにリーサル杖士に寝返ったのだから。
「もちろんだとも」魔王が答える。「しかし二人の協力が必要だ」
四人のヒーローたちは、薄暗い世界の中で常に神経を集中させていた。
「クリスさん!」突然、どこかから女の声が聞こえた。「助けてください!」
「誰だ?」
しかし遅かった。
四人が声のあった方を確認すると、その女は何者かに切られて殺されていた。
「なんてむごいことを……」
「おい、これ、杖士の杖で切られてるぞ」アキラが言った。「この切られ方は……ジャックだ。間違いない」
「その通り、アキラ」またどこかから声が聞こえる。
周囲は暗闇で包まれていて、ほとんどわからない。
しかし、間違いなく声の主はジャックだった。
「どこにいる?」クリスが叫ぶ。
ランランはすぐに杖を構えて攻撃に備えた。
「おやおや、ジャック以外のデイブレイクに会うのは初めてかな」今度は別の声だ。
「ジャックの他にもいるらしいな」
「アキラ、お前たちに勝ち目はない」ジャックが言った。「俺はこのスペイゴールにある悪を排除しているだけだ。お前も仲間になってくれ。悪を憎む気持ちは同じだろ?」
「さっきの女の人も悪人だって言いたいのか? 彼女が何をした?」
「ほんの少しの悪も見逃したら罪になる。いいか、俺たちはそれを未然に防ぐために悪を殺しているんだ」
「ジャック! ジャックなの!?」ランランが叫んだ。「いつものジャックに戻ってよ! そんな人じゃなかったよ、ジャックは」
「ランラン、これが本当の俺だ。いつもの俺はリミッターをつけていただけの、ただの役立たず。しかしリーサル杖士の掟は教えてくれた。俺にもスペイゴールを変えられる力があると」
「ジャック、あなたはチームにはなくてはならない存在なのよ。ジャックがいないとアキラへのツッコミ担当がいなくなるわ」
「シエナ、俺たちなら世界をもっと平和にできるんだ」
我慢できなくなったアキラが、ついに杖を構えた。
杖先を正面に向け、すぐにでも攻撃に入れるようにしている。
「アキラ、やめておけ」ジャックの姿がはっきりと見えた。「お前とは戦いたくない」
「怖いのか?」アキラが挑発する。
「俺が勝つことはわかりきっているからだ。魔術師の強さを知っているだろ?」
「俺たちは魔術師なんかじゃない。選ばれし杖士だ!」
アキラはそう叫ぶと、勢いよくジャックに飛びかかった。
ジャックは簡単にその攻撃をよけ、杖を構える。
杖と杖がクロスし合い、火花が散った。
その間、クリスは魔王に、ランランとシエナはエイダンと戦っていた。
「スペイゴールをどうするつもりだ?」
魔王はクリスの高い身体能力に感心しつつも、余裕の表情で応戦している。
魔王は自分の手から放出する黒魔術の技が武器だ。
「できるだけ多くの命を奪い、私の王国に連れて帰る。私の目的はそれだけだ」
「そんなことは許さない!!」
クリスが空中に跳び上がり、頭上から魔王に切りつけた。
予想外の攻撃だったのか、クリスの杖は魔王に頭にクリティカルヒット。かなり大きなダメージを与えた。
そのまま体をうまく回転させて着地し、今度は下を起点に攻撃を繰り出す。
魔王は軽い脳震盪を起こしていた。人間ではないので、そう簡単に死ぬことはないが、杖士の杖には魔法のエネルギーが閉じ込められている。そうして放出されたエネルギーが、魔王の頭の一部を破壊した。
「僕たちはジャックを取り戻す! 悪の道には進ませない!」
もう魔王には返事をする余裕がないようだ。過呼吸になりながら戦っている。
クリスの一撃が魔王の胸に傷をつけ、その衝撃で魔王は後ろによろけた。その隙をクリスはうまく突き、杖を思いきり胸に刺し込んだ。
スペイゴールで最も神聖なものともいわれる杖士の杖が、魔王の体を貫通した。
その勢いのまま杖を引き抜くと、魔王は力尽きたように地面に倒れた。
「スペイゴールは僕たちが守る。僕の妹を……妹が愛した……スペイゴールを」
魔王はもう死ぬ直前だった。「お前の実力はかなりのものだ……私がいなくなれば、アビス王国の統治者はいなくなる……ジャックに伝えてほしい……アビス王国を任せた……と」
それだけを言い残し、魔王はこの世を去った。
難しい話にはなるが、魔王は死んでもアビス王国に行かず、別の世界に旅立つ。
とにかく、アビス王国の統治者は消え去った。
「エリザベス……」クリスはただ、そうつぶやいた。
★ ★ ★
~作者のコメント~
また波乱の展開ですね。
ジャックVSアキラの、親友どうしでの戦いが始まってしまいました。
一方でクリスは、闇の力を持つ魔王をタイマンでノックアウト。彼の強さは健在です。
どんな結末を迎えるのか。最後まで応援よろしくお願いいたします。
「これがまさに悪夢ってやつよ」アキラが言う。「勝ったかと思えば、次は世界が滅びるだって?」
イピリア神殿の外壁は大胆に破壊され、あちこちが燃え上がっている。
「ジャックはどこだ?」クリスが目を凝らして周囲を見渡す。
彼らデイブレイクの目的は達成された。
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神殿の中では、一人のエルフの女性が、しくしくと泣いていた。
大粒の涙が地面にこぼれる。
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エリザベスは相当ダメージを受けているのか、しばらく話そうとはしなかった。
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「クリス、聞いても無駄だ。ひどいことがあったのは間違いない。そしてその原因がジャックであることもな」
「やっぱりまだ信じられない。あのジャックが、あたしたちを裏切るなんて……」
アキラは辛そうだ。「ジャックの心にはまだ光が残っている」
「そうよ、ジャックを光に連れ戻しましょう」シエナがアキラを元気づけるように言った。
アキラはエリザベスの方をゆっくりと見た。悲しみに打ちひしがれ、絶望の果てにいるエルフだ。基本的にエルフは不老不死とされているが、目の前にいるこのエルフは今にも力尽きてしまいそうだった。
「クリス、妹のそばにいてやってくれ」アキラが決意したような声で言った。「俺が一人でジャックをとめる」
クリスは震えながら妹を抱いている。もう彼女の命が長くないこともどこかで悟っているようだった。
一方でランランは、冷たい目でアキラを見ていた。「何かっこつけてるの? ジャックはアキラの親友ってだけじゃない! あたしたちの親友でもあるもん! 絶対にあたしもジャックをとめに行くからね!」
「私も行く。デイブレイクは五人しか考えられない。ジャックがいるからデイブレイクなの」
「僕も……行く……」クリスでさえ弱々しい声で主張した。「僕の妹エリザベスは……たった今……死んだ……」
アキラが涙をこらえて目をそらす。
目の前で命が失われるのを見るのは、悲しみが深すぎる。
少し前まで明るく生きていたはずのエルフは、風とともに自然に還っていった。
「クリス……本当に行けるのか?」
「ああ、それが僕の――いや、僕たちの使命だ」まだ声は震えていたが、そこにははっきりとした決意があった。
ジャックとエイダンと魔王は、イピリア神殿を闇のエネルギーで満たすことにより、スペイゴール大陸を闇色に染めた。
クリスの妹であるエリザベスは、スペイゴールと結婚した守護者として唯一彼らに抵抗できる者だったが、黒魔術のマスターであるジャックの足元にも及ばなかった。
スペイゴールは暗闇に包まれ、ダークエルフやオーク、野蛮な狼人間といった闇の住人らが目を覚まそうとしていた。
「これで好き放題だ。俺様は大陸の半分をもらおう」エイダンが言った。
「そんなことはどうでもいい。魔王、早く悪人どもをアビス王国に連行してくれ」
ジャックの頼みは切実だった。
そもそも、彼は悪人をこの世界からほうむるためにリーサル杖士に寝返ったのだから。
「もちろんだとも」魔王が答える。「しかし二人の協力が必要だ」
四人のヒーローたちは、薄暗い世界の中で常に神経を集中させていた。
「クリスさん!」突然、どこかから女の声が聞こえた。「助けてください!」
「誰だ?」
しかし遅かった。
四人が声のあった方を確認すると、その女は何者かに切られて殺されていた。
「なんてむごいことを……」
「おい、これ、杖士の杖で切られてるぞ」アキラが言った。「この切られ方は……ジャックだ。間違いない」
「その通り、アキラ」またどこかから声が聞こえる。
周囲は暗闇で包まれていて、ほとんどわからない。
しかし、間違いなく声の主はジャックだった。
「どこにいる?」クリスが叫ぶ。
ランランはすぐに杖を構えて攻撃に備えた。
「おやおや、ジャック以外のデイブレイクに会うのは初めてかな」今度は別の声だ。
「ジャックの他にもいるらしいな」
「アキラ、お前たちに勝ち目はない」ジャックが言った。「俺はこのスペイゴールにある悪を排除しているだけだ。お前も仲間になってくれ。悪を憎む気持ちは同じだろ?」
「さっきの女の人も悪人だって言いたいのか? 彼女が何をした?」
「ほんの少しの悪も見逃したら罪になる。いいか、俺たちはそれを未然に防ぐために悪を殺しているんだ」
「ジャック! ジャックなの!?」ランランが叫んだ。「いつものジャックに戻ってよ! そんな人じゃなかったよ、ジャックは」
「ランラン、これが本当の俺だ。いつもの俺はリミッターをつけていただけの、ただの役立たず。しかしリーサル杖士の掟は教えてくれた。俺にもスペイゴールを変えられる力があると」
「ジャック、あなたはチームにはなくてはならない存在なのよ。ジャックがいないとアキラへのツッコミ担当がいなくなるわ」
「シエナ、俺たちなら世界をもっと平和にできるんだ」
我慢できなくなったアキラが、ついに杖を構えた。
杖先を正面に向け、すぐにでも攻撃に入れるようにしている。
「アキラ、やめておけ」ジャックの姿がはっきりと見えた。「お前とは戦いたくない」
「怖いのか?」アキラが挑発する。
「俺が勝つことはわかりきっているからだ。魔術師の強さを知っているだろ?」
「俺たちは魔術師なんかじゃない。選ばれし杖士だ!」
アキラはそう叫ぶと、勢いよくジャックに飛びかかった。
ジャックは簡単にその攻撃をよけ、杖を構える。
杖と杖がクロスし合い、火花が散った。
その間、クリスは魔王に、ランランとシエナはエイダンと戦っていた。
「スペイゴールをどうするつもりだ?」
魔王はクリスの高い身体能力に感心しつつも、余裕の表情で応戦している。
魔王は自分の手から放出する黒魔術の技が武器だ。
「できるだけ多くの命を奪い、私の王国に連れて帰る。私の目的はそれだけだ」
「そんなことは許さない!!」
クリスが空中に跳び上がり、頭上から魔王に切りつけた。
予想外の攻撃だったのか、クリスの杖は魔王に頭にクリティカルヒット。かなり大きなダメージを与えた。
そのまま体をうまく回転させて着地し、今度は下を起点に攻撃を繰り出す。
魔王は軽い脳震盪を起こしていた。人間ではないので、そう簡単に死ぬことはないが、杖士の杖には魔法のエネルギーが閉じ込められている。そうして放出されたエネルギーが、魔王の頭の一部を破壊した。
「僕たちはジャックを取り戻す! 悪の道には進ませない!」
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スペイゴールで最も神聖なものともいわれる杖士の杖が、魔王の体を貫通した。
その勢いのまま杖を引き抜くと、魔王は力尽きたように地面に倒れた。
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魔王はもう死ぬ直前だった。「お前の実力はかなりのものだ……私がいなくなれば、アビス王国の統治者はいなくなる……ジャックに伝えてほしい……アビス王国を任せた……と」
それだけを言い残し、魔王はこの世を去った。
難しい話にはなるが、魔王は死んでもアビス王国に行かず、別の世界に旅立つ。
とにかく、アビス王国の統治者は消え去った。
「エリザベス……」クリスはただ、そうつぶやいた。
★ ★ ★
~作者のコメント~
また波乱の展開ですね。
ジャックVSアキラの、親友どうしでの戦いが始まってしまいました。
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