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第30話 スペイゴールの未来
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アキラはジャックを殺す気ではなかったが、ジャックはもう完全にアキラを敵視していた。
「お前の力は俺に及ばない、アキラ! 俺はスペイゴール最高の魔術師だ!」
「違う! 俺たちはスペイゴール最強の杖士だ!」
アキラの杖がジャックの肩をかすめる。
純粋な杖術だけでの戦闘だったら、アキラの方にアドバンテージがある。
ジャックが反動をつけて後ろに大きく跳び上がった。アキラと適度な距離を取る。
「どうやら杖では勝てないようだ。だが、魔術でなら」
ジャックがゴミを捨てるかのように杖を投げ、手の中に青い稲妻のエネルギーを呼び起こした。
「杖士としての誇りはないのか!? 杖は神聖なものだ! 投げ捨てることなんて許されない!」
「くだらない掟に縛れるか!」
青い稲妻が、アキラの方めがけて勢いよく飛び出す。
アキラは杖でその攻撃を受け止め、なんとか吸収した。
「まだまだ余裕だぞ」
「だろうな」
ジャックの目が紫に光り、地面が不気味に動き出す。何かが地面から出てこようとしているかのようだ。
「闇の兵士たちよ、アキラを殺せ」
ジャックの命令により、地面から二十体以上の骸骨兵が現れた。
これまでのスペイゴールでは見ることがなかった光景だ。黒魔術に精通した優れた魔術師でない限り、骸骨兵を呼び出すことはできない。ジャックは何世紀ものときを経て、憎しみに満ちた骸骨兵を地上に呼び戻した。
「スペイゴールを崩壊させる気か!?」アキラが叫ぶ。
しかし、アキラは骸骨兵に囲まれて、ジャックと対峙できない。骸骨兵は金の短剣を握り、ジャックの命令に忠実に、アキラを殺そうとしている。
「しばらく遊んでいろ。エイダンを始末してくる」
「どういう意味だ? あいつは仲間じゃないのか?」
「俺が世界で最も憎いものはリーサル杖士だ! 知っているだろ!」
「……だからって、エイダンはお前の仲間じゃ――」
「最初からそう思ってなどいない」
骸骨兵と戦うアキラを残し、ジャックは闇に消えた。
ランランとシエナは、リーサル杖士であるエイダンと死闘を繰り広げていた。
ランランの杖術はスペイゴール最高レベル。
流石のエイダンもランランの腕前にはついていけない。
シエナは攻撃型の杖さばきで、エイダンを後方に徐々に追い詰めていた。
「残念だけど、もう終わりね」シエナが穏やかに言う。
「あなたの目的はなんなの!?」ランランが聞く。「どうしてジャックを――」
「ただ殺しがしたかっただけだ。それに、ジャックには闇の一面があった。やつの強い憎しみは、俺様の楽しみに利用できる」
「血も涙もないやつね」シエナが冷酷な表情で言う。
「お嬢ちゃん、俺様を殺せると思っているのか? ジャックがすぐにお前たちを殺しにくるぞ」
エイダンは余裕の表情だった。
それもそのはず。エイダンはジャックがすぐにこっちに駆けつけるであろうことを知っていた。
「ランラン、シエナ」案の定、ジャックが後ろにやってきた。「それ以上エイダンに攻撃するな」
「ジャック、目を覚まして! あたし、まだジャックが正義の杖士だって信じてるよ!」ランランが目を輝かせて言う。「お願い! 戻ってきて!」
ジャックの目には光などなかった。「悪いが、もう遅い」
そう言って杖を抜く。
「言ったはずだ! 俺様には勝てない!」エイダンはすっかり勝った気でいる。
ジャックが少しずつエイダンに近づいていた。
「やめろ! ジャック!」アキラが駆けつけてきた。
「よく骸骨兵を倒したな」
「あんな骸骨に、俺たちの友情を壊されてたまるかよ!」
「ジャック、君はデイブレイクのメンバーだ! 君がいなければデイブレイクではない!」クリスも戻っている。
ジャックは二人を無視し、エイダンの隣に立った。
エイダンはニヤっとして、四人を挑発した。
しかし、ジャックの手にはしっかりと杖が握られている。その杖でエイダンを切る気だ。
「ジャック、待て!」アキラが叫ぶ。「エイダン、逃げろ!」
アキラの警告は遅かった。
何も言う間もなく、エイダンの首はあっけなく落ちた。ジャックの杖に血がついている。
「ジャック……なんでこんなことを……」クリスは苦しそうだ。
「これが本当の俺だ……」
スペイゴールはこれまでにない闇に包まれていた。希望もなければ、正義もない。
「ジャック、これからどうする気だ?」アキラが聞いた。「スペイゴールを支配して、何をする? 状況はさらに悪くなった」
「最初は悪を撲滅する気でいた。だが……俺ならそれ以上のことができる。スペイゴールを一度作り直し、新しい、希望に満ちた世界を作る」
「今ここに生きる者たちはどうする気だ?」とクリス。
「もうここまできたんだ、クリス。後戻りはできない。今俺がこれをやめたら……」
「まだ間に合う、ジャック! 魔王は君にアビス王国を任せた! 僕たちにはまだ希望があるんだ! デイブレイクは不滅だよ! 帝国を滅ぼし、新しい共和国を作った。僕たち五人で、やり直そう!」
ジャックの顔が苦痛に歪む。「五人で?」
「ああ、五人で」
「俺たちは最初から最後まで一緒だ。またこのスペイゴールに光を届けようぜ」
「あたし、ジャックが戻ってくるって、信じてるよ!」
デイブレイクの仲間だった。
いつもそばにいれくれたのはこの四人だった。
ジャックの闇に支配された心が揺らぐ。
何をすべきなのかがわからなくなった。
「こんな俺を……許すと言うのか……?」
シエナが優しくうなずく。「当たり前でしょ。私たちにはジャックが必要だもの」
クリスも、アキラも、ランランも、ためらうことなくうなずいた。
ジャックの杖が、音をたてて地面に落ちる。
闇は薄くなっていた。
こんな仲間がいる。
人を容赦なく殺し、闇に蝕まれた男を許してくれる仲間がいる。そうとはいっても、犯してしまった罪は軽くならない。
膝を着き、崩れるように地面に倒れ込んだ。
翌朝、スペイゴールは久しぶりに明るい朝を迎えていた。
昨日のことは嘘のようだ。
スペイゴールを覆っていた暗闇が消えたことにより、ダークエルフや闇の住人たちも、もといた世界に戻っていった。
「ジャック、本当に行くのか?」
デイブレイク共和国の勝利を祝うパレードが行われている中、アキラが心配そうな顔でジャックに聞いた。
街はもうお祭りムードである。
デイブレイクの五人は、戦争に勝利を導いた英雄として扱われていた。
「すぐ帰ってくるよな?」
「わからない。自分自身の罪を償わなくては。魔術師の見習いとして、アビス王国の支配人として、またゼロからやり直したい」
「また会える?」ランランが聞く。
「それは保証する。約束だ。俺が傷つけてしまった全ての者に報いってから、にはなるが」
「頑張ろうね」
四人に見送られながら、杖士を引退したジャックは自分の道を追い求めるために旅立った。
「チームは解散だな」アキラが言う。「仲間なのには変わりないが、ジャックは自分の道に進んだんだ。俺たちも前に一歩前進しないと」
「えー、嫌だよー」ランランは今にも泣き出しそうだ。
「ランラン、僕たちはずっと仲間だ。デイブレイクは解散だけど、この国が永遠に続く限り、僕たちの友情も永遠に続く」
クリスとランランがキスをした。
「私たちも、キスする?」シエナがアキラを見る。
アキラは果てしなく広がる地平線を眺めていた。
スペイゴールの自然はどんなものよりも美しいといわれている。しかし、彼の側には、さらに美しい女神がキスを待っていた。
「そう……俺たちは最強のチームなんだ」
アキラはただ、そうつぶやいた。
★ ★ ★
~作者のコメント~
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
彼らデイブレイクの戦いはまだまだ続きそうですが、それはみなさんの想像次第ですね。
これからもいい作品を作り続けられるよう、頑張ります。
あとがきも用意しているので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
「お前の力は俺に及ばない、アキラ! 俺はスペイゴール最高の魔術師だ!」
「違う! 俺たちはスペイゴール最強の杖士だ!」
アキラの杖がジャックの肩をかすめる。
純粋な杖術だけでの戦闘だったら、アキラの方にアドバンテージがある。
ジャックが反動をつけて後ろに大きく跳び上がった。アキラと適度な距離を取る。
「どうやら杖では勝てないようだ。だが、魔術でなら」
ジャックがゴミを捨てるかのように杖を投げ、手の中に青い稲妻のエネルギーを呼び起こした。
「杖士としての誇りはないのか!? 杖は神聖なものだ! 投げ捨てることなんて許されない!」
「くだらない掟に縛れるか!」
青い稲妻が、アキラの方めがけて勢いよく飛び出す。
アキラは杖でその攻撃を受け止め、なんとか吸収した。
「まだまだ余裕だぞ」
「だろうな」
ジャックの目が紫に光り、地面が不気味に動き出す。何かが地面から出てこようとしているかのようだ。
「闇の兵士たちよ、アキラを殺せ」
ジャックの命令により、地面から二十体以上の骸骨兵が現れた。
これまでのスペイゴールでは見ることがなかった光景だ。黒魔術に精通した優れた魔術師でない限り、骸骨兵を呼び出すことはできない。ジャックは何世紀ものときを経て、憎しみに満ちた骸骨兵を地上に呼び戻した。
「スペイゴールを崩壊させる気か!?」アキラが叫ぶ。
しかし、アキラは骸骨兵に囲まれて、ジャックと対峙できない。骸骨兵は金の短剣を握り、ジャックの命令に忠実に、アキラを殺そうとしている。
「しばらく遊んでいろ。エイダンを始末してくる」
「どういう意味だ? あいつは仲間じゃないのか?」
「俺が世界で最も憎いものはリーサル杖士だ! 知っているだろ!」
「……だからって、エイダンはお前の仲間じゃ――」
「最初からそう思ってなどいない」
骸骨兵と戦うアキラを残し、ジャックは闇に消えた。
ランランとシエナは、リーサル杖士であるエイダンと死闘を繰り広げていた。
ランランの杖術はスペイゴール最高レベル。
流石のエイダンもランランの腕前にはついていけない。
シエナは攻撃型の杖さばきで、エイダンを後方に徐々に追い詰めていた。
「残念だけど、もう終わりね」シエナが穏やかに言う。
「あなたの目的はなんなの!?」ランランが聞く。「どうしてジャックを――」
「ただ殺しがしたかっただけだ。それに、ジャックには闇の一面があった。やつの強い憎しみは、俺様の楽しみに利用できる」
「血も涙もないやつね」シエナが冷酷な表情で言う。
「お嬢ちゃん、俺様を殺せると思っているのか? ジャックがすぐにお前たちを殺しにくるぞ」
エイダンは余裕の表情だった。
それもそのはず。エイダンはジャックがすぐにこっちに駆けつけるであろうことを知っていた。
「ランラン、シエナ」案の定、ジャックが後ろにやってきた。「それ以上エイダンに攻撃するな」
「ジャック、目を覚まして! あたし、まだジャックが正義の杖士だって信じてるよ!」ランランが目を輝かせて言う。「お願い! 戻ってきて!」
ジャックの目には光などなかった。「悪いが、もう遅い」
そう言って杖を抜く。
「言ったはずだ! 俺様には勝てない!」エイダンはすっかり勝った気でいる。
ジャックが少しずつエイダンに近づいていた。
「やめろ! ジャック!」アキラが駆けつけてきた。
「よく骸骨兵を倒したな」
「あんな骸骨に、俺たちの友情を壊されてたまるかよ!」
「ジャック、君はデイブレイクのメンバーだ! 君がいなければデイブレイクではない!」クリスも戻っている。
ジャックは二人を無視し、エイダンの隣に立った。
エイダンはニヤっとして、四人を挑発した。
しかし、ジャックの手にはしっかりと杖が握られている。その杖でエイダンを切る気だ。
「ジャック、待て!」アキラが叫ぶ。「エイダン、逃げろ!」
アキラの警告は遅かった。
何も言う間もなく、エイダンの首はあっけなく落ちた。ジャックの杖に血がついている。
「ジャック……なんでこんなことを……」クリスは苦しそうだ。
「これが本当の俺だ……」
スペイゴールはこれまでにない闇に包まれていた。希望もなければ、正義もない。
「ジャック、これからどうする気だ?」アキラが聞いた。「スペイゴールを支配して、何をする? 状況はさらに悪くなった」
「最初は悪を撲滅する気でいた。だが……俺ならそれ以上のことができる。スペイゴールを一度作り直し、新しい、希望に満ちた世界を作る」
「今ここに生きる者たちはどうする気だ?」とクリス。
「もうここまできたんだ、クリス。後戻りはできない。今俺がこれをやめたら……」
「まだ間に合う、ジャック! 魔王は君にアビス王国を任せた! 僕たちにはまだ希望があるんだ! デイブレイクは不滅だよ! 帝国を滅ぼし、新しい共和国を作った。僕たち五人で、やり直そう!」
ジャックの顔が苦痛に歪む。「五人で?」
「ああ、五人で」
「俺たちは最初から最後まで一緒だ。またこのスペイゴールに光を届けようぜ」
「あたし、ジャックが戻ってくるって、信じてるよ!」
デイブレイクの仲間だった。
いつもそばにいれくれたのはこの四人だった。
ジャックの闇に支配された心が揺らぐ。
何をすべきなのかがわからなくなった。
「こんな俺を……許すと言うのか……?」
シエナが優しくうなずく。「当たり前でしょ。私たちにはジャックが必要だもの」
クリスも、アキラも、ランランも、ためらうことなくうなずいた。
ジャックの杖が、音をたてて地面に落ちる。
闇は薄くなっていた。
こんな仲間がいる。
人を容赦なく殺し、闇に蝕まれた男を許してくれる仲間がいる。そうとはいっても、犯してしまった罪は軽くならない。
膝を着き、崩れるように地面に倒れ込んだ。
翌朝、スペイゴールは久しぶりに明るい朝を迎えていた。
昨日のことは嘘のようだ。
スペイゴールを覆っていた暗闇が消えたことにより、ダークエルフや闇の住人たちも、もといた世界に戻っていった。
「ジャック、本当に行くのか?」
デイブレイク共和国の勝利を祝うパレードが行われている中、アキラが心配そうな顔でジャックに聞いた。
街はもうお祭りムードである。
デイブレイクの五人は、戦争に勝利を導いた英雄として扱われていた。
「すぐ帰ってくるよな?」
「わからない。自分自身の罪を償わなくては。魔術師の見習いとして、アビス王国の支配人として、またゼロからやり直したい」
「また会える?」ランランが聞く。
「それは保証する。約束だ。俺が傷つけてしまった全ての者に報いってから、にはなるが」
「頑張ろうね」
四人に見送られながら、杖士を引退したジャックは自分の道を追い求めるために旅立った。
「チームは解散だな」アキラが言う。「仲間なのには変わりないが、ジャックは自分の道に進んだんだ。俺たちも前に一歩前進しないと」
「えー、嫌だよー」ランランは今にも泣き出しそうだ。
「ランラン、僕たちはずっと仲間だ。デイブレイクは解散だけど、この国が永遠に続く限り、僕たちの友情も永遠に続く」
クリスとランランがキスをした。
「私たちも、キスする?」シエナがアキラを見る。
アキラは果てしなく広がる地平線を眺めていた。
スペイゴールの自然はどんなものよりも美しいといわれている。しかし、彼の側には、さらに美しい女神がキスを待っていた。
「そう……俺たちは最強のチームなんだ」
アキラはただ、そうつぶやいた。
★ ★ ★
~作者のコメント~
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
彼らデイブレイクの戦いはまだまだ続きそうですが、それはみなさんの想像次第ですね。
これからもいい作品を作り続けられるよう、頑張ります。
あとがきも用意しているので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
応援ありがとうございます!
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