ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

文字の大きさ
140 / 178
フロストハウル編

第140話 彼氏を見ただけでヒロインが覚醒するというラブコメ

 黒瀬くろせがヴェルウェザーと話をしている間、ステージではお互いの全力をぶつけ合う真剣勝負が行われていた。

 Cランク冒険者の白桃しらももと、Bランク超人のおか

 冒険者にとって、ランクは残酷なものだ。
 白桃は戦い始めてすぐ、岡の実力がBランクであるという仮説を確信・・に変えた。

 たった1つランクが違うだけでも、スペックの差や魔力の差はかなり大きい。地道に研鑽を積み重ね、自分の限界を打ち破った時――ようやくランクが1つ上がる。
 ランクを上げることはそれだけ難しく、過酷なのだ。

 ところが、白桃はそんなランクの差に果敢に挑み、格上キラーの実力を遺憾なく発揮していた。

「Cランクとは思えませんね。ランクアップしたことを隠していた、ということでしょうか」

「それだったらいいけど……」

 ランクが格上である場合、戦闘は圧倒的に有利だ。

 しかし、岡は白桃の実力に動揺していた。
 攻撃は全て防がれている上に、反撃は一撃一撃が正確無比。

 冒険者の中にはランクアップを組織の判断で隠している者もいる。不正登録ということで、政府にバレれば罰則を食らうということも起こり得るが、隠し通すことができればいざという時の切り札にもなるのだ。

 SランクになったのにAランクで登録されたまま、などという不正の発覚はまだないものの、CランクのはずがBランクだった、というレベルでの不正登録は多くの組織で頻繁に起こっていた。
 岡は今回、白桃に対し不正登録を疑ったのだ。

 だが白桃は正真正銘のCランク冒険者。

 昇格したのはほんの数ヶ月前だ。

「ですが……この力は……」

 完全に侮っていた。

 岡にとっての白桃は格下。
 これまで手を出せなかったのは黒瀬才斗さいとというSランク冒険者が近くにいたから。

 今のような他の介入を許さない形での決闘で、負けるはずなどないのだ。

 岡は暗殺者組織【アサシン】で育った。両親もまた組織の者だったので、赤子の頃から【アサシン】に関わっていたということになる。

 暗殺者としての英才教育を受け、【選別の泉】に入り、超人としての力を得た。

 暗殺者の両親から生まれた子供ということで、才能には恵まれていた。

 これまで任務に失敗したことはない。
 【アサシン】では基本、暗殺者よりも格下の冒険者の暗殺を任される。そのため組織全体で任務失敗が少ないことも事実だが……これまでは圧倒的な力量差で余裕を持って暗殺ができていた。

 それが、ここに来て初めて格下に苦戦している。
 動揺するのも無理はない。

 白桃の攻撃を剣で防ぎながら、客席にいるヴェルウェザーに視線を送る。

 ――なっ……。

 ここでようやく、黒瀬の存在に気付いた。

 戦場となっているこの特殊なステージが、他の介入を許さないという説明は受けている。しかし、もし白桃との戦いが終わり、勝利を収めれば――そのバリアフィールドは解除されるとも聞かされていた。

 つまり、ここで白桃に勝っても、結局Sランク冒険者の黒瀬と戦うことになる。

 ――僕は今日……ここで死ぬということですか……。

 岡は、悟った。



 ***



 ヴェルウェザーは自分の野望の達成に俺たち・・・が必要だと言った。
 だが、これ以上は何も教えてくれなかった。

 とはいえここで、1つ仮説が立てられる。

 少なくとも、俺と楓香ふうかはここでは死なない。
 ステージでの戦いの結末はまったく予測できないが、ヴェルウェザーは楓香を殺したいなんて微塵も思っていないのではないか。

 これまで何度も楓香を殺すチャンスはあったはず。

 それなのに、ヴェルウェザーは楓香や俺に危害は加えても、殺すことはしなかった。
 むしろ、ヤツの用意した刺客と戦った後には、冒険者としての実力がグンと高まっているような気がする。

 俺がSランクに昇格したきっかけも、【ダークエイジ】からの刺客ジェシカとの戦闘だ。

「いろいろと思考を巡らせているようだ……キミも薄々勘付いたかもしれないが、ボクはここで白桃楓香を殺すつもりはない」

「だとしたら、なんでこんなことを――ッ」

 ハッとした。

 ――ヴェルウェザーは楓香のランクアップを促そうとしている。

「よく見ているといい。白桃楓香が観客席のキミに気付いた瞬間、勝負は終わる」

 そして、その言葉は現実になった。

 岡がこっちに視線を送ったのを見た楓香が、チラッと同じように客席に目を向ける。俺と目が合い、彼女の真紅の瞳が燃え上がった。

 守備重視のピトー派。
 着実に防いでいた攻撃を手首のスナップで一気に弾き返し、岡の体勢を崩した隙に下から斬り込む。

 岡はその一連の流れに対応できなかった。明らかにそれはピトー派の動きではなく、ルーテン派の器用な反撃・・だった。

 ルーテン派は俺が普段愛用している型。特に教えたわけでもないのに、楓香は俺から学んでいた。俺の技術を盗んでいた。

 楓香の剣が岡の腹を斬り、勝利が確定する。
 ざっくり斬られた岡は、地面に膝から崩れ落ちた。応急処置をすれば死ぬことはないだろう。だが、ヴェルウェザーのことだ。

 速攻で頭を吹き飛ばし――。

「素晴らしい……」

 再びフードをかぶって表情を隠しながら、パチパチと拍手を送るヴェルウェザー。

「ヴェルウェザー様……僕の頭を吹き飛ばしてください……」

 苦しそうな表情で懇願する岡。
 彼の命は残り僅かだろう。

 暗殺者であったとしても、半年間の仲であるクラスメイトの頭が吹っ飛ぶのは見たくない。手を前にかざしながら目を逸らす。

 だが――。

 5秒ほど待っても、例の爆発音は聞こえてこない。

「面白い……ここでキミを殺すのはもったいないのかもしれない……」

 ヴェルウェザーは手を下さなかった。

 拍手を維持したまま、消える。
 元々彼の肉体はここにないのだから、ホログラムが消えたと言った方がわかりやすいか。

 小さな劇場には、俺と楓香、呆然とした岡が残された。

「才斗くーん!」

 俺も割と呆然としていたと思う。
 そんなところに楓香の愛のタックル。

 ステージから大きく飛躍した楓香は、そのまま俺の体に抱きついてきた。

 優しく受け止め、よしよしと頭を撫でる。

「話すべきことはいろいろあると思うが、まずは岡の治療だな。このままだと出血多量で死ぬぞ」

「……才斗くんは優しいですよね」

「生きて罪を償ってもらおうと思っただけだ」

 そうは言ったが、岡もまた、俺たちと同様にヴェルウェザーの駒にされている人物。少しだけ同情してしまったのかもしれないな。

 岡をどう連れ出そうか考えていると、都合良くステージ上に空間転移装置が現れる。とはいえ、これがヴェルウェザーの意図であることはほぼ間違いないだろう。
 ここで殺される理由はないような気もするので、深く警戒せずに利用した方が良さそうだ。

「3人全員で入るぞ」

 気絶してしまった岡を抱え、装置に入る。
 きっと3人でも問題なく作動するだろう。

「才斗くんは大丈夫でしたか? 爆発音みたいなのが鳴って、椎名しいなさんが様子を見に行ったんですけど……」

「その件に関してはいろいろあったが、全員無事だ。そんなことより――」

 楓香の真紅の瞳の中に、俺の真紅の瞳が映る。
 その瞳は真剣だ。

「――楓香もBランクか。部下の成長は早いな」
感想 1

あなたにおすすめの小説

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた

里奈使徒
キャラ文芸
 白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。  財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。  計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。  しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。  これは愛なのか、それとも支配なのか?  偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?  マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。 「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——