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フロストハウル編
第140話 彼氏を見ただけでヒロインが覚醒するというラブコメ
黒瀬がヴェルウェザーと話をしている間、ステージではお互いの全力をぶつけ合う真剣勝負が行われていた。
Cランク冒険者の白桃と、Bランク超人の岡。
冒険者にとって、ランクは残酷なものだ。
白桃は戦い始めてすぐ、岡の実力がBランクであるという仮説を確信に変えた。
たった1つランクが違うだけでも、スペックの差や魔力の差はかなり大きい。地道に研鑽を積み重ね、自分の限界を打ち破った時――ようやくランクが1つ上がる。
ランクを上げることはそれだけ難しく、過酷なのだ。
ところが、白桃はそんなランクの差に果敢に挑み、格上キラーの実力を遺憾なく発揮していた。
「Cランクとは思えませんね。ランクアップしたことを隠していた、ということでしょうか」
「それだったらいいけど……」
ランクが格上である場合、戦闘は圧倒的に有利だ。
しかし、岡は白桃の実力に動揺していた。
攻撃は全て防がれている上に、反撃は一撃一撃が正確無比。
冒険者の中にはランクアップを組織の判断で隠している者もいる。不正登録ということで、政府にバレれば罰則を食らうということも起こり得るが、隠し通すことができればいざという時の切り札にもなるのだ。
SランクになったのにAランクで登録されたまま、などという不正の発覚はまだないものの、CランクのはずがBランクだった、というレベルでの不正登録は多くの組織で頻繁に起こっていた。
岡は今回、白桃に対し不正登録を疑ったのだ。
だが白桃は正真正銘のCランク冒険者。
昇格したのはほんの数ヶ月前だ。
「ですが……この力は……」
完全に侮っていた。
岡にとっての白桃は格下。
これまで手を出せなかったのは黒瀬才斗というSランク冒険者が近くにいたから。
今のような他の介入を許さない形での決闘で、負けるはずなどないのだ。
岡は暗殺者組織【アサシン】で育った。両親もまた組織の者だったので、赤子の頃から【アサシン】に関わっていたということになる。
暗殺者としての英才教育を受け、【選別の泉】に入り、超人としての力を得た。
暗殺者の両親から生まれた子供ということで、才能には恵まれていた。
これまで任務に失敗したことはない。
【アサシン】では基本、暗殺者よりも格下の冒険者の暗殺を任される。そのため組織全体で任務失敗が少ないことも事実だが……これまでは圧倒的な力量差で余裕を持って暗殺ができていた。
それが、ここに来て初めて格下に苦戦している。
動揺するのも無理はない。
白桃の攻撃を剣で防ぎながら、客席にいるヴェルウェザーに視線を送る。
――なっ……。
ここでようやく、黒瀬の存在に気付いた。
戦場となっているこの特殊なステージが、他の介入を許さないという説明は受けている。しかし、もし白桃との戦いが終わり、勝利を収めれば――そのバリアフィールドは解除されるとも聞かされていた。
つまり、ここで白桃に勝っても、結局Sランク冒険者の黒瀬と戦うことになる。
――僕は今日……ここで死ぬということですか……。
岡は、悟った。
***
ヴェルウェザーは自分の野望の達成に俺たちが必要だと言った。
だが、これ以上は何も教えてくれなかった。
とはいえここで、1つ仮説が立てられる。
少なくとも、俺と楓香はここでは死なない。
ステージでの戦いの結末はまったく予測できないが、ヴェルウェザーは楓香を殺したいなんて微塵も思っていないのではないか。
これまで何度も楓香を殺すチャンスはあったはず。
それなのに、ヴェルウェザーは楓香や俺に危害は加えても、殺すことはしなかった。
むしろ、ヤツの用意した刺客と戦った後には、冒険者としての実力がグンと高まっているような気がする。
俺がSランクに昇格したきっかけも、【ダークエイジ】からの刺客ジェシカとの戦闘だ。
「いろいろと思考を巡らせているようだ……キミも薄々勘付いたかもしれないが、ボクはここで白桃楓香を殺すつもりはない」
「だとしたら、なんでこんなことを――ッ」
ハッとした。
――ヴェルウェザーは楓香のランクアップを促そうとしている。
「よく見ているといい。白桃楓香が観客席のキミに気付いた瞬間、勝負は終わる」
そして、その言葉は現実になった。
岡がこっちに視線を送ったのを見た楓香が、チラッと同じように客席に目を向ける。俺と目が合い、彼女の真紅の瞳が燃え上がった。
守備重視のピトー派。
着実に防いでいた攻撃を手首のスナップで一気に弾き返し、岡の体勢を崩した隙に下から斬り込む。
岡はその一連の流れに対応できなかった。明らかにそれはピトー派の動きではなく、ルーテン派の器用な反撃だった。
ルーテン派は俺が普段愛用している型。特に教えたわけでもないのに、楓香は俺から学んでいた。俺の技術を盗んでいた。
楓香の剣が岡の腹を斬り、勝利が確定する。
ざっくり斬られた岡は、地面に膝から崩れ落ちた。応急処置をすれば死ぬことはないだろう。だが、ヴェルウェザーのことだ。
速攻で頭を吹き飛ばし――。
「素晴らしい……」
再びフードを被って表情を隠しながら、パチパチと拍手を送るヴェルウェザー。
「ヴェルウェザー様……僕の頭を吹き飛ばしてください……」
苦しそうな表情で懇願する岡。
彼の命は残り僅かだろう。
暗殺者であったとしても、半年間の仲であるクラスメイトの頭が吹っ飛ぶのは見たくない。手を前にかざしながら目を逸らす。
だが――。
5秒ほど待っても、例の爆発音は聞こえてこない。
「面白い……ここでキミを殺すのはもったいないのかもしれない……」
ヴェルウェザーは手を下さなかった。
拍手を維持したまま、消える。
元々彼の肉体はここにないのだから、ホログラムが消えたと言った方がわかりやすいか。
小さな劇場には、俺と楓香、呆然とした岡が残された。
「才斗くーん!」
俺も割と呆然としていたと思う。
そんなところに楓香の愛のタックル。
ステージから大きく飛躍した楓香は、そのまま俺の体に抱きついてきた。
優しく受け止め、よしよしと頭を撫でる。
「話すべきことはいろいろあると思うが、まずは岡の治療だな。このままだと出血多量で死ぬぞ」
「……才斗くんは優しいですよね」
「生きて罪を償ってもらおうと思っただけだ」
そうは言ったが、岡もまた、俺たちと同様にヴェルウェザーの駒にされている人物。少しだけ同情してしまったのかもしれないな。
岡をどう連れ出そうか考えていると、都合良くステージ上に空間転移装置が現れる。とはいえ、これがヴェルウェザーの意図であることはほぼ間違いないだろう。
ここで殺される理由はないような気もするので、深く警戒せずに利用した方が良さそうだ。
「3人全員で入るぞ」
気絶してしまった岡を抱え、装置に入る。
きっと3人でも問題なく作動するだろう。
「才斗くんは大丈夫でしたか? 爆発音みたいなのが鳴って、椎名さんが様子を見に行ったんですけど……」
「その件に関してはいろいろあったが、全員無事だ。そんなことより――」
楓香の真紅の瞳の中に、俺の真紅の瞳が映る。
その瞳は真剣だ。
「――楓香もBランクか。部下の成長は早いな」
Cランク冒険者の白桃と、Bランク超人の岡。
冒険者にとって、ランクは残酷なものだ。
白桃は戦い始めてすぐ、岡の実力がBランクであるという仮説を確信に変えた。
たった1つランクが違うだけでも、スペックの差や魔力の差はかなり大きい。地道に研鑽を積み重ね、自分の限界を打ち破った時――ようやくランクが1つ上がる。
ランクを上げることはそれだけ難しく、過酷なのだ。
ところが、白桃はそんなランクの差に果敢に挑み、格上キラーの実力を遺憾なく発揮していた。
「Cランクとは思えませんね。ランクアップしたことを隠していた、ということでしょうか」
「それだったらいいけど……」
ランクが格上である場合、戦闘は圧倒的に有利だ。
しかし、岡は白桃の実力に動揺していた。
攻撃は全て防がれている上に、反撃は一撃一撃が正確無比。
冒険者の中にはランクアップを組織の判断で隠している者もいる。不正登録ということで、政府にバレれば罰則を食らうということも起こり得るが、隠し通すことができればいざという時の切り札にもなるのだ。
SランクになったのにAランクで登録されたまま、などという不正の発覚はまだないものの、CランクのはずがBランクだった、というレベルでの不正登録は多くの組織で頻繁に起こっていた。
岡は今回、白桃に対し不正登録を疑ったのだ。
だが白桃は正真正銘のCランク冒険者。
昇格したのはほんの数ヶ月前だ。
「ですが……この力は……」
完全に侮っていた。
岡にとっての白桃は格下。
これまで手を出せなかったのは黒瀬才斗というSランク冒険者が近くにいたから。
今のような他の介入を許さない形での決闘で、負けるはずなどないのだ。
岡は暗殺者組織【アサシン】で育った。両親もまた組織の者だったので、赤子の頃から【アサシン】に関わっていたということになる。
暗殺者としての英才教育を受け、【選別の泉】に入り、超人としての力を得た。
暗殺者の両親から生まれた子供ということで、才能には恵まれていた。
これまで任務に失敗したことはない。
【アサシン】では基本、暗殺者よりも格下の冒険者の暗殺を任される。そのため組織全体で任務失敗が少ないことも事実だが……これまでは圧倒的な力量差で余裕を持って暗殺ができていた。
それが、ここに来て初めて格下に苦戦している。
動揺するのも無理はない。
白桃の攻撃を剣で防ぎながら、客席にいるヴェルウェザーに視線を送る。
――なっ……。
ここでようやく、黒瀬の存在に気付いた。
戦場となっているこの特殊なステージが、他の介入を許さないという説明は受けている。しかし、もし白桃との戦いが終わり、勝利を収めれば――そのバリアフィールドは解除されるとも聞かされていた。
つまり、ここで白桃に勝っても、結局Sランク冒険者の黒瀬と戦うことになる。
――僕は今日……ここで死ぬということですか……。
岡は、悟った。
***
ヴェルウェザーは自分の野望の達成に俺たちが必要だと言った。
だが、これ以上は何も教えてくれなかった。
とはいえここで、1つ仮説が立てられる。
少なくとも、俺と楓香はここでは死なない。
ステージでの戦いの結末はまったく予測できないが、ヴェルウェザーは楓香を殺したいなんて微塵も思っていないのではないか。
これまで何度も楓香を殺すチャンスはあったはず。
それなのに、ヴェルウェザーは楓香や俺に危害は加えても、殺すことはしなかった。
むしろ、ヤツの用意した刺客と戦った後には、冒険者としての実力がグンと高まっているような気がする。
俺がSランクに昇格したきっかけも、【ダークエイジ】からの刺客ジェシカとの戦闘だ。
「いろいろと思考を巡らせているようだ……キミも薄々勘付いたかもしれないが、ボクはここで白桃楓香を殺すつもりはない」
「だとしたら、なんでこんなことを――ッ」
ハッとした。
――ヴェルウェザーは楓香のランクアップを促そうとしている。
「よく見ているといい。白桃楓香が観客席のキミに気付いた瞬間、勝負は終わる」
そして、その言葉は現実になった。
岡がこっちに視線を送ったのを見た楓香が、チラッと同じように客席に目を向ける。俺と目が合い、彼女の真紅の瞳が燃え上がった。
守備重視のピトー派。
着実に防いでいた攻撃を手首のスナップで一気に弾き返し、岡の体勢を崩した隙に下から斬り込む。
岡はその一連の流れに対応できなかった。明らかにそれはピトー派の動きではなく、ルーテン派の器用な反撃だった。
ルーテン派は俺が普段愛用している型。特に教えたわけでもないのに、楓香は俺から学んでいた。俺の技術を盗んでいた。
楓香の剣が岡の腹を斬り、勝利が確定する。
ざっくり斬られた岡は、地面に膝から崩れ落ちた。応急処置をすれば死ぬことはないだろう。だが、ヴェルウェザーのことだ。
速攻で頭を吹き飛ばし――。
「素晴らしい……」
再びフードを被って表情を隠しながら、パチパチと拍手を送るヴェルウェザー。
「ヴェルウェザー様……僕の頭を吹き飛ばしてください……」
苦しそうな表情で懇願する岡。
彼の命は残り僅かだろう。
暗殺者であったとしても、半年間の仲であるクラスメイトの頭が吹っ飛ぶのは見たくない。手を前にかざしながら目を逸らす。
だが――。
5秒ほど待っても、例の爆発音は聞こえてこない。
「面白い……ここでキミを殺すのはもったいないのかもしれない……」
ヴェルウェザーは手を下さなかった。
拍手を維持したまま、消える。
元々彼の肉体はここにないのだから、ホログラムが消えたと言った方がわかりやすいか。
小さな劇場には、俺と楓香、呆然とした岡が残された。
「才斗くーん!」
俺も割と呆然としていたと思う。
そんなところに楓香の愛のタックル。
ステージから大きく飛躍した楓香は、そのまま俺の体に抱きついてきた。
優しく受け止め、よしよしと頭を撫でる。
「話すべきことはいろいろあると思うが、まずは岡の治療だな。このままだと出血多量で死ぬぞ」
「……才斗くんは優しいですよね」
「生きて罪を償ってもらおうと思っただけだ」
そうは言ったが、岡もまた、俺たちと同様にヴェルウェザーの駒にされている人物。少しだけ同情してしまったのかもしれないな。
岡をどう連れ出そうか考えていると、都合良くステージ上に空間転移装置が現れる。とはいえ、これがヴェルウェザーの意図であることはほぼ間違いないだろう。
ここで殺される理由はないような気もするので、深く警戒せずに利用した方が良さそうだ。
「3人全員で入るぞ」
気絶してしまった岡を抱え、装置に入る。
きっと3人でも問題なく作動するだろう。
「才斗くんは大丈夫でしたか? 爆発音みたいなのが鳴って、椎名さんが様子を見に行ったんですけど……」
「その件に関してはいろいろあったが、全員無事だ。そんなことより――」
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