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上司としての責務編
第16話 美人な巨乳のお姉さんにホールドされる仕打ち
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一ノ瀬は目を細めながら俺を見ていた。
睨んでいるようにも見えるが、実は違う。
一ノ瀬はそもそも糸目がちなので、いつどの瞬間も細目だ。うっすらと覗き見ることができる眼球は、紺碧色。
紺色の長髪は後ろで1つに結んである。
180センチを超えているであろう長身の一ノ瀬は、視線を俺のために下げながら溜め息をついた。
「また問題に巻き込まれたと聞いた」
「会議で詳細を話そうと思っています」
「貴様は西園寺に贔屓されている。気に食わん」
「その理由は俺が知りたいくらいです」
「理由になど興味はない。貴様が実力を証明すればいいだけの話だ。もし俺の好敵手である西園寺が貴様の立場だったのなら、部下を危険な目に遭わすこともなく、確実に闇派閥の者を捕えて帰ってきただろう」
そりゃあそうだろう。
俺と西園寺では格が違う。強さも経験も桁違いだ。
そんな当然のことを指摘され、すいません頑張りますとは言いたくない。一ノ瀬は俺の苦手な上司だった。
きっと一ノ瀬も、俺のことを好いてはいないだろう。
とはいえ、今は一ノ瀬の方が強いし、立場も年齢も上。
生意気なことは言えない。
「西園寺社長のことを随分と信頼しているんですね」
「信頼、か……その強さに関して言えば、俺が誰よりも信頼している冒険者の1人だ」
「では、失礼し――」
「会議の間で待っている」
俺が一ノ瀬から視線をそらそうとすると、一瞬にして一ノ瀬が消えた。
先に行く、ということらしい。
苦手な部下と一緒にエレベーターに乗るのが嫌なんだろうな。俺も同じく。苦手な上司と気まずいエレベーターは御免だ。
***
「やあ才斗、偶然だね」
「偶然でもなんでもないだろ」
ビルの中に入り、エレベーターの前に向かう。
そこにちょうど山口剣騎がいた。
紫紺の髪と瞳。
前髪には赤色のメッシュが入っている。美容院で入れた、というわけではなく、【選別の泉】による洗礼でこうなったらしい。
「数秒前に一ノ瀬さんが来なかったか?」
「才斗はまだ一ノ瀬君のことが嫌いなんだね。面白い」
「嫌いというより、苦手なだけだ。あっちの方こそ俺が嫌いらしい」
「さあ、どうだろうね。期待してるだけかもしれない」
剣騎は社交的な性格なので、比較的誰とも親しく関わることができる。
その剣騎でさえも、一ノ瀬と距離を詰めるのは難しいと言っていたことを思い出した。
「一ノ瀬君はさっき、才斗のことを『新人』と言っていたよ。まだ彼の中では、君は未熟って意味なのか、幹部になりたてって意味なのか」
「前者かもな」
「気にすることはないさ。君がSランク冒険者になれば、そのうち認めてくれるはずだ」
剣騎は爽やかに笑うと、エレベーターに入るよう促した。
高級感のある大きなエレベーターの中に、俺と剣騎の2人。
相手が剣騎だったから良かったが、これがもし一ノ瀬だったらと考えると寒気がしてくる。
会議の間があるのは32階。
あっという間に着くかもしれないが、ここで剣騎が話題を振ってきた。
「誰が先に来て待ってると思う? 一応今は8時40分。少し早いくらいだけど、ちょうどいい時間とも言えるね」
「一ノ瀬さんはいるとして、真一は絶対来てるだろうな」
「間違いないね。真一君は西園寺さんと一ノ瀬君に怯えてるから、誰よりも先に来て礼儀正しくしているはずだよ」
「逆に雷電は絶対にいないはずだ」
「そうだね。舞姫君は少し遅刻するかもしれない。最近は夜にライブ配信したりしてるらしいし」
ここで名前が挙がった真一という人物と雷電舞姫という人物もまた、【ウルフパック】の幹部でSランク冒険者だ。
雷電は25歳の人気インフルエンサーで、たまにダンジョンで戦う様子をネットに公開したりもしている。
可愛い容姿から男性ファンを多く獲得していて、「舞ちゃん」だったり「姫ちゃん」と呼ばれている。
ところで、俺は雷電からあまりよく思われていないらしい。
というのも、俺が彼女の作った最年少Aランク達成記録を破ったからだ。それに加え、Sランク冒険者しかいない幹部の座に、Aランクの俺が加わったことも気に食わないんだろう。
「あとは真悠姉さんか」
「才斗に姉さんと呼ばれることに成功したみたいだね、マユユは」
残りの幹部メンバーは本波真悠。
29歳の独身女性。
俺は【ウルフパック】に入った頃からこの人に可愛がられ、何度も姉さん呼びを要求されることで気付けばこうなっていた。
「久しぶりに才斗に会えるから、楽しみにしてるだろうね」
「会議に出席する目的がずれてるな」
「参加してもらえるだけありがたいよ」
剣騎が苦笑いした。
***
「才斗ちゃーん! 可愛いでちゅね~」
「……」
エレベーターの扉が開いた瞬間、俺は美人な巨乳のお姉さんに捕まった。
睨んでいるようにも見えるが、実は違う。
一ノ瀬はそもそも糸目がちなので、いつどの瞬間も細目だ。うっすらと覗き見ることができる眼球は、紺碧色。
紺色の長髪は後ろで1つに結んである。
180センチを超えているであろう長身の一ノ瀬は、視線を俺のために下げながら溜め息をついた。
「また問題に巻き込まれたと聞いた」
「会議で詳細を話そうと思っています」
「貴様は西園寺に贔屓されている。気に食わん」
「その理由は俺が知りたいくらいです」
「理由になど興味はない。貴様が実力を証明すればいいだけの話だ。もし俺の好敵手である西園寺が貴様の立場だったのなら、部下を危険な目に遭わすこともなく、確実に闇派閥の者を捕えて帰ってきただろう」
そりゃあそうだろう。
俺と西園寺では格が違う。強さも経験も桁違いだ。
そんな当然のことを指摘され、すいません頑張りますとは言いたくない。一ノ瀬は俺の苦手な上司だった。
きっと一ノ瀬も、俺のことを好いてはいないだろう。
とはいえ、今は一ノ瀬の方が強いし、立場も年齢も上。
生意気なことは言えない。
「西園寺社長のことを随分と信頼しているんですね」
「信頼、か……その強さに関して言えば、俺が誰よりも信頼している冒険者の1人だ」
「では、失礼し――」
「会議の間で待っている」
俺が一ノ瀬から視線をそらそうとすると、一瞬にして一ノ瀬が消えた。
先に行く、ということらしい。
苦手な部下と一緒にエレベーターに乗るのが嫌なんだろうな。俺も同じく。苦手な上司と気まずいエレベーターは御免だ。
***
「やあ才斗、偶然だね」
「偶然でもなんでもないだろ」
ビルの中に入り、エレベーターの前に向かう。
そこにちょうど山口剣騎がいた。
紫紺の髪と瞳。
前髪には赤色のメッシュが入っている。美容院で入れた、というわけではなく、【選別の泉】による洗礼でこうなったらしい。
「数秒前に一ノ瀬さんが来なかったか?」
「才斗はまだ一ノ瀬君のことが嫌いなんだね。面白い」
「嫌いというより、苦手なだけだ。あっちの方こそ俺が嫌いらしい」
「さあ、どうだろうね。期待してるだけかもしれない」
剣騎は社交的な性格なので、比較的誰とも親しく関わることができる。
その剣騎でさえも、一ノ瀬と距離を詰めるのは難しいと言っていたことを思い出した。
「一ノ瀬君はさっき、才斗のことを『新人』と言っていたよ。まだ彼の中では、君は未熟って意味なのか、幹部になりたてって意味なのか」
「前者かもな」
「気にすることはないさ。君がSランク冒険者になれば、そのうち認めてくれるはずだ」
剣騎は爽やかに笑うと、エレベーターに入るよう促した。
高級感のある大きなエレベーターの中に、俺と剣騎の2人。
相手が剣騎だったから良かったが、これがもし一ノ瀬だったらと考えると寒気がしてくる。
会議の間があるのは32階。
あっという間に着くかもしれないが、ここで剣騎が話題を振ってきた。
「誰が先に来て待ってると思う? 一応今は8時40分。少し早いくらいだけど、ちょうどいい時間とも言えるね」
「一ノ瀬さんはいるとして、真一は絶対来てるだろうな」
「間違いないね。真一君は西園寺さんと一ノ瀬君に怯えてるから、誰よりも先に来て礼儀正しくしているはずだよ」
「逆に雷電は絶対にいないはずだ」
「そうだね。舞姫君は少し遅刻するかもしれない。最近は夜にライブ配信したりしてるらしいし」
ここで名前が挙がった真一という人物と雷電舞姫という人物もまた、【ウルフパック】の幹部でSランク冒険者だ。
雷電は25歳の人気インフルエンサーで、たまにダンジョンで戦う様子をネットに公開したりもしている。
可愛い容姿から男性ファンを多く獲得していて、「舞ちゃん」だったり「姫ちゃん」と呼ばれている。
ところで、俺は雷電からあまりよく思われていないらしい。
というのも、俺が彼女の作った最年少Aランク達成記録を破ったからだ。それに加え、Sランク冒険者しかいない幹部の座に、Aランクの俺が加わったことも気に食わないんだろう。
「あとは真悠姉さんか」
「才斗に姉さんと呼ばれることに成功したみたいだね、マユユは」
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俺は【ウルフパック】に入った頃からこの人に可愛がられ、何度も姉さん呼びを要求されることで気付けばこうなっていた。
「久しぶりに才斗に会えるから、楽しみにしてるだろうね」
「会議に出席する目的がずれてるな」
「参加してもらえるだけありがたいよ」
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「才斗ちゃーん! 可愛いでちゅね~」
「……」
エレベーターの扉が開いた瞬間、俺は美人な巨乳のお姉さんに捕まった。
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