ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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九州での抗争編

第67話 裏を読んで裏を読むという心理戦

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 佐藤さとうの首元から盗聴器が見つかった。

 剣騎けんきは着眼点が違う。
 口調が軽く、フレンドリーに思える彼の思考は、実は誰よりも疑いに満ちている。

 相手を否定することはない。

 だが、ギリギリまで疑ってかかるというのが、俺の知っている剣騎のやり方だ。

「佐藤君、説明してもらえるかな?」

「……」

 佐藤はすぐに言葉を発さなかった。

 ここで俺は確信する。
 佐藤は初めから、盗聴器の存在を知っていたということを。

 もし佐藤の知らぬ間に盗聴器を仕込まれていて、今のように黒を疑われるような状況なら、慌てて否定の言葉を出すはずだ。

 だが、佐藤はどう返事すべきなのか慎重に考えている。

「焦っているような演技もしないんだね。感心したよ」

 剣騎は少々残酷だ。

 佐藤と直接的な関わりがないとはいえ、少し前までただの女子高生だった女の子に対して厳しすぎるような気もする。

「ここに盗聴器があるってことは、この会話をヴェルウェザーとやらが聞いている可能性が高いってことだね」

「……あたしは……」

「そんな状況で、君はヴェルウェザーから自分を守るよう、僕たちに訴えてきた」

 小型盗聴器を片手で簡単に握り潰してしまう剣騎。

 俺はその現象・・に少し違和感を感じた。

「別におかしくはないと思いますよ」

 ここで楓香ふうかが口を開く。
 口振りからして、佐藤をかばうつもりのようだ。

 俺もこの話の動きを慎重に見守る。

「もし佐藤さんが自分で盗聴器を壊したりしたら、結局バレるわけですよね? 盗聴器でヴェルウェザーに自分の裏切りがバレると覚悟した上で、わたしたちに助けを求めてきたんじゃないですか?」

 筋の通った主張。

 楓香の言う通り、盗聴器を仕込まれている佐藤自身にはどうしようもないことだった。彼女のコントロール外の物事であるということ。

 だが、それは佐藤が行った自己防衛が最適だった時の話。

 それを剣騎はよくわかっている。

剣騎ソードナイト、そこまでにしておけ」

 西園寺さいおんじが剣騎を制した。

 あとは西園寺が対応する、という暗黙のルールである。

「憶測で救える命を失ってしまうことだけは避けたい。申し訳ないが、私は『疑わしきは罰せず』を貫く」

 その言葉に、剣騎はうんともすんとも言わなかった。

 ただ肩をすくめるだけ。
 好きにして、という感じだ。

 佐藤の裏に潜んでいるかもしれないヴェルウェザーという存在は大きな脅威になり得るものの、佐藤自体はまだまだ冒険者初心者ビギナー
 警戒しすぎることもない。

 西園寺の最終判断に、楓香がほっと息をつく。

 対して、俺はというと。

 まだ何か・・が引っかかっていた。



 ***



 時は数時間前にさかのぼる。

「ブルーオーシャン、キミに白桃楓香の暗殺を命じる」

 薄気味悪い【ダークエイジ】のアジトにて、ヴェルウェザーは佐藤に最初の任務を言い渡していた。

 白桃の暗殺である。

「あたしが……白桃さんを……?」

「妬ましくはないか? キミの好きな黒瀬才斗ブラックは白桃楓香が奪ってしまった。ここで彼女を殺せば、キミが黒瀬才斗と付き合うことができるかもしれない」

「恋人を殺した人を好きになるわけないでしょ」

「黒瀬才斗がその事実を知ることはない。彼はその場にいないのだから」

「……」

「仮に知ってしまったとしても、記憶を改変し、別の記憶を植え付けることだってできなくもない」

「そうなの?」

「どの道これは命令だ」

 面倒そうにヴェルウェザーが言った。

 佐藤が拒否すればそこで全てが終わる。ただそれだけ。
 自分にとって面白くない人物には価値がない。使えなくなったら捨てるだけだ。

「奴らはおそらく、今から5時間後に大阪に着く。位置は協力者からの情報ですぐに把握できるから安心しろ」

 ヴェルウェザーが話を続けた。

 声はかすれていて、覇気がない。

「不自然でも構わない。奴らに接触し、こう言え。ヴェルウェザーに殺されるかもしれないから、匿って、と」

「そんなこと直接言っていいわけ? 怪しまれるに決まってるでしょ」

「怪しまれる? 最初からとっくに怪しまれてる。奴らはキミがボクに接触していることに気付いているはずだ。その疑いを利用しろ」

「疑いを利用するって……」

「この場合、キミがぼろを出すことの方が奴らの警戒心を煽ることに繋がる……あえてぼろを出せ」

 ヴェルウェザーが取り出したのは小型の盗聴器。

 しかし――。

「この大型・・の盗聴器を首元に隠すといい。山口剣騎ソードナイト超能スキルの力で気付くだろう」

「気付かれるならどうして――」

「どれだけぼろを出そうと、キミが弱者である限り、西園寺が救いの手を差し伸べるはずだ」

 ヴェルウェザーは薄気味悪い顔で薄気味悪い笑みを浮かべた。

 この暗いアジトでは、微笑んだ顔もよく見えない。

「チャンスはボクが作る。九州に着き、しばらく大人しくしたところで白桃を殺せ。他の上級冒険者を引き剝がす手立ては考えてある」

「あたしは殺しなんて――」

「断る権利はない」

「――ッ」

「安心しろ。黒瀬才斗には手を出さない。ヴァイオレットも同じだ。キミは自分の任務にだけ集中していればいい」
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