御曹司と地下アイドル〜一線を越えた夜〜

桐嶋いろは

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私はアイドル

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私が、卒業することをライブで発表すると「えーー」と残念がる人もいれば、その場に泣き崩れた人もいる。

ホームページでも告知がありS N Sでは様々な憶測が飛び交った。

ソロデビューに、女優転身、メンバー不仲説、結婚、妊娠。ネットの時代は恐ろしい。

マイナーな地下アイドルの私に対しても、一人がそう言い出せば、憶測ばかりで話が膨らんでいく。

「結婚したら許さない」「妊娠してたら俺は死ぬ」と言う書き込みもあった。

だからと言って、これから先どうなるのかは本人でさえ分からない。

安易に今後のことを発表するわけにも行かなかった。

次の日、一切関係ないが市ヶ谷係長が珍しく体調不良で欠席した。

完璧な男も、体調を崩すのかと私は驚いた。
次の日、出勤したかと思えば初めて見た日のオーラーは消え去り、覇気を失っていた。

心配なのに、理由を聞く勇気も声をかける勇気もなかった。


そんな私も、いざ卒業が近づくと寂しい気持ちでいっぱいになる。

業務内容に慣れてきたが、このデスクワークだけをして一日が終える「普通の人」になるまでもう少し。

今と比べれば1日の疲労感も格段に少なくなるだろう。

誰からも歓声を浴びることはもうない。息が上がるようなレッスンもライブも二度とできない。

いつか「そういえばこの人昔好きだったよな」と思い出になるか、記憶からも霞んでいくことになる。

元から、オーラなどはないが市ヶ谷係長と同じようにしばらく体調を崩してしまいそうだ。




迎えた当日のライブは温かい空気感の中で、滞りなく終わった。

まだまだこのまま走り続けたい気持ちと、やっと解放されるという安心感が交差した。

事務所を退所するとなると寮からは追い出されてしまう。

契約期間は今月末までで、それまでに物件を探さなくてはならない。

実家という手段もあるのだが、商店街の中の小さな定食屋であるため1階はお店で、2階は住居だが6畳の部屋が二つで幼い頃は、一つが祖父母の寝室で、一つが母と私の寝室だった。

現在は、祖父母の遺品と母の荷物で一部屋が埋まっており、もう一部屋は、布団が一枚引ける程度のスペースしか残っておらず(母の私物が多い)25歳が母とひっついて眠るには少し狭すぎるのだ。

そして、この会社までの通勤距離が1時間以上かかり、毎日満員電車に揺られることになる。

つまり、実家には頼ることはできない。

寮は、今の職場から徒歩20分で、家賃・光熱費が合計3万円だけ給料から引かれていたため非常に安く生活できていたが、その周辺で一人暮らしをするとなると来月から契約社員になれたとしても、今の貯金ではとても生活ができない。

また、寮には家電や家具がある程度用意されていたが、一人暮らしを始めればそれらの準備が必要となる。


早速、私はこれから先の不安にため息をついた。
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