Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

桐嶋いろは

文字の大きさ
41 / 47
Side 2ーaffairー

3(杉原颯太)

しおりを挟む

勢いに任せて翠ちゃんにあんなことを言ってしまった俺が情けなくて一日仕事に身が入らなかった。
今別居中の身でありながら、不倫された側の夫の立場でありながら、不倫相手の男に怒りを微塵も感じなかった俺が恐ろしく思う。所詮、親同士が決めた結婚。親の顔を立てるためだけにしたこと。

きっと心春もそう思っているはず。
なんとなく俺たち夫婦は生い立ちが似ていたのだ。
どんなに親が嫌いでも、結局は絶対的存在で逆らうことはできない。
利益を得られるほう選択する。
そうやって生きてきた。

本当は不倫されたかわいそうな夫を演じて、落ち込んでいるふりをするべきなのにで、俺は、「恋」をしている。
年下で、まだ男に抱かれたことがないと言い張る純粋で一生懸命仕事を頑張っている女の子に。

(割と本気なんだよ・・・)

もう二度と会えないと思ったはずなのに、あんな悲しい顔をさせてひどいことを言ったことを時が経てばたつほど猛省する。
翠ちゃんの中で「最低な男」とレッテルを貼られれば全ての諦めがつくはずなのに、それを取り消したい俺は翠ちゃんのことが好きで、翠ちゃんに嫌われたくないと思っている証拠だ。
気がつけば、翠ちゃんの会社へと向かっていた。あれほど連絡を取り合っていたのだから定時からどれくらい残業をするのかはある程度は把握している。


仕事を終えた翠ちゃんを呼び止めたが、目があってもそらされ逃げられた。
この反応は予測済み。だからと言ってこの先をどうすればいいかも一切考えることもできない。
普段は冷静に物事を考えるし、いい大人のくせに本能のままに動いてしまった俺が恥ずかしい。
まるで子供みたいだ。このまま追いかけなければ二度と会えない気がして・・・

「ちょっと待って・・・」
そう言って翠ちゃんの細い体を抱き寄せた。最後に女を抱いたのはもちろんのことながら妻である心春。
永遠の愛を誓ったはずなのに、平気で俺は裏切る。
だって、先に裏切ったのはそっちの方だ。初めから「愛」なんて存在していなかったけれど。

「昨日は・・・あんなひどいこと言ってごめん・・・少し話できる?」

「こちらこそすみませんでした。でも嘘じゃなくて本当なんです。今まで何人かと付き合ってきたんですけれど、痛くてできなくて・・・そこから・・・」


「そうだったんだ。勇気出して教えてくれたのに本当にごめんね。」

もう一度、優しく抱きしめる。

(もうダメだ・・・)
翠ちゃんを好きという心の奥底の感情が表に出てきてしまった以上。もう蓋をして閉じ込めることなどできない。
このまま翠ちゃんを抱きしめて、この甘い香りに溺れていたい。



「翠・・・この男誰?」

この夢のような時間はあっけなく終わっていく。

そう言った男が、俺を押しのけて、翠ちゃんを強引に抱き寄せた。

「何か用ですか?俺の彼女に・・・」
よくテレビで出てくるような人気俳優のような風貌でありながら、猫のように威嚇をされると俺も一緒になって威嚇するのはなんだか大人気ないと冷静を装う。

「翠ちゃん、どういうこと彼氏なの?」

翠ちゃんは、確かに彼氏はいないと言っていた。今までやりとりが全て嘘だというのなら最強の魔性の女に恋をしてしまった自分が恐ろしくなる。
そう思いながらも、翠ちゃんを他の男に取られてしまうのは納得が行かない。


「残念でしたね。翠の処女は俺が頂いてますので。」

「ちょっと・・・何言ってんの?」
翠ちゃんは、少し怒った様子で言い返す。


「やっぱり嘘だったんだ。」
俺はなぜか、気の抜けた声で言う。

(そうだよね。所詮不倫なんて上手くいくことはない。現実見ろって話)

俺の言葉に返答することもなく二人は、その場を走って逃げていった。
翠ちゃんにはあれぐらい、若くて純粋な男の方がふさわしい。
そう思い込んでみては、自分のものにならない悔しさが襲う。

(心春と別れて、翠ちゃんと生きたい・・・)
それが俺の本心だった。


久しぶりに連絡をした心春は、俺の存在の大切さに気がついただろうか。
俺なしじゃ生きていけないと思ってくれているだろうか。
不倫したことを後悔しているだろうか。


「もしもし?」
電話口の心春の声のトーンが高い。それだけで確信がついた。

(俺は、もう必要ない。)


二人で待ち合わせて、久しぶりにあった心春は数日前と変わり果てるほど生き生きしていて出会った頃の姿だった。
最後に見たときの髪の毛は、出産前の最後の美容院から半年以上経っており、耳のあたりまで黒くなっていてたはずだが、根元から綺麗にカラーされていて、化粧もしっかりしていて終始笑顔だ。

(こんなに綺麗だったっけ・・・)


久しぶりにあった息子は俺の顔なんて覚えていないのか、俺と目があった途端に火がついたように泣き出したが、心春が笑顔で抱いて優しく揺さぶればすぐに泣き止んだ。
俺の知らない間で、心春は母親になっていた。考えてみれば俺なんて数えきれるくらいにしか抱っこをしたことがないし、おむつやミルクも数回だけだ。自殺をしようと思うくらいに追い詰めてしまった自分が情けない。

「今までごめんな・・・」

「いくら謝ってももう遅いから。」

心春は再度離婚届を机の上に置いた。

「親権は私がもらう。争うなら弁護士たてて」

「俺の子じゃないんだろ・・?」
確実ではないけれど、聞いたときにどんな反応をするのかが気になった。
心春は、表情を変えずに。

「分からない・・・でも、はっきりさせるつもりもない。」
と言った。少しは否定すると思ったのに。

「はっきりさせなきゃ、養育費の問題とかもあるだろう。」

「そうだけど、私はあなたからお金をもらおうとは思わないし、この子は絶対に渡さない。あとは弁護士経由して話しをしましょう。」


俺は、ため息をついて離婚届に記入をした。
この女は何をどう言おうが、意思を曲げずに自分の思い描いた通りに周りを進めて行くのだから、反論するだけ無駄だった。

そして、もう俺は心春を愛してなどいない・・・
お互いを分かり合う前に、分かろうともしなかった。



「今まで、仕事ばっかりでごめん・・・ありがとう」

俺がそう言うと、心春の顔が一気に明るくなった。
待ち望んでいたような態度を取られるとこちらとしても腹立たしい。

所詮、俺たちはこれだけの関係だった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

好きの手前と、さよならの向こう

茶ノ畑おーど
恋愛
数年前の失恋の痛みを抱えたまま、淡々と日々を過ごしていた社会人・中町ヒロト。 そんな彼の前に、不器用ながら真っすぐな後輩・明坂キリカが配属される。 小悪魔的な新人女子や、忘れられない元恋人も現れ、 ヒロトの平穏な日常は静かに崩れ、やがて過去と心の傷が再び揺らぎ始める――。 仕事と恋、すれ違いと再生。 交錯する想いの中で、彼は“本当に守りたいもの”を選び取れるのか。 ―――――― ※【20:30】の毎日更新になります。 ストーリーや展開等、色々と試行錯誤しながら執筆していますが、楽しんでいただけると嬉しいです。 不器用な大人たちに行く末を、温かく見守ってあげてください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

処理中です...