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交際に至るまで

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しかし、桐山からの連絡は2週間ほど途絶えた。

「お前、それ絶対遊ばれているだけだって・・・」

西谷は、面白くなさそうにあいも変わらずあやめに嫌味を言う。

桐山と付き合うことをはっきりと伝えた西谷は以前のように告白はしてこないものの口の悪さだけは通常運転であった。

「そんなことない」

そう行って怒って顔を膨らませるあやめの顔を見て楽しんでいるだけなのだ。

時には、あやめのお弁当のおかずを勝手につまみ、新しい服を似合わないという。

「好きだからこそ意地悪をしてしまう」中学生男子のような行動を変わらずにとり続けていた。

いつか、あやめが桐山に捨てられた時に自分の元へと戻ってくるように・・・

その想いも虚しく、あやめのうなじにキスマークを見つけ居た堪れない気持ちになる。

こんなに近くにいるはずなのに、遠い存在になってしまう。

自分の元へと戻ってきてくれるのはいつだろうか・・・

それをいつまで待つことができるのだろうか・・・と問いかける日々を西谷は送った。

【今日の、夕飯一緒に食べたい。8時には終わると思う】

桐山からのメッセージにあやめは思わず顔が緩む。

桐山からの「ハンバーグ」というリクエストに答えて、仕事を終えてスーパーに向かい帰宅すると早速準備に取り掛かった。

まもなく8時になりいつでも食べ始められるよう準備をするも、1時間経過した。

(しょうがない・・・そういう仕事だもん・・・)

あやめは心に言い聞かせる。

1時間半経過したところで、【ごめん・・・今日行けなくなった】と連絡があった。

あやめは肩を落とし、桐山の分の食器を片付けた。

急降下した感情が次の言葉で一気に急上昇する。

【その代わり、明日休みだから会おうよ。】

まるで、ジェットコースターのようだ。


次の日、メイクも服装の準備も完璧のところに一本の電話が鳴る。

『あやめ、本当に申し訳ないんだけれど瑠偉るい羽音はのんの子守お願いできる?夕方には迎えに行くから・・・』
母からの連絡であった。

実家には、両親と兄夫婦と二番目の兄(遊んでばかりでほとんど家にはいない)が暮らしている。

家には、必ず大人が誰かしらいるためあやめに子守の要請がかかるのはごく稀であり、実家の緊急事態を意味する。

(久しぶりに桐山さんと会える日に限って・・・なんで・・・)

母の話によると、兄夫婦は3ヶ月に一度の夫婦だけの旅行に行っており、母は大好きな俳優が出る舞台を観に行く予定で父に子守を頼む予定だったのだが、今朝、父がギックリ腰になった。

5歳の瑠偉と3歳の羽音は、二人きりでは留守番はできないし、二番目の兄は頼りにならないためあやめを頼るのが当然のことだった。

あやめは、今のWebデザインの会社に就職できなかった場合、保育士になると決めており保育士免許も取得している。

そのため、子供扱いには慣れていた。

桐山とのデートのために新調した白のフレアスカートを泣く泣くチェックのワイドパンツに履き替える。

子供を相手にする際に、スカートでは不便だ。

「じゃあよろしくね~~」

と去っていた母を瑠偉と羽音と見送ると寂しくなったのか羽音が泣き出した。
瑠偉は、「おしっこ」と言い出す。

あやめは、羽音を抱えながら瑠偉をトイレに誘導すると家のチャイムがなりインターフォンのモニターに桐山が映った。

羽音を抱えながら、玄関を開けたあやめを見て桐山は固まった。

「え、誰の子?」

と呆然とする桐山に、現れた人物が男だったことに、羽音は火がついたように泣き出し、瑠偉はあやめの後ろに隠れた。

「すみません・・・お兄ちゃんの子供達で、今日は色々あって突然子守頼まれたんです。桐山さんせっかくのお休みだから、今日はお家でゆっくり休んで下さい。」

「いや・・・俺も子守する。あやめちゃんに会いたかったし・・・」

「あやめちゃん、このおじさん誰?」

瑠偉が、子供ながらに問いかけるのだが『おじさん』というワードに桐山は眉をピクピクとさせる。

「瑠偉、お兄さんだよ。かっこいいでしょ!刑事さんなんだよ。パトカーも運転できるんだよ。」
桐山は、あやめの説明に少し照れた。

「え?本当?お兄さんすごいね!」

瑠偉が桐山を見るまなざしが警戒から尊敬に変わる。

「どうする?家にいても飽きちゃうだろう?公園とか水族館にでも連れてく?」

桐山は瑠偉とすぐに打ち解けて、人見知り傾向のある瑠偉がおんぶをせがんでいる。
あやめは、その姿を未来の桐山の姿に重ねて微笑ましく見ていた。


一行は水族館へ向かい、途中お昼を食べて公園で遊んだ。
その間、ずっとはしゃぎ続ける子供たちにクタクタになった二人はベンチに座った。

「桐山さん・・・今日はせっかくのお休みなのにすみませんでした。」
「ううん。逆にいい気分転換になった。俺も楽しかったし・・・」
あやめの手に、桐山が触れる。

「本当のところは二人っきりで過ごしたかったけどね・・・」
耳元でボソッと囁いた。


公園からの帰り道、駅構内のトイレで、あやめが二人に付き添っている間。

少し濃いめのギャルメイクに、編み込みや逆毛が多用された手の込んだアップヘアにミニスカートを履いた二人組が、外でスマホをチェックしながら待っていた桐山に話しかけた。
彼女たちは、いわゆるこれから出勤の「キャバクラ嬢」だった。

「うわ~~桐山さんだあ~~。昨日はありがとうございました。今日も遊びに来てくださいよ。」

「行かないよ。」

桐山は、二人のギャルの勢いに圧倒されながらも返答する。

「私服ってことは今日お休みですか?誰といるの?」

「えっと・・・友達」
桐山は、面倒なことに巻き込まれたくないがために適当に答えた回答だったが、あやめはそれを聞き逃すことなく聞いてしまったのだ。

「そっか~~~。また会いたい~~。かっこいい~~~。また遊びに来てください。」

そういって、二人組は桐山の肘などにボディタッチしていく。

それが営業スタイルなのかもしれないが桐山ほどのイケメンで、なおかつ刑事という職業にあやめの以外の女でさえも恋愛感情を抱いて当然なのだ。

二人と手を繋いでそのやりとりを見ていたあやめは呆然としていた。

本来ならば、昨日の夜は一緒に夕飯を食べる予定でそのために準備をして帰りを待っていたというのに、当の本にはキャバクラへ行きキャバクラ嬢と遊んでいたというのだ。

あやめ自身も仕事で相手方がキャバクラを望めばキャバクラへ行くこともあるため、偏見があるわけではなく、むしろ彼女たちのコミュニケーション能力に尊敬しているのだが付き合ったばかりの彼氏が行くとなれば話は別だ。

「私は友達ですか・・・?そうですか・・・キャバ嬢とお話していた方が楽しかったんですね・・・」

「あやめちゃん・・・誤解しないで・・・」

桐山はあやめの肘を掴む、眠さのピークに達して機嫌の悪くなってきた瑠偉ともう半分眠りかけている羽音を両腕に抱きかかえながら、桐山の言葉を無視して駅の構内を歩いていく。

ロータリーのところに観劇を終えた母が車で迎えにきているようためそこまで抱っこをしていく。

相当な重さになるため道ゆく人が驚いており、桐山も手伝おうとするのだがあやめは聞く耳を持たない。

迎えの車に二人を乗せこみ見送ると、桐山の方を一度見るがそのまま無視して家の方向に歩き出した。

(涙が出そうになる・・・・)

桐山は前を歩くあやめを追いかけてその手を掴んだ。

「ちょっと待って・・・俺だって好きでそういう店に行ってるわけじゃないから。」

「わかってます。付き合いだってわかってるけどそれに嫉妬した自分が恥ずかしい・・・」

あやめは顔を手で隠しながらいう。

桐山は、恥ずかしがるあやめを抱き寄せた。

「ごめん・・・俺だって本当は、あやめの手料理楽しみにしてたよ。今だって、ちょっと嫉妬してるところとか可愛くてたまんないし・・・」

「本当ですか?」
あやめは、桐山の顔を覗き込む。

「うん。今日の夕飯作ってよ。」

「もちろんです。」

あやめの笑顔が夕日に照らされてより一層輝いていた。

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