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恋人期間(神崎あやめ)
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しおりを挟む目が覚めると、桐山さんが「おはよう」と挨拶をする。
彼のほうが早く起きていたようだった。
「寝顔が可愛くていつまでも見ていられるわ・・・」
私の髪を優しく撫でておでこにキスをする。
「体痛くない?」
裸で朝まで眠るというのは今までで初体験であった。
シーツが肌に触れる感覚が心地よく病みつきになってしまいそう。
「大丈夫です。」
昨日は夜だったが、朝になると部屋は陽の光が差し込み明るく隅々まで見えてしまう。
私は、布団で体を隠しながらバスローブを探す。
「今更隠してどうするの?」
「だって・・・」
桐山さんは私のバスローブを手に持ちながら絶妙に私が届かないところへ移動させる。
まるで、猫じゃらしを持って猫とじゃれ合うかのように。
「ひどい」
「なんかさ、あの男の子があやめに意地悪していた気持ちがよくわかるよ。」
笑いながら私にバスローブを手渡すと、スーツのポケットから電子タバコを取り出した。
「一服してくる。言ってなくてごめんね。俺は、喫煙者なんだ。」
「タバコは平気です。一服ってどこへ?」
「ロビーにあった喫煙室。」
「行かないで下さい。寂しい・・・ここって禁煙の部屋ですか?」
「いや、あやめちゃんに断られた時のために喫煙ルームで予約した。」
私は、思わず笑ってしまう。
断るはずないのに。
今は片時も離れたくないのだ。
それでもと換気扇の近くで電子タバコを口に加えた。
その唇に昨日は何度もキスをされたことを思い出す。
「あやめが妊娠したらちゃんとやめるから・・・それまでごめんね。おっさんはタバコがないと生きてけない。どうしても口寂しくて…」
私は、抱きついてキスをした。
「タバコ吸いたくなったらキスすればいいんじゃないですか?」
「仕事中はあやめがいないでしょ・・・」
タバコの味がする。
「これから一回家帰って着替えなきゃね。でもまだ朝の7時だし・・・」
吸い終わったタバコを灰皿に入れて、私の手を掴んだ。
「もうひと運動しておくか・・・」
「え????」
思わず私は叫んでしまう。
「俺の妻になるってことはそういうことだよ。」
昨日の流れをもう一度繰り返すとなると私の体が持ちそうにない。
しかし、桐山さんに流されるままに私たちは許される時間まで抱き合った。
家までの道中、私は桐山さんに文句ばかりを繰り返す。
「ありえない・・・あのあと3回も・・・」
「ごめんって・・・俺だってずっと我慢してたんだから。」
底なしの体力に今後が恐ろしくなってしまう。
*
数日後
いつもは、黒いスーツが多いが今日はネイビーを選んだ桐山さんは新鮮だった。
私はこんなに緊張をしているというのに、緊張する様子もなくだいぶリラックスをしているようだった。
普段から張り詰めて仕事をしているからか、こう言った緊張感には動じないのだろうか・・・
どの角度から見ても好印象の好青年にお父さんも文句のつけようがないだろう。
と思っていたのだが・・・
「断る!!!!」
が桐山さんが頭を下げて『娘さんを僕に下さい』と言った後の、父の一言目だった。
「あやめいいのか?絶対苦労するぞ・・・もし逆恨みされてあやめに何かあったら君は責任を取れるのか!」
「お父さん・・・」私は必死の説得に入るが聞く耳を持たない。
一方の桐山さんは動じることなくむしろクスクスと笑っている。
「ちょっと笑わないでよ・・・颯くん・・・そういう約束じゃん・・・」
とお父さんは一言。
もう一度桐山さんの顔を見るとお腹を抱えて笑っていた。
「ごめん、あやめ・・・もうお父さんと一回会ってたんだ。」
「なにそれ、挨拶に行くわりには緊張してないと思ったらそういうことね・・・」
「お父さんは大賛成だよ。イケメンだし、お酒強いし・・・結婚認めないお父さんを一回やってみるの憧れてたんだよね。さあ、颯くん今日は飲もう。」
桐山さんは、私と付き合いだしてしばらくして桐山さんの高校の後輩と、私のお兄ちゃんが友人であることを知り、彼を経由して父と連絡を取り合い、一度飲みに行っていたらしい。
私は、胸をなでおろした。
家族にも認められて、私の誕生日である3月15日に入籍をした。
「桐山あやめ」となったのだ。
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