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二章 獣人の領土~ドンタイガー領~

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 メェルに案内されて、街の中心部まで移動する。中心部に来るまでに、様々な露天を見かけたけど、腐っている物を売っている所は見なかった。野菜と果物はその日に収穫すればいいから、痛むとかは無いのだろう。
「ここ…です」
「うわぁ…。なるほど、明らかにやばいかな。」
 メェルが指さした露天からは、街に入った時から漂う腐敗臭のような物の臭いがする。食えない事もないんだろうけど…食いたくはないよな。肉の色が変色して緑いろになってると言うか…新鮮そうなやつでもちょっと黒ずんでる。
「うん、これは無理かも」
「何人も…お腹壊しますから」
 メェルは俯いて答える。う~ん…動物は人間より鼻が利くと思っていたんだけど…そうでもないのかな?それとも、この臭いに慣れているだけなのだろうか。ハイエナとかがモチーフになっていれば腹を壊すとかはありえないんだろうけど。
「この辺りでは塩とかは採れないのかな?」
「塩は…採れるはずです?」
「塩が採れるのに、塩漬けしない理由はなんだ?」
「手間…でしょうか?」
「それで沢山の領民がお腹を壊さなくなったとしても?」
「分からない…です。」
 そんなに首を傾げてこっちを見てこなくてもいいよ?まぁ、冷蔵庫的な物はないだろうとは思ったけど。でもさ、魔法が使えるんだからあってもおかしくないんだけど。うん、この世界は微塵も分からん!
「よし、話しかけてみよう」
「…え?!誰に…です?」
 俺は店主を指さして歩いていく。だって、名声がないと領主が話聞いてくれなそうだから。出来そうならなんでもやる。簡単に解決できそうなら、それが一番だ。
「こんにちは」
「おう、なんだ?うちの煮込み食べに来たのか?」
「いえ、ちょっとだけ話をしたくて」
 怪訝な顔をする牛の獣人。牛の獣人の奥から異様な臭いが漂ってくる。やばいだろ、これ。腐った肉って煮込んだらこんなに臭いのか?スパイスを使ってるはずなのに、貫通してくる。怖い、この世界の肉。
「肉の鮮度をどうにかしようと思ったことはあります?」
「喧嘩売ってるのか?」
「いえ、お腹を壊す獣人がたくさんいると聞いたので」
「したことはあるが…結局手間がかかってこのままだ!」
 がはは、と笑っている。もしかして、領民の健康を脅かすために人間と手を組んでいるスパイか?!いや、まずい物を提供して笑っているんだから、そんなに気にしていないって事なのかもしれない。
「とりあえず…塩漬けって知ってます?」
「塩…?なんだそれ?」
「肉に塩を付けて水分を抜く、それを繰り返して乾燥させると保存できる期間が延びるんです」
「本当か?嘘みたいな話だな?」
 そんなに怪しいか?食材の中の水分が腐るって話はかなり有名だと思っていたんだけど。ただ、これを口で説明するには難しすぎるな。微生物の話とか、急に立ち話でされても理解できないだろうし。それに、乾燥肉を完成させるには少し時間がかかるから今すぐに証明できるものではないか。
「今すぐに証明できるわけではないですけど、やってみるといいかもしれないですね」
「肉がダメにならないか?」
「今の状態よりは良くなりますね、塩抜きというのは必須ですけど」
「なんだ…?塩抜き?」
「それはおいおい伝えますよ、そういえば冷蔵出来る物があったりは?」
 冷蔵庫があれば野ざらしよりは大分良くなると思う。それでも、一か月とかは無理だけど。冷凍庫に入れても一か月が限界だったはず。まぁ、過ぎても食えなくはない…はず、自己責任で。
「ここは涼しいからな、冷やすような物はないはずだ」
「聞いたこと…あります」
 メェル?!いつの間に、俺の後ろからひょこっと顔を出して…なんというか可愛いな。ていうか、俺は警戒すべき人間なはずなんだが…良いのだろうか。いいや、俺だから案内してくれるって事にしておこう。嫌だったら断ってるだろうし。
 メェルの話によれば、ここから北に行った所に大きな山脈があって、そこに大きな氷があるらしい。この町でも売っているようで、なんでもずっと溶けないのだとか。やりすぎだろ、永久に溶けない氷とか…原理はどうなってるんだ?
「なるほど、じゃあ、それを買って戻ってきます」
「…うん?分かった?待ってるぞ」
 首を傾げた店主は俺らを見送ってくれる。氷を加工して、中身をくりぬけば簡易冷蔵庫になると思う。それか…氷を四つ合わせるとか?でもさ、溶けないって事は加工が難しいか?
「メェル、加工は難しいかな?」
「氷…ですか?加工しないので…」
「加工しないのか、まぁそうだよね。」
「はい…」
「ていうか…ここ何処?」
「え…知ってるんじゃ…ないんですか?」
 完全に迷子だ!意気揚々と出てきたのは良いけど、場所知らないんだわ。場所知らないのに先頭歩いてるの、俺の悪い癖かもしれない。街の地図ください…。
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