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2話 私が異世界トリップした件について
しおりを挟む私、天宮聡美(あまみやさとみ)が異世界に飛ばされたのは高校一年生のときだった。ウェブ小説によくある展開のトラックに轢かれたとか、通り魔に刺されて……とかじゃないんだけど、避難訓練のときに高校の非常口のドアを開けたら、急に目の前に頭がカラフルな人がたくさんいたんだよ。
辺りには煉瓦造りの建物が鮨詰め状態で並び、広場には大きな噴水、道の端では街路樹が色とりどりの花を咲かせていた。はじめの頃は何が何だか分からず、セーラー服ひとつで見知らぬ町に放り出されて三日間飲まず食わずにさまよい続け、空腹で倒れる寸前だったところを酒場のオーナー、ハンナさんに助けられた。
それからはハンナさんのご好意で住み込みで給仕として働かせてもらえることになって、仲良くおしゃべりできる常連さんもできて、せっかく上手くいってきたなーと思っていたのに。こっちに来てから三年ほど経った頃だろうか。不況の煽りを受け、とうとうこの酒場を閉めることになったという。
明日からの食い扶持を探そうにも、私は言葉は話せるけどこの国の文字はわからないから読み書きができない。役所の掲示板に貼られた求人に応募することも、募集要項を読むこともできない。
「どうだ? よかったらウチで働いてみないか?」
困り果てていた私に救いの神が現れた。ルイスさんはかの有名なアスディア王国騎士団の隊長様で、軍服の上からでも分かるかっちりとした筋肉を全身に纏っている。
私より頭ひとつ分くらい高い身長。顔のパーツはゴツゴツしているが整っており、彫りが深い。鋭い目つきは他者を圧倒させるオーラを放っている。明るめの茶髪にターコイズブルーの瞳。最初のころはいつも一人で飲んでて、カッコイイけどイカつい兄ちゃんって感じで話しかけづらい雰囲気だったんだけど、お菓子をもらったり、たわいない会話を繰り返すうちにだんだん仲良くなっていった。
ルイスさんにお世話になるのは申し訳ないが、このチャンスを逃したら次はない気がして、私は彼の提案を受け入れるのだった。
テーブルや椅子などの機材はとっくに撤去されていた。今日は最後のお別れ会。がらーんとした店内の中央に立つ重く寂しげな顔のハンナさん。店の子の中には泣いている子もいた。
「みんな! これから渡すのは最後の給料だ! 退職金も含めて色つけておいたからね!」
お店の女の子がひとりひとりハンナさんの前に立ち言葉を交わして給料袋を受け取る。
そして、私の番が来た。
「ハンナさん、今までお世話になりました。あなたが助けてくれなかったら、私はあの場で野垂れ死んでいたと思います」
「何言ってんだ、当たり前のことをしただけだよ。本当は親が子を捨てるようなことはしたくないんだけど……これも時代の流れのせいかね。いいかいサトミ。この世は残酷だ、いくら努力を積み重ねたところで些細な歯車のずれが全てをぶち壊してしまうこともある。それでもあんたには前を向いて胸を張って生きて欲しいんだよ。希望を持つことを忘れちゃいけない」
「は、い……ありがとう、ございました」
ハンナさんが私を強く抱きしめた。いろんな感情がごっちゃになって、涙で顔面がぐちゃぐちゃになって。……本当にありがとうございました、あなたの言葉を胸に、私は前を向いて人生を歩み続けます。
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