35 / 50
34話 鳥籠の中
しおりを挟むユリウスくんとキールさんにあれだけダメだと念押しされたが、どうしてもトウワ国に行ってみたい。
今私の手元にあるのは有給休暇申請書と、外泊許可願。一年で一回しか付与されないのに、十日間全部一気に使い切っちゃって大丈夫かな。......いや、いいんだ。世界地図はあらかじめ書き写しておいた。瞳の件はサングラスをかければ色は分からないだろう。周りから小さい小さい言われてる私だが、中学生の頃から身長は百六十センチあって、むしろ同年代の女子と比べれば背が高い方だった。男装すれば女だとは気づかれないはず。この時ばかりは凹凸の少ない貧相な自分の身体に感謝感謝だ。
副団長室の前まで来て、ドアをノックして部屋の中へ、机の上にこっそり置いて出ていこうかと思ったが、レオさんが居たので、恐る恐る申請書を手渡した。
「失礼します。あの、これ」
「ああ......」
レオさんはメガネをカチャリとかけ直すと、上から下までジロジロとその紙を見つめた。
「サトミさん。理由は私用のためとありますが、詳細は?」
「旅行に、行きたくて」
「お一人で?」
「はい」
「......申し訳ありません。この申請書は受理できません」
彼は大きくため息をつくと、その紙を二枚ともクシャクシャにして丸めて、ゴミ箱に投げつけた。
「えっ? なんで?」
「受理、できません」
レオさんは機械のように冷たくそう呟くと、ふたたび机仕事に戻った。これ以上は何を言っても取り合ってくれなさそうだ。私は唇を強く噛み締めると、静かにその場から退出した。
そのあとは箒を持って庭掃除。落ち葉を集めて、ちりとりで取って……。ふと足を進めると、騎士団本部の大門のところまで来てしまった。あと一歩足を前に進めれば簡単に外に出られる。誰かに許可を得る必要なんてないじゃないか。自分の人生だ、好きなように生きればいい。
そのとき、まとわりつくような視線を感じて振り返ってみると、遠くでルイスさんとユリウスくんが身振り手振りを交えて何やら話していた。私のこと、かな。
ルイスさんが私の方に向かって歩いてきた。いつものような優しさは感じられない。疑惑と不信感が混ざったようなあの目。この胸の変なドキドキは教師に呼び出されて叱られる直前のあれに似ている。
「……っ、なにか?」
「悲しいな」
ルイスさんが私の肩をポンと叩いて、ボソリと呟いた。まずい、私の計画全部バレてる、ユリウスくんに話してしまったということは、それがそのままルイスさんにも伝わるということで。
「十日以内に必ず戻ってきます。ご迷惑はかけません」
「殺されに行くようなものだぞ」
「わかっています。でも、トウワ国に行けばなにかあるかもって」
「なにもないかもしれない」
「それでも構わない! 私は成長したいんです。
恵まれた変わらない日々に甘え続けるのは楽かもしれない。でも、危険だとしても、私は自分の足で広い世界を歩いてみたい」
もうこのまま彼を押しのけて、飛び出してしまおうかと思った。でも、呆れられてしまうのが怖くて、次に帰ってきたら自分の居場所がなくなってしまうことを恐れて、私は門の方へ背を向けた。
「楽でいいじゃないか、成長なんてしなくていい。頼むからそのままで。俺はサトミのことが心配なんだよ」
「……すみません、勝手なことばかり」
「いいんだよ。もうおやつの時間だ、中で一緒に食べよう? 今日はサトミが好きな甘いケーキを用意した」
「やった! ケーキ!」
私は精一杯の作り笑いを浮かべると、彼が差し出した手をそっと握り返した。……ああ、ダメだ。やっぱり私はルイスさんには逆らえない。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる