強面な騎士様は異世界から来た少女にぞっこんです

島崎 桜

文字の大きさ
34 / 50

33話 井の中の蛙大海を知らず

しおりを挟む

ようやく封筒貼りの仕事が終わり、私は談話室に足を運んでいた。ルイスさんとのお勉強のおかげで文字がある程度読めるようになったので、世界地図が記載されている本を棚から一冊抜き取って、机の上に広げる。

今私がいるのはだいたい真ん中らへん。そこからずっと大陸を東へ進み、海を渡ると、ひし形を縦にかなり細長くしたような小さな島国がある。ここがトウワ国......めちゃくちゃ遠いな。ここで働き始めて半年経ったから、十日間の有給休暇をもらったけど、その間に行って帰ってこられるかどうか。飛行機がないから移動手段は徒歩と船になる。酒場で貰った退職金にはまるまる手をつけてないし、貯金も少しならあるから旅費はなんとかなりそうだけど......。

誰にも相談せずに ひとりきりで行くのはかなり無謀な気がする。道も分からないし、迷子になったらそれで終わり。誰かと一緒に......でも、みんな仕事があるだろうし、付いてきてくれる人なんているかな? ルイスさんやヨハンさんに海外旅行に行きたいです、なんて言ったら烈火の如く怒り出しそうだしな。

「おーっす、どうした? 嬢ちゃん」
「サトミちゃん、世界地図なんか広げちゃって、なにかあったの?」
「……えっと、ですね」

偶然通りかかったキールさんとユリウスくんに、トウワ国に行きたいことを話した。が、二人揃ってものすごく渋い顔。あまりよろしくないことは確かなようだ。

「厳しいな。トウワ国に行くには海を渡る前に三つの国を経由する必要がある。ゾナモ、ラキ、コトソ。その中でもコトソは無法地帯で、治安がかなり悪い」
「無法地帯……?」
「警察が機能してねぇってことだ。国を追われたならず者どもや不法滞在者がウヨウヨしてやがる」

キールさんが地図をトントンと指差してそう言った。警察が機能してない? そんな国あるの? 

「強盗や殺しは日常茶飯事。奪い合うことが当たり前の世界だ。サトミちゃんみたいな世間知らずな女の子がフラフラしてたら、あっという間に有り金と荷物全部奪われた挙句レイプされてボロ雑巾みたいになってその辺の道端に捨てられるのがオチだよ」

背筋が震える。まるで北○の拳のような世紀末な世界……怖い、怖すぎる。

「おい、言い過ぎだ、ユリウス」
「いいんですよキール先輩。サトミちゃん、君は自分がぬるま湯の中にいるってことを自覚した方がいい」
「世の中善人ばかりじゃねぇってことだな」

ぬるま湯……私の周りはみんな優しくて、いい人ばかり。守られてばかりで気がつかなかった。所詮井の中の蛙は大海を知ることなんてできないのか。

「サトミちゃん。ダークディアメントって知ってる?」
「……いいえ」
「宝石の一種なんだけど、それは金より、プラチナより希少価値が高い。一カラットで国家予算に相当するとまで言われてる代物だ。そして、黒い瞳のことをそう呼ぶこともある。一部のコレクターの間では文字通り目が飛び出るほどの価格で取引されているそうだ。悪人ってのは金のためなら手段は選ばない。……あとはわかるね?」

黒い瞳なんて、日本人なら誰だってそうだ。でも、この世界でその色は貴重で。もし私が法律が機能していない治安の悪い地域に行けば、全てを奪われた挙句殺されるだけ。ユリウスくんの声音は冷たいけど、それは私を心配してくれてのことで。

「悪いことは言わねえ、やめといた方がいいぜ」
「……すみませんでした。諦めて大人しくしておきます」

私はがっくりとうなだれて、二人に頭を下げた。ちょっとした好奇心のつもりだった。異世界に来て、長旅とか、冒険とか、そういうのに憧れていた。でも、現実は漫画や小説のように綺麗に作られてはいないんだ。

「それがいい。それにルイス先輩やヨハン先輩が絶対許してくれないよ。あの二人君のことになると途端に過保護になるから」


鳥籠の中にいれば安全だけど、それは自由とは呼べない。広い世界をこの目で見てみたい。そう願うことは、悪いことなのかな。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

処理中です...