強面な騎士様は異世界から来た少女にぞっこんです

島崎 桜

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32話 卵を生で食べるのはクレイジーらしい

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自分の仕事が全部終わったら定時前に上がらせてもらえるかなーとか思ってたけど、甘かった。これお願いね、とリーダーから渡されたのは大量の封筒が詰められた箱とのり。定時まであと一時間弱、ただひたすら封筒をのりで閉じるだけである。

「サトミの好きな食べ物なに?」
「んー、やっぱりお寿司かな」
「......スシ?」

隣に座って同じように封筒貼りの内職をしているアイシャちゃんが話しかけてきた。リーダーは口より手を動かせとよく言うが、おしゃべりでもしていないと単調な作業すぎて気が狂いそうである。

「知らない? えーっとね、生のお魚をお酢を混ぜて炊いたお米の上に乗せて、それを握るの。私が住んでた国の有名な料理だよ」

大好物だけど、異世界に来てからは一度も口にしてないなぁ。

「お米って、家畜の餌じゃないの? それに魚を生って……お腹壊しちゃうよ」

アイシャちゃん、完全にドン引きである。この国でよく知られる米は日本の品種とは違い固く、パサパサしていて食用には適さない。そして、冷蔵保存技術が発展していないこの時代、火を通さずに魚を食べるのは重大な食中毒を引き起こす可能性があるため絶対NG。自殺行為もいいところである。

「あはは、美味しいんだけどね……」
「ほかは?」
「うーん、卵かけご飯も好きだよ。炊き立てあつあつのご飯に生卵をかけて食べるの」

朝食はこれとお味噌汁とお新香があればもうなにもいうことはない。欲を言えば納豆も追加で。そういえば、日本人らしい食事なんてもう何年もしてないなぁ。

「卵を!? 生で!? クレイジーにもほどがある!」

アイシャちゃんは突然大きな声を出して、目を白黒させていた。……そんなに驚くことかな?

「いや、まぁ、私がいたところでは普通に食べてたけど……」
「もしかして、サトミが住んでた国ってトウワ国?」
「トウワ?」
「極東に位置する小さな島国で、そこに住む民族は毒でもなんでも食べるって有名なの。私もまだ行ったことはないんだけどね」

トウワ……漢字で書くと東和かな? この異世界にも日本っぽい国があるってことかな。そこに行ったら、元の世界に帰れる方法とかわかるかも……って、町の外に出ることすら許されてないのに、海外旅行なんて夢のまた夢だよなぁ。

「あと有名なのはフジヤマと、ゲイシャと、ハラキリらしいんだけど、なんのことかわかる?」
「……あー、うん」
「ほんと!? じゃあニンジャは? ドラ○ンボールは?」
「ニンジャはいないよ……多分」

日本の間違ったイメージオンパレードですがな。こっちの日本っぽい国がどうなのか知らないけど。江戸時代くらいの文化で止まってるのかな? 江戸時代にドラ○ンボールはねぇよ。

「あと、クラーケンも食べるってほんと?」
「クラーケン?」
「聖書に出てくる悪魔の名前。足が八本あって、海の中をうねうね動き回る凶悪な怪物なんだけど」
「ああ、タコのことね。食べるよ、茹でたり、和え物にしたりしてね」
「悪魔の化身をもろともせずに……すごい」

なんかよく分からないけど、アイシャちゃんから尊敬された。まぁ、日本人って宗教信仰心が薄いから、神の祟りとか信じてない人も多いし、なんでも平気で口にするから。

魚とか、肉の内臓とか、本当なら捨てちゃうところも余さず食べちゃう食文化。命をいただくからにはなるべくそうありたい。

トウワ国、俄然興味が湧いてきたぞ。
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