33 / 50
32話 卵を生で食べるのはクレイジーらしい
しおりを挟む自分の仕事が全部終わったら定時前に上がらせてもらえるかなーとか思ってたけど、甘かった。これお願いね、とリーダーから渡されたのは大量の封筒が詰められた箱とのり。定時まであと一時間弱、ただひたすら封筒をのりで閉じるだけである。
「サトミの好きな食べ物なに?」
「んー、やっぱりお寿司かな」
「......スシ?」
隣に座って同じように封筒貼りの内職をしているアイシャちゃんが話しかけてきた。リーダーは口より手を動かせとよく言うが、おしゃべりでもしていないと単調な作業すぎて気が狂いそうである。
「知らない? えーっとね、生のお魚をお酢を混ぜて炊いたお米の上に乗せて、それを握るの。私が住んでた国の有名な料理だよ」
大好物だけど、異世界に来てからは一度も口にしてないなぁ。
「お米って、家畜の餌じゃないの? それに魚を生って……お腹壊しちゃうよ」
アイシャちゃん、完全にドン引きである。この国でよく知られる米は日本の品種とは違い固く、パサパサしていて食用には適さない。そして、冷蔵保存技術が発展していないこの時代、火を通さずに魚を食べるのは重大な食中毒を引き起こす可能性があるため絶対NG。自殺行為もいいところである。
「あはは、美味しいんだけどね……」
「ほかは?」
「うーん、卵かけご飯も好きだよ。炊き立てあつあつのご飯に生卵をかけて食べるの」
朝食はこれとお味噌汁とお新香があればもうなにもいうことはない。欲を言えば納豆も追加で。そういえば、日本人らしい食事なんてもう何年もしてないなぁ。
「卵を!? 生で!? クレイジーにもほどがある!」
アイシャちゃんは突然大きな声を出して、目を白黒させていた。……そんなに驚くことかな?
「いや、まぁ、私がいたところでは普通に食べてたけど……」
「もしかして、サトミが住んでた国ってトウワ国?」
「トウワ?」
「極東に位置する小さな島国で、そこに住む民族は毒でもなんでも食べるって有名なの。私もまだ行ったことはないんだけどね」
トウワ……漢字で書くと東和かな? この異世界にも日本っぽい国があるってことかな。そこに行ったら、元の世界に帰れる方法とかわかるかも……って、町の外に出ることすら許されてないのに、海外旅行なんて夢のまた夢だよなぁ。
「あと有名なのはフジヤマと、ゲイシャと、ハラキリらしいんだけど、なんのことかわかる?」
「……あー、うん」
「ほんと!? じゃあニンジャは? ドラ○ンボールは?」
「ニンジャはいないよ……多分」
日本の間違ったイメージオンパレードですがな。こっちの日本っぽい国がどうなのか知らないけど。江戸時代くらいの文化で止まってるのかな? 江戸時代にドラ○ンボールはねぇよ。
「あと、クラーケンも食べるってほんと?」
「クラーケン?」
「聖書に出てくる悪魔の名前。足が八本あって、海の中をうねうね動き回る凶悪な怪物なんだけど」
「ああ、タコのことね。食べるよ、茹でたり、和え物にしたりしてね」
「悪魔の化身をもろともせずに……すごい」
なんかよく分からないけど、アイシャちゃんから尊敬された。まぁ、日本人って宗教信仰心が薄いから、神の祟りとか信じてない人も多いし、なんでも平気で口にするから。
魚とか、肉の内臓とか、本当なら捨てちゃうところも余さず食べちゃう食文化。命をいただくからにはなるべくそうありたい。
トウワ国、俄然興味が湧いてきたぞ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる