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31話 ダークディアメント
しおりを挟むサトミが可愛すぎる。頭を撫でてやると嬉しそうに俺に擦り寄って来るところとか、俺がお菓子の袋を開けると物欲しそうな顔でこっちを見つめながらおねだりしてくるところとか、こんなのいくらでもおやつあげたくなっちゃう。
でも、俺がちょっと目を離した隙にどこかに行ってしまうのはいただけない。猫は気まぐれな生き物だというが、もう少し危機感を持って欲しいものだ。自分が誘拐されたことを忘れたんじゃないのか? あー、もうずっと机の上に置いておきたいなあ。首輪なんてつけちゃって、日向ぼっこしながら気持ちよさそうに眠るサトミを一日中触っていたい。……なんか俺、日に日に妄想が酷くなってる気がする。
「ルイス!」
「っ、あ、ごめん」
「ここにサインくれって何度も言ってるだろ? 頼むからしっかりしてくれよ」
「はは、お前ら、いつもそんな感じか?」
「ああ、特にルイスは惚れた女のことを考えていつも上の空だ」
俺が慌てて差し出された書類に自分の名前を書くと、呆れ顔のヨハンに、いつもは隊長室で仕事なんかしてないで外回りだと称して遊び歩いているキールが鼻で笑った。
「あの子、意外とすばしっこいのな。足が早くてびっくりした。それに耳がいい。こっそり尾行してたのに、足音で気付かれてあやうく撒かれそうになったぜ、ヨハン」
「ほら、小動物ってのは自然界じゃ捕食対象だから敵が多いだろ? そういう危機を察知するための能力が発達してんじゃないかな。ウサギみたいに」
猫の次はウサギか……ウサギもいいな。体毛は黒で、柔らかくてもふもふで、鼻をふんふん鳴らしながらちょこちょこ動き回るサトミ。膝の上になんか乗っけちゃったりして。ああもう可愛い。
「敵が多いのは確かだわな。最近黒目の人間が野盗に襲われる事件が多発している。被害者は眼球を両方とも抉り出されて、死体はその場に放置されてたって話。貧乏人にとっちゃありゃ宝石が服着て歩いてるようなもんだ」
「そりゃ他国のスラム街での話だろ? こっちは王のお膝元、騎士団本部の建物があるから治安がいいし、白昼堂々ことに及ぼうとするやつなんていねーよ」
所詮は都市伝説の類だが、黒はこの世で最も不吉かつ、希少な色。それを宿して生まれてくるものは、悪魔か、魔女の生まれ変わり。その眼球はとある宝石になぞらえて『ダークディアメント』と呼ばれ、闇オークションで高値で取引されているらしい。もちろん臓器の裏売買は違法で、見つかれば重罪。騎士団が目を光らせてはいるが、全てを取り締まることはできてないのが現状だ。
……万が一にも、サトミが被害者になるようなことはないと思う。そのことを心配するのは普通に道を歩いていて誰かに刺されることを恐れるようなものだ。日常に潜む全ての危険を排除することは不可能に近い。だが、予防することはできる。
「サトミもなぁ、一人で出歩くなって言ってんのに、言うこと聞きやしねぇ。こうなったら縄でつないで、檻にでも入れて閉じ込めとくか? ルイス」
「……それはダメだろう。彼女にも人権ってものがある」
そんなことをしたら、鬱憤が溜まって逃げ出してしまうかもしれない。ウサギはストレスが溜まると自分を傷つけて自殺してしまうと聞く。ある程度の自由は保障しつつ、俺たちが見守ってやらなければ。
そうだ、俺はサトミを守る盾になる。弱気を助け、悪しきをくじくのが騎士の務め。そのためなら俺は、鬼にだってなんだってなってやる。
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