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第11話「公爵家の食卓と、愛の隠し味」
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平穏で甘い日々が始まった。
レオンハルト様の味覚障害は、僕の料理を食べることで完全に克服されたわけではないが、僕が作ったもの以外でも、少しずつ味がわかるようになってきていた。
それでも彼は「お前の料理以外は、ただの栄養補給だ」と言ってはばからない。
「はい、あーん」
「……恥ずかしいからやめろと言っているだろう」
「でも、手が塞がってますよね?」
執務室で書類仕事に追われるレオンハルト様の口に、僕は一口サイズのサンドイッチを運ぶ。
彼は渋い顔をしつつも、素直に口を開けてパクリと食べた。
「うまい。……具材は何だ?」
「特製のハーブチキンと、完熟トマトです。マヨネーズも自家製ですよ」
「最高だ。これがあれば、あと百枚の書類も片付く」
彼は咀嚼した後、僕の腰を引き寄せて頬にキスをした。
これが最近の日常だ。砂糖を吐きそうなほどの甘い空気に、入室してきた騎士たちが「失礼しました!」と即座に回れ右することもしばしば。
そんなある日、一通の招待状が届いた。
それは王家主催の晩餐会への招待状だった。
「……断る」
レオンハルト様は封筒を見るなり、即座にゴミ箱へ投げ捨てようとした。
「えっ、王様からの招待ですよね!? いいんですか?」
「面倒だ。それに、あそこの飯は不味い。見た目ばかり豪華で、心がこもっていない」
「でも、招待状には『同伴者と共に』って書いてありますよ?」
僕が拾い上げて読むと、彼はピタリと動きを止めた。
そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「ほう……つまり、公式の場でノアをお披露目できるということか」
「えっ」
「それなら話は別だ。行こう、ノア。あのすかした貴族どもに、俺のパートナーがどれほど素晴らしいか見せつけてやる」
レオンハルト様の瞳が、獲物を狙う狩人のそれになっていた。
僕はおろおろするばかり。
「む、無理です! 僕なんかが行ったら、マナーも知らないし、恥をかくだけです!」
「心配するな。俺がエスコートする。それに、ただ出席するだけじゃない」
彼は僕の手を取り、いたずらっ子のように微笑んだ。
「今回の晩餐会は、各国の珍味が集まるらしい。お前にも一品、作ってもらう」
「ええええ!?」
王宮で料理? しかも各国の名シェフたちと肩を並べて?
プレッシャーで胃が痛くなりそうだ。
でも、レオンハルト様は確信に満ちていた。
「お前の料理があれば、王国の歴史が変わる。俺を信じろ」
彼がそこまで言うなら、やるしかない。
僕は覚悟を決めた。僕の料理で、レオンハルト様の顔を立ててみせる。
メニューはどうしよう。
高級食材を使えばいいわけじゃない。食べた人が心から笑顔になれる、そんな一皿を。
僕は頭の中でレシピを組み立て始めた。
テーマは「驚き」と「原点」。
レオンハルト様の味覚障害は、僕の料理を食べることで完全に克服されたわけではないが、僕が作ったもの以外でも、少しずつ味がわかるようになってきていた。
それでも彼は「お前の料理以外は、ただの栄養補給だ」と言ってはばからない。
「はい、あーん」
「……恥ずかしいからやめろと言っているだろう」
「でも、手が塞がってますよね?」
執務室で書類仕事に追われるレオンハルト様の口に、僕は一口サイズのサンドイッチを運ぶ。
彼は渋い顔をしつつも、素直に口を開けてパクリと食べた。
「うまい。……具材は何だ?」
「特製のハーブチキンと、完熟トマトです。マヨネーズも自家製ですよ」
「最高だ。これがあれば、あと百枚の書類も片付く」
彼は咀嚼した後、僕の腰を引き寄せて頬にキスをした。
これが最近の日常だ。砂糖を吐きそうなほどの甘い空気に、入室してきた騎士たちが「失礼しました!」と即座に回れ右することもしばしば。
そんなある日、一通の招待状が届いた。
それは王家主催の晩餐会への招待状だった。
「……断る」
レオンハルト様は封筒を見るなり、即座にゴミ箱へ投げ捨てようとした。
「えっ、王様からの招待ですよね!? いいんですか?」
「面倒だ。それに、あそこの飯は不味い。見た目ばかり豪華で、心がこもっていない」
「でも、招待状には『同伴者と共に』って書いてありますよ?」
僕が拾い上げて読むと、彼はピタリと動きを止めた。
そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「ほう……つまり、公式の場でノアをお披露目できるということか」
「えっ」
「それなら話は別だ。行こう、ノア。あのすかした貴族どもに、俺のパートナーがどれほど素晴らしいか見せつけてやる」
レオンハルト様の瞳が、獲物を狙う狩人のそれになっていた。
僕はおろおろするばかり。
「む、無理です! 僕なんかが行ったら、マナーも知らないし、恥をかくだけです!」
「心配するな。俺がエスコートする。それに、ただ出席するだけじゃない」
彼は僕の手を取り、いたずらっ子のように微笑んだ。
「今回の晩餐会は、各国の珍味が集まるらしい。お前にも一品、作ってもらう」
「ええええ!?」
王宮で料理? しかも各国の名シェフたちと肩を並べて?
プレッシャーで胃が痛くなりそうだ。
でも、レオンハルト様は確信に満ちていた。
「お前の料理があれば、王国の歴史が変わる。俺を信じろ」
彼がそこまで言うなら、やるしかない。
僕は覚悟を決めた。僕の料理で、レオンハルト様の顔を立ててみせる。
メニューはどうしよう。
高級食材を使えばいいわけじゃない。食べた人が心から笑顔になれる、そんな一皿を。
僕は頭の中でレシピを組み立て始めた。
テーマは「驚き」と「原点」。
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