14 / 19
第13話「契約の破棄と真実の言葉」
しおりを挟む
王宮でのパーティーを早々に抜け出した二人は、夜道を駆ける馬車の中にいた。
車窓の外を流れる街灯の光が、アルヴィンの横顔を断続的に照らし出す。
彼は不機嫌そうに腕を組み、窓の外を見つめていた。
リアンはその隣で、小さくなって座っていた。
怒っているのだろうか。
さっきの王子とのやり取りで、機嫌を損ねてしまったのかもしれない。
「……あの、アルヴィン様」
恐る恐る声をかけると、アルヴィンはこちらを見ずに答えた。
「なんだ」
「怒ってますか……? 俺、余計なことを言ってしまって……」
「怒っていない」
短い返事。でも、声には明らかな棘がある。
リアンは俯いた。
やはり、身分不相応だったのだ。
自分のような元貴族の落ちこぼれが、王族の前であんな出しゃばった真似をして。
アルヴィンの婚約者として相応しくないと思われたのかもしれない。
沈黙が痛い。
馬車が屋敷に到着し、二人は無言のまま自室へと戻った。
***
部屋に入ると、アルヴィンは上着を乱暴に脱ぎ捨て、ソファにドカッと座った。
リアンはおずおずと、脱ぎ捨てられた上着を拾い上げた。
「あの……お茶でも淹れましょうか?」
「いらない」
冷たい拒絶。
リアンは唇を噛んだ。
どうしていいかわからない。
戦場でのあんなに優しかった彼はどこへ行ってしまったのだろう。
勇気を出して、アルヴィンの前に立った。
「アルヴィン様、俺……何かしましたか? 言ってくれないとわかりません」
アルヴィンは顔を上げ、じっとリアンを見つめた。
その瞳には、複雑な色が揺れていた。
嫉妬、独占欲、そして自己嫌悪。
「……お前が可愛すぎるのが悪い」
ボソッと言われた言葉に、リアンは耳を疑った。
「は……?」
「あんな場所で、あんな綺麗な格好をして、他の男に愛想を振りまいて……」
アルヴィンは頭を抱えた。
「俺はおかしくなりそうだった。全員の目を潰してやりたかった」
それは、ただの嫉妬だった。
しかも、かなり重度の。
リアンは拍子抜けして、思わず吹き出してしまった。
「な、何がおかしい!」
「だって……そんなことで怒ってたんですか?」
「そんなことだと? 俺にとっては死活問題だ!」
アルヴィンは顔を赤くして抗議する。
なんて可愛い人なんだろう。
リアンは愛おしさが込み上げてきて、アルヴィンの膝の上に座った。
「俺は、アルヴィン様しか見てませんよ」
首に腕を回し、そっとキスをする。
「他の誰が何と言おうと、俺の心はあなたのものです」
その言葉に、アルヴィンの表情がふっと緩んだ。
「……知ってる。でも、心配なんだ」
アルヴィンはリアンの腰を抱き寄せ、深く口づけた。
「お前は無自覚すぎる。自分がどれだけ魅力的か、わかっていない」
「そ、そうですか……?」
「ああ。だから、これからはもっと厳重に管理させてもらう」
そう言って、アルヴィンは懐から1枚の紙を取り出した。
見覚えのある羊皮紙。
あの時、無理やり結ばされた借金の契約書だ。
「これは……」
「破棄する」
アルヴィンは言った。
そして、契約書をビリビリに破り捨てた。
紙吹雪のように舞い散る紙片。
リアンは呆然とした。
「えっ、でも借金は……」
「もういい。借金なんて最初からなかったことにする」
アルヴィンは真剣な眼差しでリアンを見つめた。
「金で縛るような真似はもうしたくない。これからは、対等なパートナーとして、俺のそばにいてほしい」
それは、プロポーズだった。
借金の形ではなく、愛による結びつきを求めている。
リアンの目から涙が溢れた。
「……はい。喜んで」
二人は再び抱き合い、長いキスを交わした。
部屋の隅で、ポチがやれやれといった顔で見守っていた。
***
翌日、アルヴィンはリアンを連れて王都の街へ出かけた。
デートだ。
これまでは屋敷に閉じ込められていたが、もう隠す必要はない。
堂々と手をつなぎ、大通りを歩く。
人々が振り返る。
「あれが魔導騎士団長と、その奥様か」
「なんてお似合いなんだろう」
羨望の眼差し。
リアンは少し照れくさかったが、アルヴィンが誇らしげに胸を張っているので、自分も背筋を伸ばした。
二人はカフェでお茶をし、服屋で新しい服を選び、公園でポチと遊んだ。
普通の恋人同士のようなデート。
リアンにとっては初めての経験で、すべてが新鮮で輝いて見えた。
夕暮れ時、二人は丘の上の展望台へ行った。
王都の街並みが一望できる絶景スポットだ。
夕日が街をオレンジ色に染め、家々に明かりが灯り始める。
「綺麗ですね……」
「ああ」
アルヴィンは景色ではなく、リアンの横顔を見ていた。
「リアン、改めて言わせてくれ」
彼はリアンの前に跪いた。
ポケットから小さな箱を取り出す。
パカッと開くと、中には精霊石の指輪が輝いていた。
虹色に光る、世界に一つだけの指輪。
「俺と結婚してくれ。一生、大切にする」
シンプルな言葉。でも、心からの言葉。
リアンは涙で視界が滲んだ。
「……はい。お願いします」
指輪が左手の薬指に嵌められる。
ぴったりだった。
アルヴィンが立ち上がり、リアンを抱き上げる。
「ありがとう、リアン。愛してる」
「俺もです、アルヴィン様」
二人の影が一つになり、長い口づけを交わした。
その瞬間、空に一番星が輝き、祝福するように煌めいた。
車窓の外を流れる街灯の光が、アルヴィンの横顔を断続的に照らし出す。
彼は不機嫌そうに腕を組み、窓の外を見つめていた。
リアンはその隣で、小さくなって座っていた。
怒っているのだろうか。
さっきの王子とのやり取りで、機嫌を損ねてしまったのかもしれない。
「……あの、アルヴィン様」
恐る恐る声をかけると、アルヴィンはこちらを見ずに答えた。
「なんだ」
「怒ってますか……? 俺、余計なことを言ってしまって……」
「怒っていない」
短い返事。でも、声には明らかな棘がある。
リアンは俯いた。
やはり、身分不相応だったのだ。
自分のような元貴族の落ちこぼれが、王族の前であんな出しゃばった真似をして。
アルヴィンの婚約者として相応しくないと思われたのかもしれない。
沈黙が痛い。
馬車が屋敷に到着し、二人は無言のまま自室へと戻った。
***
部屋に入ると、アルヴィンは上着を乱暴に脱ぎ捨て、ソファにドカッと座った。
リアンはおずおずと、脱ぎ捨てられた上着を拾い上げた。
「あの……お茶でも淹れましょうか?」
「いらない」
冷たい拒絶。
リアンは唇を噛んだ。
どうしていいかわからない。
戦場でのあんなに優しかった彼はどこへ行ってしまったのだろう。
勇気を出して、アルヴィンの前に立った。
「アルヴィン様、俺……何かしましたか? 言ってくれないとわかりません」
アルヴィンは顔を上げ、じっとリアンを見つめた。
その瞳には、複雑な色が揺れていた。
嫉妬、独占欲、そして自己嫌悪。
「……お前が可愛すぎるのが悪い」
ボソッと言われた言葉に、リアンは耳を疑った。
「は……?」
「あんな場所で、あんな綺麗な格好をして、他の男に愛想を振りまいて……」
アルヴィンは頭を抱えた。
「俺はおかしくなりそうだった。全員の目を潰してやりたかった」
それは、ただの嫉妬だった。
しかも、かなり重度の。
リアンは拍子抜けして、思わず吹き出してしまった。
「な、何がおかしい!」
「だって……そんなことで怒ってたんですか?」
「そんなことだと? 俺にとっては死活問題だ!」
アルヴィンは顔を赤くして抗議する。
なんて可愛い人なんだろう。
リアンは愛おしさが込み上げてきて、アルヴィンの膝の上に座った。
「俺は、アルヴィン様しか見てませんよ」
首に腕を回し、そっとキスをする。
「他の誰が何と言おうと、俺の心はあなたのものです」
その言葉に、アルヴィンの表情がふっと緩んだ。
「……知ってる。でも、心配なんだ」
アルヴィンはリアンの腰を抱き寄せ、深く口づけた。
「お前は無自覚すぎる。自分がどれだけ魅力的か、わかっていない」
「そ、そうですか……?」
「ああ。だから、これからはもっと厳重に管理させてもらう」
そう言って、アルヴィンは懐から1枚の紙を取り出した。
見覚えのある羊皮紙。
あの時、無理やり結ばされた借金の契約書だ。
「これは……」
「破棄する」
アルヴィンは言った。
そして、契約書をビリビリに破り捨てた。
紙吹雪のように舞い散る紙片。
リアンは呆然とした。
「えっ、でも借金は……」
「もういい。借金なんて最初からなかったことにする」
アルヴィンは真剣な眼差しでリアンを見つめた。
「金で縛るような真似はもうしたくない。これからは、対等なパートナーとして、俺のそばにいてほしい」
それは、プロポーズだった。
借金の形ではなく、愛による結びつきを求めている。
リアンの目から涙が溢れた。
「……はい。喜んで」
二人は再び抱き合い、長いキスを交わした。
部屋の隅で、ポチがやれやれといった顔で見守っていた。
***
翌日、アルヴィンはリアンを連れて王都の街へ出かけた。
デートだ。
これまでは屋敷に閉じ込められていたが、もう隠す必要はない。
堂々と手をつなぎ、大通りを歩く。
人々が振り返る。
「あれが魔導騎士団長と、その奥様か」
「なんてお似合いなんだろう」
羨望の眼差し。
リアンは少し照れくさかったが、アルヴィンが誇らしげに胸を張っているので、自分も背筋を伸ばした。
二人はカフェでお茶をし、服屋で新しい服を選び、公園でポチと遊んだ。
普通の恋人同士のようなデート。
リアンにとっては初めての経験で、すべてが新鮮で輝いて見えた。
夕暮れ時、二人は丘の上の展望台へ行った。
王都の街並みが一望できる絶景スポットだ。
夕日が街をオレンジ色に染め、家々に明かりが灯り始める。
「綺麗ですね……」
「ああ」
アルヴィンは景色ではなく、リアンの横顔を見ていた。
「リアン、改めて言わせてくれ」
彼はリアンの前に跪いた。
ポケットから小さな箱を取り出す。
パカッと開くと、中には精霊石の指輪が輝いていた。
虹色に光る、世界に一つだけの指輪。
「俺と結婚してくれ。一生、大切にする」
シンプルな言葉。でも、心からの言葉。
リアンは涙で視界が滲んだ。
「……はい。お願いします」
指輪が左手の薬指に嵌められる。
ぴったりだった。
アルヴィンが立ち上がり、リアンを抱き上げる。
「ありがとう、リアン。愛してる」
「俺もです、アルヴィン様」
二人の影が一つになり、長い口づけを交わした。
その瞬間、空に一番星が輝き、祝福するように煌めいた。
20
あなたにおすすめの小説
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる