辺境の薬師は追放されたオメガの元聖職者~孤独な最強アルファ傭兵を拾ったら、激重な執着で運命の番にされました~

水凪しおん

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エピローグ「雪解けの約束」

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 三年後の冬。

 エルムの村はまたしても深い雪に覆われ、世界は静寂な白一色に染まっていた。

 だが、ルシアンの家の中は、凍えるような外気とは無縁の温かさに満ちている。

 暖炉には太い薪がくべられ、赤い炎が力強く揺らめいている。鉄の鍋からは、香草と肉をじっくりと煮込んだ濃厚な香りが漂い、部屋中に食欲をそそる湯気を充満させていた。

 ルシアンは窓辺に立ち、厚いガラスの向こうに広がる雪景色をぼんやりと眺めていた。

 外は猛吹雪だ。風が家の壁を叩き、古い木材がきしむ音を立てている。

 あの日、ガルドがこの家の前に倒れていた夜も、こんなひどい吹雪だった。

『あれから、もう何年も経つのですね』

 ルシアンはガラスに息を吹きかけ、白く曇った表面を指先でそっとなぞった。

 教会の追手が現れることは、あの日以来一度もなかった。ガルドの圧倒的な力と、彼の背後にある狂気じみた執念に恐れをなした教会の上層部は、ルシアンの存在を死亡したとして処理し、完全に手を引いたのだという噂を、村を訪れた行商人から聞いた。

 過去の呪縛は完全に断ち切られたのだ。

「ルシアン。そんなところに立っていないで、火のそばに来い。冷えるぞ」

 背後から低く優しい声が聞こえ、大きな毛布がルシアンの肩にふわりとかけられた。

 振り向くと、ガルドが困ったような、けれどひどく甘い目つきでルシアンを見下ろしている。

 その顔つきは、三年前の荒々しい傭兵の面影を残しながらも、どこか角が取れて穏やかなものに変わっていた。

「外を見ていたんです。あなたと出会った夜のことを思い出して」

 ルシアンが微笑みながら答えると、ガルドは小さく鼻を鳴らした。

「あの夜の俺は、死にかけの惨めな獣だったからな。あんたに拾われなかったら、間違いなく雪の下で骨になっていた」

「でも、あなたが私を拾ってくれたんですよ。凍りついていた私の心を、その大きな手で温めて溶かしてくれた」

 ルシアンはガルドの胸にそっと額を押し当てた。

 分厚い服越しに伝わる力強い鼓動。そして、雨上がりの深い森の土の匂い。

 ルシアンの体からも冬の夜の澄んだ空気の匂いが自然とあふれ、二つのフェロモンが暖炉の熱の中で完全に混ざり合う。

 番としての結びつきは、月日を重ねるごとに深く、そして強固なものになっていた。

 もはや言葉にして愛を確かめ合う必要すらない。互いの呼吸の音、匂い、体温のわずかな変化だけで、相手の心が手に取るようにわかるのだ。

「……春になったら」

 ガルドがルシアンの背中に腕を回し、その銀色の髪に口づけながら静かに言った。

「春になったら、村の南にある湖まで行ってみないか。雪解けの時期にしか咲かない、きれいな青い花が一面に咲くらしい。……あんたに、見せてやりたいんだ」

 その提案に、ルシアンは顔を上げて目を輝かせた。

 昔のガルドなら、花を見に行くなんて柄に合わないと笑い飛ばしていただろう。彼が自分のためにそんなささやかな喜びを探してきてくれたことが、たまらなく嬉しかった。

「ええ。とても見たいです。二人で、必ず行きましょう」

 ルシアンが満面の笑みを向けると、ガルドの頬がかすかに赤く染まり、彼は照れ隠しのようにルシアンを強く抱きしめた。

 窓の外では、雪が容赦なく降り続いている。

 けれど、二人の心の中にはすでに、確かな春の光が差していた。

 もう、何も恐れることはない。

 互いの体温を分け合い、共に生きる未来がある限り、どんな厳しい冬も必ず乗り越えていけるのだから。

 ルシアンはガルドの腕の中で目を閉じ、静かに、そして深く満ち足りた呼吸を繰り返した。
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