辺境の薬師は追放されたオメガの元聖職者~孤独な最強アルファ傭兵を拾ったら、激重な執着で運命の番にされました~

水凪しおん

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番外編「陽だまりの食卓」

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 秋の気配が色濃くなり始めたエルムの村は、収穫の時期を迎えて活気づいていた。

 高い空から降り注ぐ陽光は柔らかく、黄金色に色づいた麦畑が風に揺れて、さわさわと心地よい音を立てている。

 ルシアンは家の前の木の椅子に腰掛け、籠に入れた木の実の皮を小さなナイフで丁寧に剥いていた。

 甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。この木の実は冬の間の貴重な保存食になり、熱を出したときの薬としても使える大切なものだ。

「ルシアン、裏の薪割りはこれで全部終わったぞ」

 家の中から、重い足音とともにガルドが姿を現した。

 彼は袖をまくり上げ、額に浮かんだ汗を手の甲で無造作にぬぐっている。その太い腕には太い血管が浮き上がり、健康的な生命力に満ちあふれていた。

 春の日の激闘で負った深い傷は、ルシアンの懸命な治療とガルド自身の驚異的な回復力によって、今では白くかすかな痕を残すだけになっている。

「お疲れ様です。冷たいお茶を淹れてありますから、飲んでください」

 ルシアンが微笑みながら籠を置くと、ガルドは目を細めて短く頷き、テーブルの上の木杯を手に取った。

 一気に喉を鳴らして飲み干す姿を、ルシアンは愛おしさを込めて見つめた。

 あの日から、二人の生活は大きく変わった。

 ガルドは傭兵としての旅を完全にやめ、ルシアンとともにこの辺境の村で暮らすことを選んだのだ。

 最初は村人たちも、教会の騎士団を一人で壊滅させた大柄なアルファの男に怯えていた。だが、ガルドが畑仕事を手伝い、森に現れる危険な獣を退治し、不器用ながらも村の子供たちに剣の持ち方を教えるようになるにつれ、次第に彼を村の一員として受け入れていった。

 今ではルシアン先生の頼もしい番として、誰もが二人の関係を温かく見守ってくれている。

「……何を見ているんだ?」

 空になった木杯を置き、ガルドが不思議そうに首を傾げた。

「いえ。ただ、あなたがこうして私のそばにいてくれることが、まだ少しだけ夢のように思えるときがあるんです」

 ルシアンが素直な思いを口にすると、ガルドは少しだけ照れたように視線をそらし、無精ひげの生えたあごをさすった。

「馬鹿なことを言うな。俺の首輪は、もう完全にあんたが握っているだろう」

 そう言って、ガルドはルシアンの隣にどさりと腰を下ろした。

 大きな体が近づくと、雨上がりの深い森の土の匂いがふわりと漂ってくる。ルシアンの首筋にあるかすかな噛み跡が、その匂いに呼応するように微かに熱を持った。

 番の印を刻まれてから、ルシアンはアルファに対する恐怖を完全に克服していた。

 ガルドの放つフェロモンは、支配や威圧のためではなく、ただルシアンを外敵から守り、安心させるための毛布のような役割を果たしている。

 ルシアンはナイフを置き、ガルドの分厚く硬い手のひらに自分の白い指をそっと重ねた。

 ガルドは驚くことなく、その指を優しく握り返してくる。

「……今日の夕食は、あなたが森で獲ってきてくれた兎の肉を煮込みます。たくさん食べてくださいね」

「ああ。あんたの作る飯は、世界で一番うまい」

 ガルドの不器用な、けれど真っすぐな賛辞に、ルシアンの胸の奥が温かなもので満たされていく。

 かつて教会で聖職者として偽りの敬意を集めていた頃には、こんなに穏やかで満ち足りた時間が訪れることなど想像もできなかった。

 すべてを失い、辺境に追放されたからこそ、この不器用で心優しいアルファと出会うことができたのだ。

 秋の風が二人の間を通り抜け、足元の落ち葉をカラカラと鳴らして転がっていく。

 ルシアンはガルドの肩にそっと頭を乗せ、ゆっくりと目を閉じた。

 陽だまりのような温かさが、二人を包み込むように静かに広がっていた。
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