12 / 16
第11話「雪中の告白と重なる熱」
しおりを挟む
「いらっしゃいませ」
店に入ると、蓮の声がした。だが、そこには明らかな疲労の色が滲んでいた。
目の下には隈ができ、目は充血している。それでも、客に対しては誠実に、丁寧に接客していた。
客が途切れるのを待って、湊はカウンターに歩み寄った。
「……蓮さん」
蓮が顔を上げ、湊を見て目を見開いた。そして、視線が湊の後ろにあるはずの荷物を探すように彷徨う。
「……帰るんじゃ、なかったんですか」
「帰ろうとしました。でも、戻ってきました」
「なぜです」
「あなたに言いたいことがあったからです」
湊はカウンターを回り込み、工房への入り口に立った。
「昨日のこと、謝りに来ました。勝手なことをして、ごめんなさい。あなたのペースを乱して、苦しめてしまって」
湊は深々と頭を下げた。
沈黙が流れる。店内の古時計の音が、やけに大きく聞こえる。
「……頭を上げてください」
蓮の声は静かだった。
「謝らなけりゃいけないのは、俺の方です」
「え?」
「昨日の夜、記事を全部読みました。……あんなに温かい文章、初めて読みました」
蓮は照れくさそうに頬を掻いた。
「俺の菓子への想い、親父への敬意、そしてこの街への愛情……全てが詰まっていた。あなたがどれほど真剣に俺たちを見てくれていたか、痛いほど伝わりました」
「蓮さん……」
「俺は怖かったんです。急激な変化が。また何かを失うんじゃないかと、臆病になっていた。だから、あなたに八つ当たりをした。最低です」
蓮が一歩近づく。
「客が増えたのは大変ですが、食べてくれた人は皆、笑顔で帰っていきます。『美味しかった』と言ってくれます。それは、あなたが架け橋になってくれたからです。……ありがとう、湊さん」
蓮の瞳が潤んでいる。
その誠実な言葉に、湊の涙腺が決壊した。
「うぅ……良かったぁ……嫌われたかと思って……」
湊がボロボロと涙を流すと、蓮は驚いて、それから優しく抱きしめてくれた。
「嫌うわけがないでしょう。……俺は、あなたが好きです」
ドキン、と心臓が爆発しそうになった。
今、何て言った?
湊は涙に濡れた顔を上げ、蓮を見上げた。
「え、す、好きって……人として、ですか? それとも……」
「愛しています。一人の男として、あなたが必要だ」
蓮の真っ直ぐすぎる告白に、湊は顔が沸騰しそうになった。
「お、俺も! 僕も、蓮さんが好きです! 大好きです!」
湊は蓮の背中に腕を回し、しがみついた。
大きくて、温かくて、安心する匂い。小豆と砂糖の甘い香り。
「……戻らないでください。東京へ」
「戻りません。いや、たまには打ち合わせで行くかもしれないけど、拠点はここにするつもりです。編集長にもそう言って説得します」
「そうですか。……良かった」
蓮が力を込めて抱きしめ直す。骨がきしむほど強く、でも痛くはない。
「それと、相談があるんですが」
「何でしょう」
「店、人手が足りないんですよね? 僕、手伝いましょうか? ライターの仕事と兼業で、広報兼販売員として」
蓮は少し驚いた顔をして、それから今日一番の笑顔を見せた。
「それは心強い。……ですが、給料は出せませんよ? 現物支給で、売れ残りの菓子と、俺のまかない飯になりますが」
「最高じゃないですか。むしろそれがいいです」
二人は笑い合った。
窓の外では雪が激しく降り始めていたが、店内は春のような温かさに包まれていた。
その時、店の電話が鳴った。
蓮が出ようとするのを、湊が止める。
「僕が出ます。広報担当ですから」
湊は受話器を取り、明るい声で応答した。
「はい、お電話ありがとうございます。月光堂です!」
その姿を見て、蓮が満足そうに頷く。
こうして、二人の新しい関係が始まった。
恋人として、そしてビジネスパートナーとして。
硬い殻は完全に割れ、中から溢れ出した甘い蜜が、二人の未来を甘やかに彩っていく。
店に入ると、蓮の声がした。だが、そこには明らかな疲労の色が滲んでいた。
目の下には隈ができ、目は充血している。それでも、客に対しては誠実に、丁寧に接客していた。
客が途切れるのを待って、湊はカウンターに歩み寄った。
「……蓮さん」
蓮が顔を上げ、湊を見て目を見開いた。そして、視線が湊の後ろにあるはずの荷物を探すように彷徨う。
「……帰るんじゃ、なかったんですか」
「帰ろうとしました。でも、戻ってきました」
「なぜです」
「あなたに言いたいことがあったからです」
湊はカウンターを回り込み、工房への入り口に立った。
「昨日のこと、謝りに来ました。勝手なことをして、ごめんなさい。あなたのペースを乱して、苦しめてしまって」
湊は深々と頭を下げた。
沈黙が流れる。店内の古時計の音が、やけに大きく聞こえる。
「……頭を上げてください」
蓮の声は静かだった。
「謝らなけりゃいけないのは、俺の方です」
「え?」
「昨日の夜、記事を全部読みました。……あんなに温かい文章、初めて読みました」
蓮は照れくさそうに頬を掻いた。
「俺の菓子への想い、親父への敬意、そしてこの街への愛情……全てが詰まっていた。あなたがどれほど真剣に俺たちを見てくれていたか、痛いほど伝わりました」
「蓮さん……」
「俺は怖かったんです。急激な変化が。また何かを失うんじゃないかと、臆病になっていた。だから、あなたに八つ当たりをした。最低です」
蓮が一歩近づく。
「客が増えたのは大変ですが、食べてくれた人は皆、笑顔で帰っていきます。『美味しかった』と言ってくれます。それは、あなたが架け橋になってくれたからです。……ありがとう、湊さん」
蓮の瞳が潤んでいる。
その誠実な言葉に、湊の涙腺が決壊した。
「うぅ……良かったぁ……嫌われたかと思って……」
湊がボロボロと涙を流すと、蓮は驚いて、それから優しく抱きしめてくれた。
「嫌うわけがないでしょう。……俺は、あなたが好きです」
ドキン、と心臓が爆発しそうになった。
今、何て言った?
湊は涙に濡れた顔を上げ、蓮を見上げた。
「え、す、好きって……人として、ですか? それとも……」
「愛しています。一人の男として、あなたが必要だ」
蓮の真っ直ぐすぎる告白に、湊は顔が沸騰しそうになった。
「お、俺も! 僕も、蓮さんが好きです! 大好きです!」
湊は蓮の背中に腕を回し、しがみついた。
大きくて、温かくて、安心する匂い。小豆と砂糖の甘い香り。
「……戻らないでください。東京へ」
「戻りません。いや、たまには打ち合わせで行くかもしれないけど、拠点はここにするつもりです。編集長にもそう言って説得します」
「そうですか。……良かった」
蓮が力を込めて抱きしめ直す。骨がきしむほど強く、でも痛くはない。
「それと、相談があるんですが」
「何でしょう」
「店、人手が足りないんですよね? 僕、手伝いましょうか? ライターの仕事と兼業で、広報兼販売員として」
蓮は少し驚いた顔をして、それから今日一番の笑顔を見せた。
「それは心強い。……ですが、給料は出せませんよ? 現物支給で、売れ残りの菓子と、俺のまかない飯になりますが」
「最高じゃないですか。むしろそれがいいです」
二人は笑い合った。
窓の外では雪が激しく降り始めていたが、店内は春のような温かさに包まれていた。
その時、店の電話が鳴った。
蓮が出ようとするのを、湊が止める。
「僕が出ます。広報担当ですから」
湊は受話器を取り、明るい声で応答した。
「はい、お電話ありがとうございます。月光堂です!」
その姿を見て、蓮が満足そうに頷く。
こうして、二人の新しい関係が始まった。
恋人として、そしてビジネスパートナーとして。
硬い殻は完全に割れ、中から溢れ出した甘い蜜が、二人の未来を甘やかに彩っていく。
3
あなたにおすすめの小説
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる