虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん

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第11話「夜明けの誓い」

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 クロヴィス王子が連行され、エレオノーラも保護された後、教会には静寂が戻った。
 村人たちが恐る恐る様子を見にやってくる。僕たちが無事な姿を見ると、彼らは安堵の声を上げた。

「リアム、よくぞ村を守ってくれた」

 村長が僕の肩を叩いてくれた。僕はただ首を横に振る。

「僕だけの力じゃないです。アシュレイ様と、みんながいてくれたからです」

 僕の言葉にアシュレイ公爵は少し照れくさそうに顔を背けた。
 今回の事件で村は大きな被害を受けた。でも幸いなことに死者は一人も出ていない。それは不幸中の幸いだった。

「村の復興はヴァインベルク家が全面的に支援する。心配はいらない」

 アシュレイ公爵のその言葉に、村人たちから歓声が上がった。
 僕たちの戦いは終わった。でもこれからやるべきことはたくさんある。

 その夜、僕とアシュレイ公爵は村の丘の上で、二人きりで夜空を眺めていた。
 満天の星が僕たちを祝福してくれているように、きらきらと輝いている。

「……終わったんだな」

 アシュレイ公爵がぽつりと呟いた。

「はい。終わりましたね」

「リアム。俺は、お前に謝らなければならないことがある」

 彼が改まって僕に向き直る。

「俺はお前を無理やり屋敷に連れ帰り、「道具」だの「所有物」だのとひどい扱いをした。お前の気持ちも考えずに自分の都合ばかりを押し付けて……。本当にすまなかった」

 彼は僕の前にひざまずき、深々と頭を下げた。公爵である彼が、平民の僕に対して。

「やめてください、アシュレイ様! 顔を上げてください!」

 僕は慌てて彼を立たせようとする。

「僕はあなたのことを恨んでなんかいません。むしろ感謝しているんです」

「感謝?」

「はい。あなたに出会わなければ僕は自分の本当の素性を知ることも、自分の力と向き合うこともできなかった。何より……あなたを好きになることもなかった」

 僕の告白に彼は目を見開いた。
 僕は彼の冷たいと思っていた手に、自分の手を重ねた。

「あなたが僕を連れ出してくれたから、僕の世界は広がったんです。だから謝らないでください」

「……リアム」

 彼は愛おしそうに僕の名前を呼ぶと、僕の手を強く握り返した。

「お前は強くなったな」

「あなたが強くしてくれたんです」

 僕たちはどちらからともなく互いの体を寄せ合った。
 彼の胸に顔をうずめると、冬の薔薇の香りが僕を優しく包み込む。もう彼のフェロモンに怯えることはない。それは僕にとって世界で一番心安らぐ香りだ。

「リアム。俺と正式に番になってほしい」

「……はい」

「だがそのためには越えなければならない壁がある。俺たちの関係を国王陛下に認めていただかなければならない。公爵家のアルファと聖なる一族のオメガ。前代未聞の組み合わせだ。反対する者も多いだろう」

 彼の言う通り貴族社会はそんなに甘くない。僕たちの前にはまだたくさんの困難が待ち受けているはずだ。

「それでも俺はお前と共に歩んでいきたい。どんな困難も二人でなら乗り越えられると信じている」

「僕も同じ気持ちです」

 僕は彼の胸から顔を上げた。そして彼の紫水晶の瞳をまっすぐに見つめる。

「僕、もう逃げません。自分の運命からもあなたへの気持ちからも。あなたと一緒に未来を作っていきたいです」

 僕の決意に彼は優しく微笑んだ。それは僕が今まで見た彼のどの笑顔よりも、穏やかで幸せそうな笑顔だった。
 彼はゆっくりと僕の顔に自分の顔を近づけてくる。
 僕はそっと目を閉じた。
 そして僕たちの唇が、初めて優しく重なり合った。
 それは夜明けの空のように、どこまでも澄み切った誓いのキスだった。
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