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第13話「夜明けに咲く愛の花」
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戒吏さんが皇コンツェルンの全権を掌握してから、僕たちの周りには、嘘のように穏やかな時間が流れるようになった。
西園寺家はコンツェルンとの取引を全て打ち切られ、没落の一途を辿っていると聞いた。戒吏さんに反旗を翻した役員たちも、全員がその地位を追われたらしい。
冷酷だ、と言う人もいるかもしれない。でも、それは彼が僕という唯一の番を守るために下した、『黒曜のアルファ』としての決断なのだ。僕は、そんな彼の全てを受け入れたいと思った。
そして、僕たちにとって、何より嬉しい知らせが舞い込んだ。
海外から招かれた最高の医療チームによる治療が功を奏し、雫が、ついに退院できることになったのだ。
退院の日、僕と戒吏さんは、二人で病院へ雫を迎えに行った。
久しぶりに外の空気を吸う彼女は、少し眩しそうに目を細めながらも、満面の笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃん、皇さん! 本当にありがとう!」
「良かったな、雫」
「雫ちゃん、退院おめでとう。これからは、無理をしてはいけないよ」
戒吏さんは、すっかり『優しいお兄さん』の顔で、雫の頭をそっと撫でた。
その光景が、なんだか微笑ましくて、僕も自然と笑顔になる。
雫は、当面の間、僕たちが住むマンションのゲストルームで暮らすことになった。
病み上がりなので、一人暮らしはまだ不安だという戒吏さんの配慮だった。
最初は「そんな、申し訳ないよ!」と恐縮していた雫も、戒吏さんの「君は、湊の大切な妹だ。つまり、俺にとっても、家族同然だ」という言葉に、涙ぐんでうなずいていた。
三人での生活は、賑やかで、温かいものだった。
広いリビングから僕と雫の笑い声が聞こえてくるのを、戒吏さんはいつもソファに座って、優しい目で見守っていた。
時々、雫が「皇さんってお兄ちゃんのこと大好きだよねー」なんてからかうと、彼は決まって「当然だ」と真顔で答え、僕が顔を真っ赤にする、というのがお決まりのパターンになっていた。
そんなある晴れた日。
僕は、戒吏さんに一つの提案をした。
「あの……また、花屋さんで働きたい、です」
このマンションでの生活は、何不自由なく幸せだ。でも、僕は、自分の手で何かを生み出す喜びを、もう一度感じたかった。花に触れている時の、あの穏やかな時間が、好きだったのだ。
僕の言葉に、戒吏さんは少しだけ、眉を寄せた。
僕の身体を心配しているのだろう。月魄のオメガである僕が、外で働くことのリスクを。
「……もちろん、無理はしません。それに、あなたに守られているだけじゃなくて、僕も、あなたを支えたいんです。僕が僕らしくいられる場所で」
僕が真剣な目で訴えると、彼は長い沈黙の後、ふっと息を吐いて微笑んだ。
「……分かった。だが、条件がある」
彼が提示した条件は、こうだった。
僕が以前働いていた、あの路地裏の小さな花屋『フルール・コパン』。あのお店を、皇コンツェルンが丸ごと買い取り、改装して、僕をそこのオーナー店長にする、というものだった。
もちろん、セキュリティは万全にし、僕の体調を管理するスタッフも常駐させる、と。
スケールが大きすぎて、呆気に取られてしまったけれど、彼なりの最大限の譲歩と愛情なのだと分かった。
こうして、僕の新しい日常が始まった。
新しい『フルール・コパン』は、以前の面影を残しつつも、陽光がたっぷりと差し込む、お洒落な店に生まれ変わった。
僕は、オーナーとして、毎日たくさんの花に囲まれて働いた。
時々、戒吏さんがふらりと店に顔を出す。スーツ姿の彼が、僕の作った小さなブーケを照れくさそうに受け取る姿は、すっかり店の名物になっていた。
全ての障害が取り除かれ、僕たちの前には、どこまでも穏やかで、幸せな未来だけが広がっている。
あの日、雨の日に出会った、孤独な月と絶対者。
二つの魂は、ようやく安住の地を見つけたのだ。
夜明けの光の中で、僕たちの愛の花は、今、満開に咲き誇っていた。
西園寺家はコンツェルンとの取引を全て打ち切られ、没落の一途を辿っていると聞いた。戒吏さんに反旗を翻した役員たちも、全員がその地位を追われたらしい。
冷酷だ、と言う人もいるかもしれない。でも、それは彼が僕という唯一の番を守るために下した、『黒曜のアルファ』としての決断なのだ。僕は、そんな彼の全てを受け入れたいと思った。
そして、僕たちにとって、何より嬉しい知らせが舞い込んだ。
海外から招かれた最高の医療チームによる治療が功を奏し、雫が、ついに退院できることになったのだ。
退院の日、僕と戒吏さんは、二人で病院へ雫を迎えに行った。
久しぶりに外の空気を吸う彼女は、少し眩しそうに目を細めながらも、満面の笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃん、皇さん! 本当にありがとう!」
「良かったな、雫」
「雫ちゃん、退院おめでとう。これからは、無理をしてはいけないよ」
戒吏さんは、すっかり『優しいお兄さん』の顔で、雫の頭をそっと撫でた。
その光景が、なんだか微笑ましくて、僕も自然と笑顔になる。
雫は、当面の間、僕たちが住むマンションのゲストルームで暮らすことになった。
病み上がりなので、一人暮らしはまだ不安だという戒吏さんの配慮だった。
最初は「そんな、申し訳ないよ!」と恐縮していた雫も、戒吏さんの「君は、湊の大切な妹だ。つまり、俺にとっても、家族同然だ」という言葉に、涙ぐんでうなずいていた。
三人での生活は、賑やかで、温かいものだった。
広いリビングから僕と雫の笑い声が聞こえてくるのを、戒吏さんはいつもソファに座って、優しい目で見守っていた。
時々、雫が「皇さんってお兄ちゃんのこと大好きだよねー」なんてからかうと、彼は決まって「当然だ」と真顔で答え、僕が顔を真っ赤にする、というのがお決まりのパターンになっていた。
そんなある晴れた日。
僕は、戒吏さんに一つの提案をした。
「あの……また、花屋さんで働きたい、です」
このマンションでの生活は、何不自由なく幸せだ。でも、僕は、自分の手で何かを生み出す喜びを、もう一度感じたかった。花に触れている時の、あの穏やかな時間が、好きだったのだ。
僕の言葉に、戒吏さんは少しだけ、眉を寄せた。
僕の身体を心配しているのだろう。月魄のオメガである僕が、外で働くことのリスクを。
「……もちろん、無理はしません。それに、あなたに守られているだけじゃなくて、僕も、あなたを支えたいんです。僕が僕らしくいられる場所で」
僕が真剣な目で訴えると、彼は長い沈黙の後、ふっと息を吐いて微笑んだ。
「……分かった。だが、条件がある」
彼が提示した条件は、こうだった。
僕が以前働いていた、あの路地裏の小さな花屋『フルール・コパン』。あのお店を、皇コンツェルンが丸ごと買い取り、改装して、僕をそこのオーナー店長にする、というものだった。
もちろん、セキュリティは万全にし、僕の体調を管理するスタッフも常駐させる、と。
スケールが大きすぎて、呆気に取られてしまったけれど、彼なりの最大限の譲歩と愛情なのだと分かった。
こうして、僕の新しい日常が始まった。
新しい『フルール・コパン』は、以前の面影を残しつつも、陽光がたっぷりと差し込む、お洒落な店に生まれ変わった。
僕は、オーナーとして、毎日たくさんの花に囲まれて働いた。
時々、戒吏さんがふらりと店に顔を出す。スーツ姿の彼が、僕の作った小さなブーケを照れくさそうに受け取る姿は、すっかり店の名物になっていた。
全ての障害が取り除かれ、僕たちの前には、どこまでも穏やかで、幸せな未来だけが広がっている。
あの日、雨の日に出会った、孤独な月と絶対者。
二つの魂は、ようやく安住の地を見つけたのだ。
夜明けの光の中で、僕たちの愛の花は、今、満開に咲き誇っていた。
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