料理の腕を奪われたΩの俺が、運命の番であるスパダリαな次期当主様に見初められ、国の運命を懸けた神聖な恵方巻を作って奇跡を起こす。

水凪しおん

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第5話「番の証」

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 柔らかな布団の上で、俺はゆっくりと意識を取り戻した。
 障子窓から差し込む朝の光が、部屋を淡く照らしている。昨夜の嵐のような熱が嘘のように、体は驚くほどすっきりとしていた。隣に目をやると、暁が穏やかな寝顔で眠っている。彼のたくましい腕が、俺の腰をしっかりと抱いていた。

『……本当に、そうなってしまったんだ』

 昨夜の記憶が、鮮明に蘇る。
 ヒートの熱に浮かされ、暁に求められるままに体を重ねた。最初は恐怖と戸惑いでいっぱいだったけれど、暁はどこまでも優しかった。俺の体を慈しむように触れ、何度も名前を呼び、愛をささやいてくれた。彼の深い愛情に包まれるうち、俺の体も心も、喜んで彼を受け入れていた。

 そして、夜が明ける前。暁は俺のうなじに、深く歯を立てた。
 それは、αがΩを己の所有物だと示す、生涯消えることのない「番」の証。痛みよりも、満たされていくような強烈な多幸感が俺を貫いた。俺たちは、運命の番になったのだ。

 暁の寝顔を見つめる。眠っている時の彼は、普段の近寄りがたい雰囲気が嘘のように、どこか無防備で年相応に見えた。するり、と彼の頬に指先で触れると、ん、と暁が身じろぎ、ゆっくりと瞼を開いた。

 目が合う。射抜くような黒い瞳が、間近で俺を捉えた。

「……起きたか」

 掠れた声に、心臓が跳ねる。俺は慌てて体を起こそうとしたが、腰を抱く暁の腕に力がこもり、阻まれた。

「伊吹」

 暁は俺の髪を優しく撫でながら、真剣な眼差しで口を開いた。

「昨夜は……すまなかった。俺は、お前の意思を無視して……」

「ち、違います!」

 俺は彼の言葉を遮るように、首を横に振った。

「俺も……嬉しかった、から。暁さんと、番になれて……」

 言い終えると、顔に熱が集まるのがわかった。恥ずかしくて、暁の胸に顔をうずめる。すると、暁は俺の体をさらに強く抱きしめた。彼の心臓の音が、どくどくと力強く伝わってくる。

「……伊吹。俺の、俺だけの番になってくれるか」

 それは、命令でも懇願でもない、真摯な問いかけだった。俺はこの人となら、未来を共にしたいと心の底から思った。

「……はい」

 小さな声で頷くと、暁は安堵したように息を吐いた。そして、俺の顎に手を添えて上を向かせると、唇に柔らかなキスを落とした。

「改めて、お前に頼みたい。福の作り手になってほしい。だが、今度は俺のためだ。俺の番として、共に儀式に臨んでほしい」

 俺のため。その言葉が、胸に温かく響く。
 この人のためなら。この人が隣にいてくれるなら、俺はどんな困難にも立ち向かえるかもしれない。あれほど恐れていた過去のトラウマも、乗り越えられる気がした。

「……やります。俺、福の作り手になります。暁さんのために、最高の福巻きを作ります」

 俺がそう答えると、暁の顔がぱっと輝いた。それは、俺が初めて見る、彼の心からの笑顔だった。その笑顔に、俺は再び心を奪われる。

 番の証が刻まれたうなじが、じんわりと熱を持った。
 これは、新しい人生の始まりの証。
 暁と共に歩む、未来への誓い。
 俺は暁の胸にもう一度顔をうずめ、この温かな幸せを噛みしめていた。
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