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第6話「強欲の影と誘拐」
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事態は急速に悪化した。
脅迫してきた男たちは、『黒い蛇』と呼ばれる密売組織のメンバーだった。彼らはルカの抑制剤を解析し、量産して高値で売りさばこうと目論んでいたのだ。
ルカが拒否し続けると、嫌がらせが始まった。
店の窓ガラスが割られ、倉庫の薬草が燃やされた。
スラムの住人たちも、組織の報復を恐れてルカに近づかなくなった。
孤立無援。
ルカは店を畳んで逃げる決意をした。
最低限の荷物をまとめ、雨の深夜、裏口からこっそりと抜け出した。
クラウスが密かにつけていた見張りの騎士たちも、この激しい嵐とルカの土地勘にはついてこれなかったようだ。
しかし、それは相手の思う壺だった。
「待ちくたびれたぜ、先生」
路地の暗がりから、数人の男たちが現れた。
「っ!」
ルカは駆け出そうとしたが、病み上がりの体では足がもつれた。
背後から羽交い締めにされ、鼻と口に布を押し当てられる。
甘い薬品の臭い。
(クロロホルム……!)
意識が遠のく中、ルカは泥水の中に落ちていく自分の視界の端に、あの日クラウスが忘れていったハンカチが落ちるのを見た。
「クラウ……ス……」
声にならない呼び声は、雨音にかき消された。
目が覚めると、ルカは石造りの地下室にいた。
手足は鎖で壁に繋がれ、身動きが取れない。
目の前には、豪奢な服を着た太った男が椅子に座っていた。組織のボスらしい。
「やあ、目が覚めたかね。素晴らしい才能を持つ薬師殿」
「……何のつもりだ」
「レシピを吐いてもらおうと思ってね。君の薬は宝の山だ。オメガを自在に操れる薬なんて、貴族どもが喜んで大金を払う」
「断る……あんな薬、広まったら不幸なオメガが増えるだけだ」
ルカが睨みつけると、ボスは楽しそうに笑った。
「正義感がお強いことだ。だが、君自身の体はどうかな?」
ボスが指を鳴らすと、部下がルカに近づき、無理やり口を開けさせて何かを飲ませた。
「ぐっ……!」
飲まされたのは、発情を促進させる媚薬だった。
「君が飲んでいる抑制剤の効果を打ち消す薬だ。さあ、どうなるかな?」
数分もしないうちに、ルカの体に異変が起きた。
体中が熱い。血が沸騰するようだ。
今まで強力な薬で抑え込んでいた反動が一気に押し寄せてきた。
「はぁ、あっ、ぐぅ……!」
ルカは鎖をガチャガチャと鳴らして身をよじった。
部屋中に、甘く濃厚なオメガのフェロモンが充満していく。それは熟れた果実のような、抗いがたい誘惑の香りだった。
「ほほう、これは上玉だ。ベータだと思っていたが、まさかこんな極上のオメガだったとは」
ボスが下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。
「レシピを教えないなら、体で稼いでもらおうか。この香りなら、高く売れる」
「やめ……ろ、触るな……!」
ルカは必死に首を振ったが、体に力が入らない。
視界が霞む。思考が溶けていく。
誰でもいい、抱いてくれと本能が叫んでいる。
(いやだ、クラウス以外のアルファなんて、死んでもいやだ)
絶望の淵で、ルカは愛する男の名前を心の中で叫び続けた。
その時だった。
ドォォォォン!!
凄まじい爆音が響き、地下室の扉が吹き飛んだ。
土煙と瓦礫の中から現れたのは、蒼い炎のようなオーラを纏った、一人の騎士だった。
「……そこまでだ、外道ども」
地獄の底から響くような、怒りに満ちた声。
クラウスだった。
彼は剣を抜き放ち、鬼のような形相で部屋に踏み込んできた。
脅迫してきた男たちは、『黒い蛇』と呼ばれる密売組織のメンバーだった。彼らはルカの抑制剤を解析し、量産して高値で売りさばこうと目論んでいたのだ。
ルカが拒否し続けると、嫌がらせが始まった。
店の窓ガラスが割られ、倉庫の薬草が燃やされた。
スラムの住人たちも、組織の報復を恐れてルカに近づかなくなった。
孤立無援。
ルカは店を畳んで逃げる決意をした。
最低限の荷物をまとめ、雨の深夜、裏口からこっそりと抜け出した。
クラウスが密かにつけていた見張りの騎士たちも、この激しい嵐とルカの土地勘にはついてこれなかったようだ。
しかし、それは相手の思う壺だった。
「待ちくたびれたぜ、先生」
路地の暗がりから、数人の男たちが現れた。
「っ!」
ルカは駆け出そうとしたが、病み上がりの体では足がもつれた。
背後から羽交い締めにされ、鼻と口に布を押し当てられる。
甘い薬品の臭い。
(クロロホルム……!)
意識が遠のく中、ルカは泥水の中に落ちていく自分の視界の端に、あの日クラウスが忘れていったハンカチが落ちるのを見た。
「クラウ……ス……」
声にならない呼び声は、雨音にかき消された。
目が覚めると、ルカは石造りの地下室にいた。
手足は鎖で壁に繋がれ、身動きが取れない。
目の前には、豪奢な服を着た太った男が椅子に座っていた。組織のボスらしい。
「やあ、目が覚めたかね。素晴らしい才能を持つ薬師殿」
「……何のつもりだ」
「レシピを吐いてもらおうと思ってね。君の薬は宝の山だ。オメガを自在に操れる薬なんて、貴族どもが喜んで大金を払う」
「断る……あんな薬、広まったら不幸なオメガが増えるだけだ」
ルカが睨みつけると、ボスは楽しそうに笑った。
「正義感がお強いことだ。だが、君自身の体はどうかな?」
ボスが指を鳴らすと、部下がルカに近づき、無理やり口を開けさせて何かを飲ませた。
「ぐっ……!」
飲まされたのは、発情を促進させる媚薬だった。
「君が飲んでいる抑制剤の効果を打ち消す薬だ。さあ、どうなるかな?」
数分もしないうちに、ルカの体に異変が起きた。
体中が熱い。血が沸騰するようだ。
今まで強力な薬で抑え込んでいた反動が一気に押し寄せてきた。
「はぁ、あっ、ぐぅ……!」
ルカは鎖をガチャガチャと鳴らして身をよじった。
部屋中に、甘く濃厚なオメガのフェロモンが充満していく。それは熟れた果実のような、抗いがたい誘惑の香りだった。
「ほほう、これは上玉だ。ベータだと思っていたが、まさかこんな極上のオメガだったとは」
ボスが下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。
「レシピを教えないなら、体で稼いでもらおうか。この香りなら、高く売れる」
「やめ……ろ、触るな……!」
ルカは必死に首を振ったが、体に力が入らない。
視界が霞む。思考が溶けていく。
誰でもいい、抱いてくれと本能が叫んでいる。
(いやだ、クラウス以外のアルファなんて、死んでもいやだ)
絶望の淵で、ルカは愛する男の名前を心の中で叫び続けた。
その時だった。
ドォォォォン!!
凄まじい爆音が響き、地下室の扉が吹き飛んだ。
土煙と瓦礫の中から現れたのは、蒼い炎のようなオーラを纏った、一人の騎士だった。
「……そこまでだ、外道ども」
地獄の底から響くような、怒りに満ちた声。
クラウスだった。
彼は剣を抜き放ち、鬼のような形相で部屋に踏み込んできた。
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